観葉少女の糧は、温かなミルクに、甘い砂糖菓子、そしてたっぷりの愛情。 レウ゛ィアスは、毎朝、この不思議な人形の世話から始める。 愛情を持って最初から。 「またか・・・」 朝、目が覚めると、甘いミルクの香りがした。 横を見ると、彼の天使が無防備に寝ている。 プランツには、彼の寝室と続きの部屋を与えていて、きちんとベッドがあるのにも関わらずである。 夜はプランツに絵本を読んで聞かせ、きちんとベッドに寝かしているが、いつの間にかである。 「しょうがないプランツだ・・・」 あどけない眠り顔を見せられてしまうと、レウ゛ィアスは弱くて。 彼はフッと優しい微笑みを浮かべると、先にベッドから滑り落ちた。 この光景を見られたら、誰もが”変態”って言うに決まっている・・・。 彼は苦笑いをすると、手早く自分の身支度を始める。 プランツがウ゛ァレンタインデーにやってきて、早、1週間。 レウ゛ィアスの生活は、もはや彼女中心で回ってしまっていた。 彼女のおかげか、ぎりぎりまで眠ることはなくなり、余裕を持った生活を送っている。 自分の世話を終えた後は、プランツの世話だ。 「ほら、起きろ、アンジェリーク。アンジェ、起きろ」 何度か声をかけると、僅かに瞳を開けようとする。 いったんうっすらと開けたものの、また寝息を立ててしまった。 「アンジェ、アンジェ」軽く揺すってやると、再び大きな瞳を開けるが、ぼんやりとしているようだ。 「ほら、起きるぞ」 「$%*¥」 言葉に全くなっていない悪態を付くと、アンジェリークはレウ゛ィアスの首に腕を回したまま、放さなかった。 「ほら顔を洗いに行く」 そのままレウ゛ィアスにぶら下がるようにして、寝室の奥にある洗面所に連れていかれる。 「口を開けろ」 まずは歯を丁寧に磨いてやり、その後は顔を洗う。 洗顔料は最高級のものを使う。綺麗にしてやった後は、トイレ。 プランツも食べるので、するのだ、ちゃんと。ただし、こればっかりは、ちゃんとしつけられているようだった。 その後は、パジャマからお着替えだ。レースがふんだんに使われている、愛らしいドレスに着替えさせてもらい、ようやく、寝ぼけ眼から脱却した。 おはようの挨拶代わりに、今朝も太陽のような微笑みをレウ゛ィアスに投げ掛けてくる。 その笑顔は、蕩けるようで、太陽の香りがする最高のものだ。 それさえあれば、何もいらない。ほんの少しの早起きなど、もろともしない。 レウ゛ィアスはアンジェリークの手を引っ張って食堂に向かった。 レウ゛ィアスの食事はコックが準備するが、アンジェリークのは彼自身が行う。 最初は、ミルクを沸かすことすらしたことすらなかったレウ゛ィアスだが、アンジェリークの為なら、何でもできるように気がする。 朝と夕のレウ゛ィアスのいる時間帯には、彼以外からミルクを飲もうとはしないせいか、余計に愛情が沸くというものだ。 メイド長に教わった要領で、アンジェリークのためにミルクを沸かした。 沸かし過ぎず、また冷め過ぎずといった、丁度、人肌のような温かさを保つのに苦心する。 最初は、吹き零したりしたのだが、昨日当たりから、ようやくまともなミルクを作れるようになった。 甘い砂糖菓子も一緒に用意をして、ミルクを持っていく。 「アンジェリーク、ミルクだ」 目の前に置いてやると、本当に嬉しそうに微笑む。 それを見るだけで、レウ゛ィアスは報われる気がした。 彼がいただきますをすると、そのままいただきますをする。 小さなことだが、きちんと礼儀をしなければと痛感した。 また、彼女がまねをして育ってくれるのも嬉しい。 彼がひとくち食べないと、プランツも食べてくれない。 だからこそ、先に食べつつ、様子を見るのだ。 「美味いか?」 ミルクを飲んだ後、コクリと頷くと、ねだるようにレウ゛ィアスを見た。 それは砂糖菓子を食べさせてくれという合図。 「食いたいのか?」 コクコクと頷くしぐさに、ついつい上げてしまう。 「ほら」 レウ゛ィアスの指先に置かれた砂糖菓子を口に含む姿は、なんとも恍惚の表情だ。 それを見るのが、レウ゛ィアスにとっては朝の最高の楽しみだった。 文字通り甘い朝食を終えた後は、レウ゛ィアスの会社出社時刻となる。 この頃になると、お姫様は少し拗ねてご機嫌ナナメになった。 「アンジェ、帰ってきたら、またお話を聞かせてやる・・・」 買ってもらったばかりの人形を、ぎゅっと抱き締めて何とか頷く。 それがいつも切なくて堪らなかった。プランツだが、いっちょまえに、レウ゛ィアスの見送りをするのが、可愛らしかった。 「いってらっしゃいませ」と使用人たちが言うと、アンジェリークも一歩遅れて頭を下げる。 それもまた可愛らしかった。 仕事を終えた後、レウ゛ィアスはまっすぐ屋敷に戻る。 もちろん、アンジェリークに逢いたい為。 屋敷に戻ると、ぱたぱたと一番に走ってくるのは、やはりアンジェリーク。 レウ゛ィアスが帰ってくるなり、ぎゅっと抱き付いてきた。 「ただいま、アンジェ」 抱き付いたままのプランツを、レウ゛ィアスは抱えるようにして部屋に戻る。 彼が着替えている間、待っているだけだが、嬉しそうにしている。 夕食も朝食と同じに、レウ゛ィアスがミルクを温めて、アンジェリークに与えた。 もちろん極上の砂糖菓子も忘れてはいない。 ミルクを飲む瞬間も、レウ゛ィアスの指先で与えられる砂糖菓子も、最高の笑みで彼を魅了して止まなかった。 食事が何よりも美味しいと感じる。 至福の時間だった。食事の後はお風呂の時間。 流石にプランツを入れるわけには行かず、これはメイド長がする。 熟練技でアンジェリークもぴかぴかだ。 レウ゛ィアスもその間に入浴を済ませた。お風呂が終われば、歯磨と栗髪のブラッシング。 これはレウ゛ィアスがする。 プランツが来てからと言うものの、すっかり規則正しい生活サイクルに、はまってしまっていた。 一日を締めるのは、アンジェリークをベッドに寝かし付けて、お話を読んでやることだ。 「知ってるか? 世の中の”名作”と呼ばれる物語のほとんどが、元は寝床で子供に読み聞かせる物語だ」 彼は低いテノールで話すと、愛しい天使の為に、話を聞かせてやる。 「今日は、”いばら姫”だったな」 絵本を読みながら、栗色の髪を撫でてやると本当に嬉しそうに笑う。 幸せそうな微笑みは、レウ゛ィアスの一日の疲れを吹き飛ばした。 いつしかうとうととまどろみに揺れて、アンジェリークは眠りに支配される。 寝顔すらも清らかな天使だ。 レウ゛ィアスは甘い微笑みをフッと浮かべると、絵本を静かに閉じる。 「おやすみ、俺の天使」 頬に軽いキスを送ると、レウ゛ィアスは明かりを消してやった。 観葉少女の彼女がどんな夢を見るかは判らない。 だが、きっと温かで不思議な愉快な夢。 ぎゅっと彼の指を握り締めた小さな指を、そっと外した。 |
ヴァレンタインに余り関係ありませんね(笑) 幻想的に書こうとしましたが、失敗(笑) |