きついアルコール臭が鼻腔をくすぐる。 飲み込みきれなかった琥珀色の液体が、顎を通り、喉元を伝い落ちる。 流れ落ちる滴はとても熱くて。 そしてそれ以上に、重ねる唇が熱い。 「…ぅん…っっ」 「……足りない」 息苦しさに唇を離せば、薄い唇が僅かに掠れた声を紡ぐ。 「……」 「俺を喜ばせてくれるんだろう?」 躊躇いと羞恥に揺れる瞳に、青年は酷薄な笑みを向けた。 「アンジェリーク?」 名前を呼ばれ、意味ありげに服の上から腰を撫でられ。 少女は小さく、諦めの溜め息をついた。 ソファに腰掛ける青年の膝の上に座らされ、彼を見下ろす格好で、もう何度目かも分からない口づけをそっと落とす。 たどたどしく舌を差し出すと、それは容易く招き入れられ、少女はおずおずと舌を絡ませた。 自分の行為に眩暈がする。 しかけたはずのキスは、けれど、主導権を握っているのは明らかに青年だった。 卑猥な水音が聴覚を犯し、アルコール臭に酔わされる。 絡まる唾液の甘さに身体が熱を生み出し、彷徨う手のひらが熱を煽る。 閉ざされた瞳に映る闇は、すべての感覚を剥き出しにするだけで、熱を留める効果などありはしない。 怯えは羞恥へと変わり、羞恥はやがて快楽へと姿を変える。 五感のすべてで彼を感じて。 五感のすべてを彼に支配されて。 ゆっくりと、けれど急速に。 天の頂へと堕ちていく。 年に一度の特別な日に、特別なことをしたいと思った。 付き合い始めてから最初の彼の誕生日。 随分と前からいろいろ考えて、いろいろと用意した。 喜んで欲しくて。 彼の、喜ぶ姿が見たくて。 けれど――― 訪れた誕生日は、想像していたものとまったく違っていた。 「んっく…はぁっん…」 はだけられた胸に唇を落とされ、甘く声が上がる。 与えられる刺激に仰け反り、逃げようとするが、背に回された腕がそれを許さない。 それどころかさらに胸を押しつけることになり、少女は息を乱して喘いだ。 「…ア、アリオ……ス…」 霞みがかっていく意識を、それでも必死に保とうとしながら、恋人の名を呼ぶ。 それに答えるかのように、翡翠の瞳が僅かに細められた。 冷たさと、相反する温もりを宿し、欲望に煙った瞳に少女の媚態を映し出す。 快楽に彩られた、まだ幼さを残す顔立ちはひどく嗜虐的で、青年の欲望をさらに煽っていく。 何も知らなかった少女が自分の与える快楽に染まっていくのを見るのが、彼はたまらなく好きだった。 「アンジェ」 名前を呼んで、そっと口づける。 触れるだけの口づけを幾度となく交し、誘うように開いた唇に舌を滑り込ませた。 今にも倒れてしまいそうな少女を片手で支えて、もう片方の手はまくりあがったスカートの裾から這い上がる。 滑らかな肌の感触を楽しむように指先を滑らせながら、やがてそこに辿り着いたとき。 「…んんっっ!」 くぐもった悲鳴を上げ、小さな身体がびくりと痙攣した。 「…ひぅ…っ、ぅうんっ…いやぁっ…おねがっ、やめてぇ…っ」 「ホントに止めていいのか?」 くつくつと肩を揺らせながら、しがみついてくる少女の耳元で囁く。 たったそれだけのことにびくんと反応する身体に満足げに笑い、青年は浅い場所で遊ばせていた指先をぐっと押し込んだ。 「ひぁっっ」 「…随分嬉しそうじゃないか?」 「う、そっ…そんな、のっ…あぁっ」 弱い場所を引っ掻かれ、抗議の声は甘い悲鳴へとすりかわる。 どんなに否定しようとしても、身体は与えられる熱に正直で。 耳を打つ粘った水音は、拒否する心に比例するかのように大きくなっていく。 そして、それを否定すればするほど、身体が熱くなる。 「あぅ…あぁんっっ! やっあ、だ、だめぇ…そんな…強く、しないで…っっ、あ、あぁあっっ」 すべてを知っている指に幾度となく攻め立てられ、駆け昇る熱さにぐんっと華奢な背を反らす。 視界が白く染まる。 薄れていく意識の片隅で、金と翠の瞳が告白に笑った。 「……え…」 言われた言葉に、思わず聞き返した。 「なんだよ、ダメなのか?」 「…そ、そういうわけじゃ…ない、けど…」 しどろもどろに答えると、彼は小さく唇の端を歪めた。 「俺を喜ばせてくれるんだろう?」 「……」 ゆっくりと金銀妖瞳を覆っていくモノに、少女は僅かに躊躇った。 躊躇ったところで――― 「…アンジェ?」 自分を呼ぶその声に、勝てるはずがないと分かっていたのだが。 「ほら―――」 促され、少女はきゅっと唇を噛んだ。 逆らえない。 逆らえるわけがない。 「……目、閉じて?」 向けられる酷薄な瞳に堪えられず、羞恥に掠れる唇で言葉を紡ぐ。 閉ざされていく瞳に、少女は微かに震えながら、そっと唇を寄せた。 これから何が起こるのか―――期待と不安に鼓動を速めながら。 唇に触れる柔らかな温もりに、少女はゆっくりとまぶたをあげた。 「…アリ…」 霞む視界に銀色を映し、その名を口にする。 ソファに横たえた少女に覆い被さり、青年は小さく笑った。 再び落とされる唇。 幾度となく繰り返される柔らかなキスは、一度上り詰めた熱を奥底から呼び覚ましていく。 「アンジェ」 甘く名を呼ばれ、口づけられ。指先で探られて。 熱を帯びた甘い吐息が漏れる。 「…いつもより感じてるんじゃないか?」 耳元に囁かれ、身体が震える。 「…やだ…いっちゃ、や、だ……」 力なく首を振って懇願する。 分かってる。 分かってるから、言わないで欲しい。 でないと、恥ずかしさで消えてしまう。 「…アンジェリーク」 吐息ごと入り込んでくる声。 それだけでイキそうになる。 「…モノが欲しいわけじゃない」 「……?」 囁かれた言葉の意味が分からず青年を見上げると、異色の瞳が恐いほど真剣に自分を見下ろしていた。 「欲しいモノはカタチじゃない。―――おまえが、俺のモノだという証が欲しい」 その言葉に、それが自らが生まれた日に、彼自身が強く望むものだと気付いた。 「アリオス…」 見つめる瞳に深く笑う。 彼がそれを望むというのなら、何を躊躇うというのだろう。 華奢な腕を青年の首に絡ませて引き寄せると、啄ばむようにキスをした。 「目を閉じろ」 逆らえない声音にまぶたを閉じる。 そして―――口元に押し付けられたモノに、少女は身体を震わせた。 熱くて固いその感触に慄き、それでも拒むことはしなかった。 戸惑いながらもゆっくりと喉奥まで飲み込んでいく。 舌先でなぞると、髪に絡められていた指先が僅かに震えた。 それが嬉しくて―――興奮した。 「アンジェリーク」 「…っんふぅ……」 名を呼ばれ、髪を柔らかく弄ばれ。 その度に、彼が感じてくれている事が分かって、ますます夢中になる。 軽く口づけて、舌先でなぞって、音を立てて吸い上げて。 感じる熱さがそのまま移るかのように、身体が熱くなる。 ふと、頬を包まれて上向かされた。 子供のように輝く瞳が、すっと微笑んだ。 降りてきた唇が軽く触れる。 耳元に滑らされた唇が、楽しそうに囁いた。 「いいぜ。来いよ」 声に促され、熱に浮かされた様にこくんと頷く。 ゆるゆるとした動作で、ソファに座ったままの青年にまたがった。 大きく息を吸い込み、壊れてしまいそうなほどに高鳴る鼓動を抑えつける。 「……んっ」 腰を落とし、埋め尽くす熱に背を反らせて僅かに喘ぐ。 「……どうした、動かないのか?」 自らの上で息を荒げる恋人を、面白そうに見つめる。 「だ…って…」 震える声が、言い難そうに訴えた。 「恥ずかし…ひぁっ」 軽く身体を揺すられて、訴えは甘い悲鳴にすりかわる。 「い、やぁっ…動か…ないで…っっ!」 埋められたものは熱くて、火傷しそうなくらい熱すぎて。 少し動かれただけでも、すぐに上り詰めてしまう。 揺れる身体を支えきれず、縋るように恋人の首筋にしがみつく。 「ぁうっ、んんっ……ぁんっ、だめぇっっ…っっ!」 快楽に仰け反る白い首筋に、舌をはわす。 解きに軽く吸い上げて赤い刻印を残しながら、彼はゆっくりと―――けれど有無を言わさず、少女を快楽へと導いた。 だが。 それだけでは面白くない。 もっと違うモノが欲しい。 自分を欲しがる彼女が見たい。 「アンジェリーク」 軽く耳たぶに歯を立てれば、それだけで跳ねあがる敏感な肢体。 彼が教え込んだ結果。 「言っただろ、証を見せろよ」 「…あ、かし?」 「ああ」 潤んだ瞳で見つめれば、金と翠の輝きが艶やかに微笑んだ。 「今日は俺の誕生日なんだろう?」 そう言われ、柔らかな言葉で強要され、少女は小さく息を呑む。 神秘の輝きを宿す瞳は、絶対的な強さで持って彼女を捕らえて放さない。 「…ぁ…」 戸惑いと羞恥と、愛しさと。 ―――勝るのは想いだった。 「んんっっ」 倒れない様にしがみついて、恐る恐る動き出す。 「あ、ぁあんっ……はぁんっ!」 そろそろと動き出したその動きは、やがて快楽に煽られ、激しさを増していく。 耳を打つ淫らな水音に思考を奪われ、ただ、求める熱さだけを追いかける。 胸を掠めるように触れる、彼の大きな手の微妙さと。 仰け反る首筋に口づける、唇の熱さと。 「んぁっっ…あふっ、やっ…あぁっだめぇっっ!」 奥深くを突き上げられ、甘く悲鳴が上がる。 「…何、言ってやがる」 僅かに息を乱した声が、おかしそうに耳元に囁いた。 「こんなに締め付けて」 「…いわ、ないで…おねが…っっひぃんっっ」 目の前が白く染まる。 堪えられない疼きに、白い背がぐんっと仰け反った。 「――――――!!」 声にならない悲鳴を上げて、一気に上り詰める。 薄れていく意識の片隅で感じたのは、自分を満たしていく何にも勝る熱さだった。 気を失った少女をベッドまで運び、そっとシーツの上に寝かせた。 快楽に上気した少女の身体にうっそりと笑う。 「アンジェ」 名を呼べば、閉じられたまぶたが微かに震えた。 小さく肩を揺らし、青年は横たわる少女へと覆い被さった。 眠りを妨げない様に、軽く啄ばむキスを繰り返す。 汗の浮かぶ肢体に口づけると、赤く刻印が咲いた。 「…ん…っ」 胸の頂に唇を寄せれば、少女は小さく身じろいだ。 「…アリオス…」 すっと開いた瞳が、自らを犯す青年の姿を捉える。 どんなに犯されてもそのすべてを赦せてしまう。 そのすべてを、受け入れてしまう。 それはきっと、侵されているから。 その指に、その熱に、その身体に、その声に―――その瞳に。 すべてに、侵されている。 「アリオス…」 もう一度名を呼ぶと、唇が塞がれた。 ダイレクトに伝わる熱に掬われて。 何もかもが、どうでもよくなる瞬間。 「…足りない」 吐息が触れる至近距離で熱く囁かれる。 「まだ足りない。もっと証を見せろよ」 酷薄な瞳が微笑む。 「ほら」 腕を掴まれて、導かれた場所。 「アンジェリーク」 優しく残酷な声に促されて。 彼女そこに唇を寄せた。 モノはいらない。 言葉もいらない。 ただ、行動で示して欲しい。 生まれて落ちたその日に。 自分は愛されているのだと。 それが心の底からわかるように。 「アリオス?」 白み始めた空が遠くに見えた。 自分を包み込み、静かな寝息を立てて眠る青年に、少女はそっと唇を寄せる。 「―――お誕生日おめでとう。愛してるわ」 あなたが望むなら、私はなんでも差し出すから。 ねぇ? 愛しい人。 呼びかけに答えるようにゆっくりと開いた瞳に、彼女は深く微笑んだ。 |
コメント
Piece Of Moonの空山樹様から
とても素敵な創作を頂きました!
嬉しいよ〜。
有難うございます!!!
アリオスに結局は従順なアンジェが可愛いです。
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