Promise Ring


 日の曜日の恒例のデートは、「天使の広場」-----
 賑やかな場所が嫌いなアリオスではあるが、最近は、こういった場所にも連れて行ってくれるようになった。
 今日は天使の広場で盛大に行われる、月一回の「天使市」の日。
 アンジェリークは、どうしても一度は覗いておきたくて、アリオスに懇願して、連れてきてもらった。
「ねえ!! アリオス!!! あんなところに美味しそうな果物のお店があるわ!!」
「ったく、おまえは食い物に執着があるな」
 彼は喉を鳴らして笑いながら、子供のようにはしゃぐアンジェリークに目を細める。
「だってこんなにおいしそうなのよ!!」
 走って、果物の屋台に行きそうになった彼女に、アリオスは手を伸ばす。
「おい、一人で走るな。迷子になるぜ?」
 しっかりと繋いでくれた手。
 その逞しさに、アンジェリークは胸の奥を切なく締め付けられる。
 甘い痛みに、ほんのりと頬を桃色に染めた。
「------俺が捕まえておいてやるから」
「うん、捕まえてて?」
 はにかみながら言うと、彼女は彼を見つめる。
「ほら、一緒に食いに行こうぜ?」
「うん!!」
 二人はが仲良く、果物の屋台を覗き込むと、気のよさそうなおかみが声をかけてきてくれた。
「何にしようかね? 今日は、りんごとプラムが熟れてて美味しいよ!!」
「・・・おまえはどっちがいいんだ?」
 アリオスが訊くと、アンジェリークは愛らしい顔を考え込むような表情にして、じっと果物を見ている。
 どちらもほっどよく熟れていて、美味しそうだ。
 難しい顔で悩む彼女の顔を見ているだけで、彼は飽きない。
「アリオス…」
 深刻そうな顔で、上目遣いで恋人を見つめる。
 こんな表情の時の彼女がするのは、ひとつしかない。
 『おねだり』だ------
「ねえ、両方はダメ?」
 彼女が考えることなど判りきっている。
 彼はしょうがないとばかりに溜息を吐いた。
「じゃあ、このりんごとプラムを一個ずつ」
「はい、りんごとプラムひとつずつね! ちゃんと食べれるように洗ってあげるよ!」
「有難う!!」
 彼女はすっかり嬉しそうに笑うと、幸せそうにアリオスを見た。
「はい、お二人さん!」
「有難う」
 綺麗に洗ってもらった果物を受け取ると、二人はまたぶらぶらと歩き出す。
「ねえ、りんご食べて良い?」
「ああ、かまわねえぜ?」
 アンジェリークはまるで子供のように嬉しそうに頷くと、先ずはりんごに唇を寄せる。
「本当におししいわ!」
「よかったな」
「アリオスも食べて?」
「サンキュ」
 彼女から食べさしのりんごを受け取ると、彼は彼女が口付けたところと同じ所を食べる。
「あっ…」

 間接キス…

 唇に触れ合ったことがないわけではないのに、アンジェリークは真っ赤になって赤面する。
「------恥かしい…」
「美味いぜ?」
 憎らしいほど素敵な笑みを浮かべた後、アリオスはアンジェリークの小さな手をさらに握り締めた。

 今度、二人が覗いたのは、手作りアクセサリーの露天だった。
 シルヴァーで作った指輪やピアスは、どれも素敵で、可愛いものとカッコいいもの、それぞれ揃っている。
「アリオス、どれも素敵ね!」
「ああ、そうだな」
 二人の出すオーラで、直ぐに仲のよさを察したのか、店主であう青年が声をかけてきた。
「コレなんか、あんたたちに似合うんじゃないですか?」
 店主が掌に載せたのは、シンプルだがシルヴァーの可愛い指輪。
 羽根をモチーフにしているせいか、アンジェリークは一目で気に入ってしまった。
「可愛い〜!!!!」
「でしょ? 兄さんもどう?」
 アリオスの表情は変わらない。
 アンジェリークは少し不安になって、彼をじっと見上げた。
「アリオス?」
「サイズは?」
「サイズは指に合わせることが出来ますぜい!」
「だったらあわせてくれ」
 アリオスは淡々と言ったが、アンジェリークは涙が出るほど嬉しかった。
 心が甘く包まれる。

 有難う、アリオス…

 二人は手をだして、店主である青年に指輪の微調節をしてもらう。
 その間も、彼女は嬉しくてたまらない。
「ほら出来上がりや。指輪はあとで兄さんがしてやってや?」
「サンキュ」
 青年に礼を言うと、彼は大切そうに2本の指輪を受け取った。


 その後、天使の広場の位置を堪能した後、二人は軽くお茶をしてから、帰路についた。
 いつものようにアリオスが、屋敷まで送ってくれる。
「今日は楽しかった、有難う」
「------アンジェ、手を出してみろ?」
「うん…」
 胸が切なく高まる。
 自然と左手を出した彼女に、フッと優しく微笑みながら、アリオスは指輪を取り出す。
 優しく、薬指に指輪をはめてくれた。
 それだけで、涙がこぼれてしまう。
「泣くな」
「だって…」
 鼻を啜りながら見ている彼女に苦笑しながら、アリオスは優しい眼差しを向けてくれる。
「何で”リハーサル”なんかで泣くんだよ? ”本番”はどうするんだ?」
「本番・・」
 驚いて、アンジェリークは思わずアリオスを見上げる。
「本番は、もっと良い指輪をはめてやるぜ?」
「アリオス・・・!!!」
 嬉しさと感激で胸がいっぱいになり、アンジェリークはアリオスにしっかりと抱きついていた。
「こら、そんなんで泣くなよ?」
「だって…」
 アリオスはアンジェリークの顎を持ち上げると、真摯な眼差しを彼女に向ける。
「この指輪は、本番への”約束”の指輪だ・・・。
 約束は絶対に果たす・・・」
「・・・うん、果たして・・・」
 二人はしっかりと抱き合うと、深く唇を重ねあった------

 約束の指輪。
 その約束が果たされる日が、それほど遠くないことを、二人は本能で感じていた------

    
コメント

久々のSIDEです。
「トロワ」のデートといえば、巡業ばかり書いていたので(笑)新鮮でした。
また巡業も再会したいと思う、今日この頃です。
やっぱり玉のSIDEはいいですね〜

モドル