Squall


 熱帯気候の惑星はスコールが多い。
 アンジェリークも何度見舞われたか判らない。
 が、そんなことを気にしていたのでは、何も出来ない。
 アンジェリークは、降られた時は近くの小屋に逃げ込めばいい。
 そんな気分で、海岸で貝殻を拾っていた。
 「これ、レイチェル似合うかなあ・・・」
 今日は、新宇宙で帰りを待ってくれている親友の補佐官のために、彼女に似合う貝殻を探している。
 これを後でメルに加工してもらうのだ。
 このプランを話した時、メルは二つ返事で受けてくれた。
 元々このプランを考え付いたのは、他ならぬアリオスだった。
 アンジェリークが露店で、お土産にする親友のアクセサリーを選んだときに、言ってくれたのである。
 『宇宙の危機に土産の心配するなんて、全くおまえらしい』と、笑いながら。

 いつも口は悪いけれど、知ってるもん・・・。
 アリオスは本当は凄く優しいことを…。
 ・・・だから好きなんだけど…

 ここまで思って、アンジェリークは顔を真っ赤にさせる。
 ”好き”
 これは特別な意味を持つ言葉。
 アンジェリークはきょろきょろと周りの様子を伺ってから、海に向かって小さく呟く。
「アリオス・・・大好き…」
 言ってしまった後火が出るほど顔が真っ赤になり、「うぎゃ〜」と叫んでしまいたくなる。
「あ、はは。バカなことしてないで、レイチェルに渡す貝殻を選ばなくっちゃ…!!」
 一生懸命砂浜を探して、同じような形の綺麗な貝殻が見つかったので、ひとまずは切り上げることにした。
「これをメルさんに渡して加工してもらおうっと!!」
 立ち上がって空を見てみると、雲ゆきが微妙に怪しくなっている。
 スコールが近い。
 海岸から世話になっている家に、アンジェリークは走って向かう。
「降らなきゃいいけどな…」
 言った先、突然、大量のスコールが降ってきた。
「たいへんっ!!」
 幸い、後数メートルだったので、アンジェリークは少し濡れただけで、家にたどり着くことが出来た。
「よかった!!」
 濡れた躰を軽くタオルで拭いた後、アンジェリークはふと外を見つめた。
「アリオス…」
 アリオスもまたスコールに降られてこちらに駈けてきている。
「傘、傘!!」
 近くにあった傘を手にとって、アンジェリークは慌てて外に出て行った。
「アリオスっ!!」
 走りながらアンジェリークは、彼の名前を大きな声で一生懸命呼んで、近づいて行く。
「アンジェリーク」
「は、アリオス、傘。濡れるよ?」
「ああ」
 差し出された傘に、アリオスは喉を鳴らして苦笑する。
「今更だぜ? アンジェリーク。俺はもうここまで濡れちまってるんだからな?」
「あ・・・」
 考えてみればそうだ。
 見つけたとき彼は既にスコールに降られてずぶ濡れだったのだから。
「・・・そうよね・・・」
 しゅんと肩を落とす仕草が可愛くて仕方がない。
 アリオスは濡れた銀の髪をかき上げながら、フッと優しい微笑を浮かべた。
「・・・サンキュ」
 途端に、アンジェリークの表情が一気に晴れ上がり、愛らしいものとなる。
 その表情がとても愛らしく、アリオスは胸を突かれる思いがした。
 真っ直ぐと天使はアリオスの心の中に光となって入り込んでくる。
 明るければ明るいほど、切なく、胸を切り裂かれる。

俺は闇と契約をしたはずなのに・・・

「アリオス?」
 心配そうな声で呼ばれて、彼ははっとする。
「どうしたの?」
 純粋なまなざしが彼の心を捉えて離さない。

 アンジェリーク…!!!

「あっ…!!」
 突然抱き締められて、一瞬何が起こったか判らなかった。
 ただ、濡れた布を通して、アリオスの熱が伝わってくるだけ。

 アリオス…

 愛しかった。
 狂惜しいほど愛しかった。
 自分とは対極の場所に居る彼女が、好きで好きで堪らなかった。
 愛しさのあまり、ぎゅっと腕に力が込められる。

「アリオス…、苦しい…」
 アンジェリークの甘くも切ない声に、アリオスははっと我に帰った。
「すまねえ・・・」
「ううん・・・」
 直ぐに離れていったアリオスの温かさが、アンジェリークには切なくてたまらなかった。 
 彼は一瞬思い詰めたような眼差しでアンジェリークを見つめると、傘から駆け出す
「アリオス!?」
 突然の彼の行動にアンジェリークは困惑した。
「・・・頭、冷やしてくる・・・」
「アリオス!!」
 そのままスコールの中に飛び込んでいく彼を、アンジェリークは切ない気分で見送る。

 なにがあったの?

 躰をぎゅっと抱き締めてみる。
 まだ彼が抱き締めてくれたあの熱が、残っているような気がした-------


 アンジェリーク…。
 俺たちは対極な立場にある・・・。
 どうあがいても相容れない・・・、きっと・・・

 スコールを全身に浴びながら、アリオスは切なげに空を見つめる。
 アリオスの複雑な思いは、スコールによっても洗い流されなかった-------

コメント

久々「天空」です。
一寸暗めなのを書きたかったので〜。

モドル