SLEEPLESS NIGHT


 今日は寝苦しいな・・・。

 アリオスはベッドから起き上がると、キッチンへと向かう。
 冷蔵庫からミネラルウォーターを煽り、喉を潤す。

 あいつがとなりにいたら、寝苦しいなんてことはねえんだけどな・・・。

 思い浮かぶは大切に思っている栗色の髪の少女。
 あの笑顔を浮かべるだけで、心が落ち着く。
 椅子に座り、煙草を口に銜えて一服をする。
 夜に吸う煙草は、なんと味けがないのだろうと、アリオスは思った。

 となりにアンジェがいれば、こんな気分にはならねえだろう・・・。
 ずっとそばに置いておきたい女だ・・・。
 誰よりも・・・。
 昨日は楽しかったな・・・。

 昨日まで二日間、アンジェリークはこのマンションで過ごし、ふたりで甘い時間を過ごした。
 この週末のためだけに、残りの一週間を過ごすようなもの。
 アリオスは煙草をまた一本吸い、紫煙を宙に吐いた。

 あいつがいないとこの部屋の風景が、全部灰色に見えちまう・・・。
 俺も重傷だな?
 アンジェリーク病の・・・。

 自嘲気味に笑うと、アリオスは煙草の火を消し、再び寝室へと戻った。
 部屋は快適なエアコンディション。
 空調が利いているにも関わらず、ベッドで転がっても眠れない。

 アンジェがいれば、寝不足にも我慢できるのにな・・・。

 別に暑いから寝苦しいというわけではない。
 半身がいないから物足りないのだ。
 不意に枕元にいつも置いているアンジェリーク専用の携帯がメールの着信を知らせてくれた。
 空けてみると、それはアリオスの表情を和らげた。

 ”アリオスはもう寝ていますか?
 私は寝苦しくて困っています。
 宿題も終わったし、受験勉強も明日の分まで終わっちゃいました。
 夏休みまであと一月余り。
 あなたと早く一緒に過ごしたいって思っています。
 あんじぇ”

 やはり彼女は半身だと思う。
 同じように眠れないのだから。
 アリオスは思い立って携帯を手にとると、アンジェリークに電話をしてみる。
 二回コールだけですぐに彼女は出てくれた。
「アリオス!」
 出た声は本当に明るくて嬉しそうだ。
「俺もおまえと一緒で眠れねえ」
 安堵した笑みが受話器を通して判る。
「実は私もなの・・・。シングルベッドだけど、凄く広く感じちゃうの・・・。アリオスが横にいないから」
「アンジェ」
 お互いに同じ気持ちだと思うと、アンジェリークは嬉しくて堪らない。
 温かな気持ちになり、独りじゃないことを感じた。
 「こうしてね、電話を通してアリオスの声を聞いていると、となりにいるみたいに思える・・・。だけど、実際には横にいないんだって思うと哀しくなっちゃう・・・。だって・・・電話だけだったらキスも出来ないし・・・」
 最後の声は恥ずかしいのか消え入りそうな声だった。
 それだけでも、十分に愛らしくて。
「逢いたい・・・、逢ってアリオスに抱き締めてもらいたい・・・。小さい時みたいに、アリオスがおとなりさんだったら、すぐに逢えるのに・・・」
 切なさと涙が入り混じった声に、アリオスも早急に彼女を求めてしまう。
「明日逢えるのは判ってるんだけど、ね」
「明日は泊まりに来いよ」
「うん!!」
 強引にも押しかけようと思っていたせいか、アンジェリークの声は弾んだ。
「抱き締めて欲しい・・・」
 恋人の切ない心と自分の求める心が重なった。
「アンジェ、待ってろ、すぐに抱き締めに行く」
「アリオス! 今は遅いわ」
「いいから待ってろ」
 次の瞬間には携帯は切られていた。

 アリオス・・・。

 彼の切ない思いが痛いほど嬉しかった。
 アンジェリークはネグリジェのまま、ずっと窓の外を眺める。
 車で彼のマンションから彼女の実家までは10分。
 家のすぐ隣はアリオスの実家だ。15分後には彼の車が、横の実家のガレージに停まるのが判った。

 もうすぐ、もうすぐ逢えるわ・・・。

 向かいの部屋のサッシが開く。
 同時にアンジェリークもサッシを開けた。
 ふたりの部屋のバルコニーの隙間はほんの5センチ。
 アリオスは堂々とバルコニーを乗り越えて、アンジェリークの部屋にたどり着いた。
「待たせたな?」
「アリオスっ!!」
 Tシャツとジーンズ姿のアリオスに、アンジェリークは飛び込んでいく。
「ふふふ〜アリオスの温もりあったかい〜」
「おまえも柔らかいな」
 軽くキスをした後、アリオスはしっかりと彼女を抱きしめた。
 優しくそして甘く。
 アンジェリークはアリオスの精悍な胸にうっとりとしながら、胸に顔を埋めた。
「今日は場所が場所だけに抱けねえが、明日から絶対に泊まりに来いよ? 俺を寝不足にさせねえためにもな? 荷物は運んでやるから」
「うん…」
 アリオスにしがみ付いたまま、アンジェリークははなれない。
「今夜は一緒に眠ってくれるでしょ?」
「しょうがねえから、おまえの狭いベッドで眠るか」
「うん」
 笑いながら彼は彼女を抱き上げると、ベdd歩に運び、狭い狭いベッドでふたりで横たわる。
「途中で帰ったら嫌だからね?」
「ああ」
 アリオスの腕の中に包まれながらアンジェリークは笑い、瞳を閉じる。
「あったかい…。アリオスは安心できる」
「バカ言ってねえで早く寝ろ?」
「うん。おやすみ…」
 アンジェリークはゆっくりと目を閉じると、そのまま安らかな吐息を立て始める。
「おやすみ」
 アリオスもまたアンジェリークの頬にキスをすると、そのまま深く目を閉じた。
 先ほどの寝苦しさもどこかにいき、アリオスもまた深い眠りに落ちていく。
 これ眠れない夜は解消できると思いながら------

コメント

美容師アリさんと女子高生アンジェです。
昨日、暑かったので思いつきました〜



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