CAN’T SMILE WITHOUT YOU


「もう起きるのか?」
「うん・・・、今日は学校だから」
 ふんわりと笑いながら、アリオスの頬に「おはようのキス」をすると、アンジェリークはゆっくりと身体を起こす。
「シャワー浴びて、ご飯作るね? アリオスはゆっくり寝ててね」
「夜遅かったのは、おまえも同じだろ?」
 からかうような笑みを浮かべられ、艶やかな不思議な瞳で見つめられると、とたんに彼女は真赤になった。
「もう!! アリオスのバカ!!」
 彼のパジャマの上だけを着たまま、彼女はぱたぱたと足音を立てながら、慌ててバスルームへと逃げ込む。
 その姿をベットの上から眺めながら、彼は満足そうに微笑んだ。

 学校じゃなかったら、おまえをベットから出さねえのにな。

「もうアリオスのバカッ!! 恥ずかしいじゃない」
 シャワーを浴びながら、恋人への悪態をつきながらも、アンジェリークの表情は艶やかに輝いている。
 それは、彼に愛されていることへの誇りと嬉しさが、彼女を輝かせていた。

 シャワーも浴び終わり、身支度を整えると、アンジェリークは、勝手知ったるキッチンへと向かう。
 彼と自分の朝食を作るために。
 アリオスのマンションのキッチンは、最早、アンジェリークの"城”と化していた。
 夫婦茶碗や湯飲み、マグカップと、あらゆるものがお揃いで用意され、まるで新婚家庭のキッチンのように見える。
 最も、それらは、総て彼女によって揃えられたものなどだが。
 彼女が朝食を作るのは手馴れたもので、ものの30分もかからずに立派な朝食が出来上がった。
「さてと、アリオスを・・・、きゃ!!」
 彼を呼びに行こうとして、急に背後から抱きすくめられて、彼女は甘い悲鳴を上げた。
「美味そうだな」
 肩越しにアリオスに手が伸び、皿の上の生ハムをついとつまみ食いする。
「もう、アリオスってばお行儀が悪いわよ?」
 くすくす笑いながら、アンジェリークは軽く彼の手をぽんと叩いた。
 この時々どうしようもなく子供っぽくなる彼が、彼女は愛しくて堪らない。
「飯にするか? 俺も今日は早出だから」
「そうね・・・」
 二人は互いに微笑み合い、アリオスは甘い口づけを彼女に落した。


 朝食も終わり、身支度を整えてから、二人は一緒に家を出る。
 週末は必ずと言っていいほど、アンジェリークはアリオスのマンションで過ごしていた。
 彼女が高校を卒業すれば、すぐに結婚をする約束をしているせいか、この外泊も彼女の両親の公認の下である。
「ごめんね。今日、委員会で遅くなっちゃうから、夕食作れなくて・・・」
 彼女は本当にすまなそうに言う。
 その表情が優しくて、愛らしい。
「たまには外食もいいだろ? 俺も今日はセイランに仕事を押し付けて早めに帰ってくるからな」
 クシャりと栗色の髪を撫で、彼は僅かに目を細める。
 その不思議な瞳に光る深い優しさが、アンジェリークは大好きだった。
 本当に守られているような瞳の輝きは、彼女をうっとりと見惚れさせた。
 ほんの少しでも離れるのが名残惜しくて、アンジェリークはマンションの玄関までアリオスに腕を絡ませる。
「じゃあな、後でな?」
 軽く唇に触れて、彼は駐車場へと向かう。
「いってらっしゃい!!」
 元気良くアリオスに手を振り、彼もそれに答えて手を軽く上げてくれる。
「さてと、私も学校に行かなくっちゃ!!」
 幸せそうに微笑むと、アンジェリークは学校に向かってかけていった。     

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「アリオス、知ってる?」
「何がだ?」
 セイランに声をかけられ、アリオスは怪訝そうに眉根を寄せた。
「最近、アンジェちゃんがフロント手伝ってくれているだろ? 彼女目当てにわざわざ彼女のいる時間に来るバカが増えてるの知ってる?」
 途端にアリオスの顔は険しく歪む。
 知ってはいる。
 アンジェリーク目当ての男性客が増えていることを。
 彼らはどのスタイリストも指名せず、誰でも言いからと、時間と曜日だけを指定してくる。
 そう、アンジェリークがいる曜日と時間を。
 お蔭で、サロンはここのところかなりの忙しさになっているのだ。
「次のフロントクラークが決まったら、あいつは店に出さねーよ」
 不機嫌そうな色が彼の瞳の奥に光り、セイランはおかしそうに笑う。
「何が可笑しい!? セイラン」
 珍しく頬を染めて睨むアリオスに、セイランは益々おかしくなり、肩を震わせて笑う。
「いや。何でも」
「だったら、とっとと仕事しやがれ!!」
「はい、はい」
 何時までも笑いを止めることが出来ずに、セイランは肩を震わせながら、サロンに入っていった。
「ったく・・・」
 不機嫌そうに悪態をつくと、煙草に火をつけ、紫煙で、自分の激しすぎる想いを持て余す。
 ずっと、それこそ彼女が生まれる前から見守ってきた少女。
 愛しくて、可愛くて堪らない存在----
 自分の独占欲の強さに、彼は自嘲気味に笑った。 

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 委員会が延び、すっかり日も暮れてしまった。
「すっかり遅くなっちゃった」
「ねえ、アンジェリーク、良かったら、僕に送らせて頂きませんか?」
「え!?」
 顔を上げると、そこには3年生の生徒会長ティムカが爽やかな微笑を浮かべて立っていた。
「ティムカ先輩・・・」
「ねえ、どうかな?」
 照れながら話す彼は、アンジェリークには新鮮に映る。
 好意を無碍にするわけにもいかず、彼女はコクリと頷いた。
「良かった。ではご一緒に帰りましょう」
 ティムカの笑顔に、アンジェリークは後ろめたさを覚え、胸がずきんと痛んだ。

 アリオス・・・、ごめんね・・・。

 心の中で独占欲の強い彼に謝りながら、断ることが出来ずにいた自分を呪った。


 アンジェリークとティムカは、他愛のない話をしながら夜道を歩いていた。
 そうしているうちに、アリオスのマンションの近くに差し掛かる。
「あ、あの・・・、私はこの辺で・・・」
 アンジェリークは穏やかに微笑むと、ぺコリと頭を下げた。
 彼女が行こうとすると、ティムカに声をかけられ、彼女は振り返る。
「話があるんだ」
 少し語尾が緊張気味に響く彼に、彼女は不思議そうに首を傾げた。
 彼は咽喉を鳴らして深呼吸をすると、アンジェリークに向かって口を開いた。
「君が好きだ。出来たら付き合って欲しいんだけど、ダメかな?」
 アンジェリークは頬を染め、大きな瞳で彼を見上げていた----

 ティムカ先輩の気持ちは嬉しい・・・。だけど私には・・・。
 こんなところをアリオスに見られたら・・・

 しかしこういった予想は当たってしまう。
 セイランに総てを押し付けて、アンジェリークの為に早々と帰宅したアリオスは、偶然にも、アンジェリークの姿を見つけた。
「アンジェ・・・」
 声をかけようとして彼ははっとする。
 彼の視界には、見つめあう、ティムカとアンジェリークが入る。

 アンジェ・・・!!!!

 彼は嫉妬の余り唇を噛み締め、持っていた煙草のパッケージを踏み潰し、全身を震わせる。
 アリオスが見ているとは露知らず、アンジェリークはティムカに向かって、はっきりこう呟く。
「----ごめんなさい・・・。私・・・、結婚を約束した男性(ひと)がいます・・・」
 深々と頭を垂れた後、アンジェリークは証とも言える左手の薬指にはめられた婚約指輪を示した。
 彼女は、授業中以外はずっと着けている大切なものだ。
 少女の申し訳なさそうな視線に、ティムカは優しく微笑むと、彼も軽く頭を下げた。
「----すっきりしましたよ。ちゃんと伝えることが出来て。こちらこそ、あなたを困らせることを言ってごめんなさい。じゃあ、僕はこれで!」
 引き際まで、彼は見事で、ティムカは爽やかに去っていった。
 アンジェリークはその少し寂しそうな姿を見送ることしか出来なかった。
「おい、そういうことかよ!?」
 聞きなれたいつものテノールが、鋭さを増し、怒りが滲んでいる。

 アリオス・・・、見てたの!?

 背中に冷たいものが流れるのを感じながら、アンジェリークはおずおずと振り返った。
「アリオス・・・」
 そこには、彼女を余りにも深く愛するが故の嫉妬からくるあからさまな怒りを湛えた野獣のような瞳が、そこにある。
「浮気かよ!! いいご身分だな!!」
「違うの!! 先輩は!?」
「なんだ、あんなヤツのことをかばうのかよ」
 キツい論旨と怒りに煙った不思議な瞳で見つめられて、アンジェリークは思わず全身を震わせる。

 恐い・・・、アリオスが恐い!!

 じりじりと後ずさりをすると、彼も同じように彼女に近付いてくる。
「アリオス・・・」
 まるで小動物のように彼に怯え、彼女は大きな瞳に涙いっぱいに浮かべている。
「おまえは俺のものだ、それを今から判らせてやる!!」
「きゃ、アリオス!!」
 アリオスは、力ずくでアンジェリークを抱き上げると、人の目も気にせず彼女をマンションへと強引に連れて行った-----  

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 部屋に着くなり、彼は寝室へと向かい、そのまま彼女を乱暴にベットへと投げるように降ろした。
「きゃっ!!」
 アンジェリークは小さな悲鳴を上げ、大きな瞳を潤ませてアリオスを見上げる。
「おまえの総てが俺のものだと言うことを判らせてやる」
 欲望と嫉妬で、彼の不思議な瞳が燃えている。
 本当はこんなシュチュエーションでは恐い筈なのに、彼女はその瞳が、とても嬉しかった。
 そして誇らしくもある。
 彼女は、彼に一切抵抗しないとこのとき決め、腹をくくった。
 素早く服を脱ぎ捨て、彼はそのまま彼女の上に乗りかかる。
「・・・んっ・・・!!!」
 奪うように激しく彼が口づける。唇を吸い、歯列を割り、彼は彼女に自分の物だという事を刻み付けてゆく。
 口腔内をくまなく愛撫し、その情熱の深さを彼女に伝えた。
「ふ・・・あ・・・!!」
 口づけのほんの一瞬の間に、彼女の甘い吐息が漏れる。
 その間もアリオスの手は、激しさに任せて、乱暴に彼女の制服を剥ぎ取っていた。


コメント
6060番を踏まれたあき様のリクエストで「嫉妬するアリオス」裏付きです(笑)
ここからアリオスさんが激しくなってきますのでご期待ください。ページの関係でこうなりました。すぐ更新しますね