もうすぐ・・・、ホワイトデーか・・・。 カレンダーを見ながら、アンジェリークはしみじみと思う。 ウ゛ァレンタインデーに告白して、見事に実のってから三週間余り。 ここまではとんとん拍子にコトが運んだ、というか、アリオスの手が早かったというか、既に躰で愛を伝え合う関係になっている。 今も彼の部屋にいて、愛し合ったところだ。 カレンダーの横には、アンジェリークがプレゼントをした、りっぱなスルメが飾ってあり、それが心を和ませてくれた。 横にいて煙草を吸う彼とするめを交互に見やる。 やっぱり、すごく素敵だなあ・・・。アリオスって、世界で一番するめの似合う男だわ。 ふたりが結婚したら、その夜にあのするめを炙って食べるの! 凄くロマンティック・・・。 いつになるか判らないけれど、まあ、するめは干してあるから、腐らないだろうしね? ふたりの記念だもん・・・。 「何、考えているんだ?」 「きゃっ!」 甘く低く耳元づ囁かれ、アンジェリークは僅かに躰を震わせる。 愛し合った後のむき出しの素肌を抱き締められると、甘い声を漏らしてしまう。 「アリオス・・・」 「俺以外の男のことを考えていたら、お仕置だぜ?」 「違うもん!!」 はにかんで俯いた後、アンジェリークはアリオスの胸に凭れた。 「そんなんじゃ、ないもん・・・。もうすぐホワイトデーだなって、思ってたの・・・」 「そうだな・・・。欲しいもんはあるか?」 途端にアンジェリークの表情は明るいものになる。 「買ってくれるの?」 「アンケートだ、単なる」 彼はあっさりと言うが、アンジェリークはすっかりその気になっていた。 「・・・作業服が欲しい・・・」 「はあ?」 またもや、天然アンジェリークの奇妙なおねだりに、アリオスは開いた口が塞がらないといったかんじだ。 「何で、んなもん欲しがるんだよ?」 「・・・だって・・・」 少し俯き加減になると、アンジェリークは耳まで真っ赤になる。 「・・・ペアルック、したいんだもん・・・」 彼がそんなことを嫌がるのは知ってはいたが、言わずにはいられなかった。 それに作業着だったら自然だとも思う。 「あのな」アリオスは大きな溜め息を吐くと、アンジェリークの華奢な躰を抱き締める。 「よりによって、何でそんなもんなんだよ? もっと、ブレスレットとかチョーカーとかねえのかよ?」 「・・・だって、作業着カッコいいもの・・・。アリオスとぱりっと一緒にしたいもの!」 アンジェリークは上目遣いでねだるような眼差しをアリオスに向けた。 きっぱりと宣言されて、アリオスは正直驚いた。 普通ならそのような現場は、女の子が行くような場所ではない。 「もうすぐ春休みだし、アリオスのお手伝いをしたいの!! だったら一緒にいられるし…」 恋人の熱意には、やはりめろめろな彼は弱い。 「この胸のところに”アルウ゛ィース設計事務所”って刺繍があって、もう、それを一緒に着られるだけでも最高なの!」 うっとりとしている恋人に、アリオスは負けたとばかりにフッと笑う。 本当にどんなことでもかわいい音思えてしまう恋人は、罪な存在だ。 「おまえ、マジ可愛いよな?」 「アリオス・・・」 真っ赤になりながら、アンジェリークは俯いてしまった。 「まあ、一応、聞いておいてやるよ。おまえの願いだからな」 髪をくしゃりとされるのが、とても気分が良い。 彼女はアリオスに甘えながら、幸せそうに笑った。 「ねぇ、ホワイトデーってアンジェんところはどうするの?」 昼食時にレイチェルに訊かれ、アンジェリークは真っ赤になりながら親友を見る。 「作業着のペアルックをしてもらうの!」 これにはレイチェルもびっくりとばかりに口を開ける。 そんなペアルックは今までに訊いたことも見たこともなかったから。 「アリオスとね、お揃いの服を着て、春休みにはお手伝いをするの! これだったら、毎日逢えるでしょう!」 純粋なアンジェリークの気持ちに、レイチェルは心洗われる気分になる。 アンジェは一生懸命、純粋に恋をしてる。 それがとても可愛くて、同時に羨ましくもある。 アンジェがどうやって世界を見ているか、彼女になってみてみたい気分になる・・・。 「だったら、ホワイトデーの作業着も判るよ」 「うん! アリオス、これから忙しくてあんまり逢えないから、逆にくっついちゃおって思ったの。でも、作業着ペアルックも嬉しいし、それにお弁当も一緒に食べられるもん!」 手伝うと言っても、アンジェリークはピクニック気分のようだ。 それが微笑ましく思えてしまうのも、アンジェリークのかわいい性格のなせる技だ。 「プレゼントはそれで、デートはどうするの?」 「うん。アリオスのマンションでまったりかも。年度末で忙しいらしいから。だけど、逢えればそれで嬉しいの」 本当にそ心からう思っているのが、アンジェリークの瞳の輝きを見れば判った。 レイチェルは、輝くような笑顔を向ける彼女を見ると、とても幸せに思う。 「ホワイトデーが楽しみね」 「うん!」 夢見る夢子のアンジェリークは、幸せな想像を浮かべながら、大きく頷いた。 ホワイトデー当日に、アンジェリークは奥様よろしくアリオスのために夕食を準備する。 本来ならば逆なのだが、アリオスが設計の仕事にかかりきりなので、忙しいせいもあった。 まだ寒さが幾分かあるので、彼の好きな温かなシチューを作る。 準備万端整えたら、アリオスを待つだけだ。 テレビを見たりして時間を潰し、ようやく彼が戻ってきたのは八時前だった。 これでも彼にしてはかなりの努力の結果だった。 「お帰りなさい、アリオス」 「ああ、ただいま」 新婚のように、アリオスはアンジェリークにキスをする。 その瞬間にも幸せが溢れる。 「すまねえな? おまえに夕食作らせちまって」 「いいの。今日も頑張ってきてくれたの判ってるから」 優しく微笑んで、アリオスに甘えた。 「おまえのご所望の作業服を持ってきてやったから。後で着てみろよ?」 「うん! アリオスだから大好き!」 アンジェリークは嬉しくて思わず飛び跳ねてしまった。 「後で着てみろよ」 「うん!!」 本当に嬉しいとばかりに、渡された作業着の入った袋を抱きしめる彼女に、彼は目を細める。 こんなに喜んでくれたんだったら、仕立てたかいはあったな? 「ほら飯くっちまおうぜ?」 「うん!!」 二人は、ホワイトデーの甘い夕食をゆったりと、初々しくも楽しんだ。 「じゃあ、作業着着てくるね?」 「ああ」 夕食後、もう逸る心を抑えきられないとばかりに、アンジェリークは奥の寝室に消えて、ぱたぱたと着替える。 袋から出すなり、アンジェリークのご所望通りに、胸元には”アルヴィース設計事務所”しかも、コレットと書かれた、名札まで付いている。 わ〜ん!!! 嬉しいよ!!! 着てみるとサイズも丁度良くて、彼女は益々満足をする。 「あれ、胸ポケットに何か入ってる…」 彼女は不思議そうに胸ポケットを探り、中に入っている物を取り出した瞬間、言葉を失ってしまった。 「アリオス!!!」 リビングのソファに座りわざとらしく煙草を吸っていると、予想通りに恋人がばたばたとにぎやかな音を立ててやってきた。 彼の姿を見るなり、背後からぎゅっと抱きついてくる。 その左薬指には、きらりと光るアクアマリンとダイヤの指輪が光っていた。 「…有り難う、アリオス…」 嬉しすぎて泣けてくる。 「アンジェ、隣に座れよ」 「うん」 後ろにいたアンジェリークは、素直に彼の隣にちょこんと腰を下ろし、潤んだ瞳でアリオスを捕らえた。 「有り難う…! すごく嬉しかったの!!」 「似合ってるぜ?」 アリオスは、頬をぬらす涙を指でそっと掬ってやる。 「どっちが?」 「両方」 彼はそれだけ湯と、アンジェリークの甘い唇を奪った。 優しく情熱的に、時には烈しく深く。 「------愛してる…。これからもずっとだ…。その約束の証だ」 「アリオス…」 かわいい作業着姿のアンジェリークを抱き上げると、アリオスはベッドルームに運ぶ。 そこからは、二人だけの甘い、甘い時間が待っている------------ |
コメント ヴァレンタイン創作「SWEET VALENTINE」の続きです。 相変わらず幸せそうな二人です。 ですが、このアンジェ。 すごくずれてますね(笑) |