A TALE OF
SILVER FAIRLY


「アンジェ、そんなに根詰めないでさ、少し息抜きに散歩でもしておいでよ!」
 しっかり者の補佐官に明るく言われ、アンジェリークは嬉しくなる。
 本当は彼女だって働き詰で、自分たちの宇宙のために頑張ってくれている。
 彼女だって久しぶりに会えた恋人エルンストと一緒に過ごしたいだろうに、そんなことは億尾にも出さない。
 いつも、影になり、日向となって自分を支えてくれている。
 ここまで頑張ってこれたのは、レイチェルと、約束の地に現れる愛しい人が支えてくれたからだ。
 そう思うと、自ずから、優しい笑顔が零れ落ちてしまう。
「うん、判った、レイチェル!! ちょっと散歩に行ってくるね」
「いってらっしゃい!! 今日は夕方までいいわよ! アナタが頑張ってるから、“エレミア”の育成も順調だしね!」
 ウィンクをしながら微笑む補佐官は、とても魅力的で、アンジェリークも思わず笑顔が零れてしまう。
「有難う、じゃあお言葉に甘えて少しだけ。あなたもたまにはエルンストと一緒に過ごしなさいね?」
「バ…、アンジェ!!」
 流石のレイチェルもこの時ばかりは顔を真赤にさせて、アンジェリークを軽く怒る。
 もちろんそれがテレから来ることを、親友である女王陛下は心得ている。
「いってきまーす♪」
 声を上げてころころと笑いながら、アンジェリークは楽しそうに部屋から出て行った。
「ったくもう、しょーがないんだから、アンジェは!」
 口調は怒って吐いたが、レイチェルの瞳はうれしそうに優しく輝いている。
「恋人のアリオスをああいう形で失って、一時はどうなるかと思ったけれど、ここにきて随分明るくなって、良かった・・・。“約束の地”が出来たあたりから、ホントに明るくなってよかった。
 ----アンジェ、ワタシはずっとアナタを支えるからね…、アンジェ」
 慈しみの深い視線を宙に向けると、レイチェルは思い切り伸びをした。
「さーて!! ワタシもエルンストとをからかいにでもいこうかな!!」 

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 約束の地でアリオスに逢うまではまだ時間がある----
 アンジェリークは、とりあえず時間潰しにと、“太陽の公園”へと向かった。
 柔らかな日差しが降り注ぎ、気分転換にはもってこいの、散歩コースだ。
「あ〜、気持ち良い。最近、根を詰めてたから、余裕を持って景色すらも見れなかったな」
 大きく伸びをしながら、彼女はステップを踏むように軽やかに歩く。
 日差しは、知らず知らずのうちの心の中をときめかすことが出来るマジックのようなものだ。
 陽射しを浴び、、きらきらと輝く白い肌、羽根のように揺れる栗色の髪、明るく輝く笑顔。
 それらが、誰もを魅了して止まない。
 彼女の横を通り過ぎる誰もが振り返るが、その神聖性ゆえに誰も声をかけられずにいる。
「おねえちゃん」
 純粋な心を持つからなのか、ただ単に好奇心が強いだけなのか、小さな子供がアンジェリークに声をかけた。
「なあに?」
 彼女は思わず立ち止まり、にっこりと微笑むと、子供の視線と同じ高さまで腰を屈めた。
「お姉ちゃん、天使様みたい!!」
 はしゃぐような声で、小さな子供はアンジェリークに語りかける。
 その瞳は偽りなく、ただ真っ直ぐにアンジェリークを見つめている。
「ふふ、有難う」
 子供の一言が嬉しくて、彼女の顔にも優しい笑みが浮かんだ。
「あのね、お姉ちゃんに、とってもいいこと教えてあげる。おねえちゃんは天使様みたいだから、きっと逢えるよ。ちょっと、耳貸して」
 アンジェリークは子供に耳を寄せる。
「あのね、“約束の地“に、とってもかっこいい銀の髪をした妖精さんがいるんだ。言葉は乱暴だけど、とっても優しいよ」
 少年の言葉が誰を指していること位、彼女は直ぐに判った。
 自分のことを誉められたわけではないけれども、とても嬉しくて、飛び上がりたくなるほど嬉しくて。

 そうね…。私から見ても、彼は妖精だわ…

「お姉ちゃんは"天使様”だから絶対に逢えるよ!! 案外お似合いかもね、"妖精さん”と」
 とたんに彼女の顔が耳まで赤くなり、少年は不思議そうに見る。
「ね、おねえちゃんどうしたの?」
「な…、なんでもない…」

 アリオスとお似合いといわれることほど嬉しいことなんてない・・・。有難う

「有難う、逢いに行ってみるね。"妖精さん”に」
 子供の方を軽く持って微笑むと、本当に嬉しそうな微笑が幼い顔に広がってゆく。
「絶対だよ!! お姉ちゃん!! 妖精さんに逢いに行ってね!!」
 彼女が方から手を離すと、子供は駈けて行く。
「またね!! おねえちゃん!!!」
「またね!!」
 アンジェリークは手を振りながら、見えなくなるまで子供の後姿を見送っていた。
「さて、私も"銀の髪の"妖精さん”に逢いに行こうかな!!」      

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「アリオス〜!!」
 ここのところ、火・木・日の曜日には必ず現れる、アリオスの天使。
 軽やかにまるでダンスでもするかのように、彼女は木の下で待つ彼に向かって駈けて行く。
「早かったじゃねーか、アンジェ!」
 駈けてきた天使をその精悍な胸で受け止め、抱きしめる。
「逢いたかった、アリオス!!」
「クッ、一昨日逢ったばかりじゃねーか」
「だって、ホントは毎日でも逢いたいもん」
 そう云って、彼女は彼の鍛えられた胸に顔を埋め、甘える。
「しょーがねーな。この女王様は」
 自然と甘い笑みが彼の口元に零れる。
 彼女と再会した頃はいつも気難しい表情をしていたことが信じられないほどだ。
 実際、アリオスは、随分とこの天使に救われていると感じていた。
 彼女がいなければ、辛いことも嬉しいことも総てを含めて記憶を思い出すことなどなかっただろうと、思う。
 今、心から笑うことが出来るのは、本当に彼女のお蔭なのだ。
「アリオス?」
 優しい声で名前を呼ばれて、彼は激し過ぎる彼女への愛を高まらせる。
「おまえ、ホントに可愛いな」
「え!?」
 甘く低く囁かれ顔を赤らめたのもつかの間、彼の顔がゆっくり降りてくる。
 そこにある甘い誘惑を、彼女は目を閉じて待ちわびる。
 しっとりと、優しく、そして深く、唇は重ねられる。
「ん…」
 少しずつ絡まりあう舌の動きに甘いと息をつきながら、その甘美な感覚に、彼女は溺れる。
 互いの想いをそこに凝縮させるかのように、二人は求め合った。
 やがて彼女の全身の力が、余りもの快楽に抜けきり、彼がそれを支える。
 唇が離されたとき、彼女の視線は名残惜しげに彼の官能的な唇を見ていた。
「ん? 何だ、まだして欲しいのか?」
 あからさまなアリオスの言葉に、アンジェリークは思わずはにかんでしまい、俯く。
「クッ、何度でもしてやるよ…」
「やん…」
 耳朶を甘噛みされて、可愛らしい声が彼女から漏れた。
 アリオスは忍び笑いをしながら、いつものように彼女を腕の中に閉じ込めたまま、一緒に座り、木に凭れる。
 もちろんアンジェリークはその体を彼に預ける。
 二人だけの甘い時間が訪れる。
「ねえ、アリオス」
「何だ」
 話している間も、彼の唇は彼女の栗色の髪に触れている。
「さっきね、"太陽の公園”で逢ったコに、"約束の地に、銀の髪をした妖精さんがいるから、是非遊びに行け”って言われたの。あなたのことだって、直ぐにわかったわ」
「妖精? ったくあのガキは…」
 憎まれ口を叩いてはいるが、彼がとても嬉しいことぐらい、アンジェリークにはちゃんと判っている。
 そのせいか、思わず笑みが零れてしまう。
「ふふ、アリオスは知っているの?」
「----あ〜? まあ、おまえを待っている間、暇だったから、暇つぶしに遊んでやったことがあるけどよ」
「優しいんだ」
「バーカ、暇だっただけだぜ?」
 流石の彼も、少し照れがはいっていることが彼女にも判る。
「----あなたが、とっても優しい人だってことは、私が一番良く知ってるもの」
「バカ。そんな可愛いことばっか言ってると、食っちまうぞ」
「アリオスなら食べられてもいいもん」
 フッと優しく深い微笑をアンジェリークに向けると、彼は軽い、羽根のような優しい口づけをする。
「あ…」
「近いうちな…?」
 魅力的な彼の声で甘く囁かれると、アンジェリークは一溜りもなくて、彼女は頬を上気させながら、コクリと頷くことしか出来ないでいた。
「あのね…、アリオス…、でも、私もそのコと同じよ気持ちよ…」
「アンジェ…」
 彼女を抱く彼の腕に力が込められる。
「だって、アリオスは、私にとって、安らぎと、愛情と、優しさ、そして勇気をを与えてくれる、銀の髪をした"妖精”だもの・・・」
 愛に潤んだ真っ直ぐな瞳で彼を見つめ、抱きしめてくれている彼の手にそっと自分の手を、彼女は重ねた。
 彼もまた、愛に溢れた本当に優しく深い眼差しを彼女に向け、そっと笑う。
「おまえこそ"妖精”という言葉が似合うぜ? おまえは俺に、優しさ、強さ、愛しさ、そして安らぎ、勇気をくれるんだ」
 彼の言葉が宝石となって彼女の心に落ちてくる。
 彼はいつでも、一番欲しい言葉をくれる。
「何時までも一緒にいてね、私の"妖精”さん」
「了解」
 彼の腕はより力を増す。
「----あなたは私の"ゼロ番”よ?」
「何だそれ?」
 アリオスは怪訝そうに眉根を寄せる。
 嬉しそうにアンジェリークは笑うと、こう付け加えた。
「"一番"よりももっと、もっと、素敵だから…」
「バカ」
 再び唇が重なり合う。
 愛し合う二人の姿は、まるで愛を与え合う"妖精たち"そのものだった----  


コメント
「太陽の公園」にいた子供の一言を見て、これは使えると思い(笑)創作しました。
子供の視点って、本当に純粋だと思うときがあります。
実は最後のアンジェの台詞、「あなたは私の”ゼロ番”よ」というのは、実際には私の甥(6歳)が、言った言葉です。
実は私の姉も、「アンジェリーカー」で(笑)←姉妹揃ってやってます。
姉が、アリオス攻略中に、甥がアリオスを見て「かっこええな〜。もう、一番やなくて、それよりも凄いゼロ番やわ」と言ったと聞いて、いただきだと(笑)
ちなみに彼の次のお気に入りは、リュミエール様だそうですが、アリオストは比べ物にならないらしいです(笑)。