it's only love that's all


 嫉妬してはいけないことは判っているの。
 だけど、こんなに間近に見せ付けられると、やっぱり…。

 アンジェリークは、モデル相手にシャッターを切るアリオスを、その横でじっと見つめている。
 彼とずっと一緒に仕事をしたくて、彼に進められるがままにモデルになった。
 ティーン向けの雑誌では、毎号のようにカヴァーを飾っていたが、もっと傍にいたくて、モデルを辞めて、彼のアシスタントを先日から勤めている。
「次」
 声をかけられて、アンジェリークははっとしてフィルムをアリオスに渡す。
「あ、はいっ」
「遅え」
 アリオスの眼差しは切れるように鋭く、モデル相手に注いでいる。
 その眼差しにモデルが答えるたびに、アンジェリークの胸は突かれた。

 判ってる…。
 気にしちゃいけないって・・・。
 でも・・・。

「おい、つぎっ!」
「はいっ!」
 気にしすぎているのか、いつもよりもワンテンポ遅れてしまう。
 アリオスに舌打ちをされて、アンジェリークは益々暗い気分になった。

 怒ってる…。
 絶対に、アリオス…。

 泣きたくても、泣けない。
 撮影の終了まで、アンジェリークは悶々とした気分が続き、切なかった。


 撮影が終わり、アンジェリークはアリオスのカメラを手早く片付ける。
 彼女が片付けている間、アリオスはポラロイドを片手に、煙草を吸いながら、モデルと色々話をしている。
 モデルのアリオスにこびる視線も声も総てが気に食わない。

 でも、一番気に食わないのは、嫉妬する私…。

 それを尻目に、アンジェリークは、髪を乱しながら一生懸命仕事をした。
「終わりました。先生」
 彼女は硬い声でわざとそう言うと、細い躰でひょこひょことカメラケースを抱えて出て行く。
「俺は少し打ち合わせをしてから行くから、車で待ってろ」
 アリオスは、アンジェリークの嫉妬心に気づいているのかいないのか、ビジネスライクな態度だった。
 それがまた今の彼女には辛い。
「…はい」
 小さく、小さく頷くと、とりあえずはスタジオを出る。

「持ってやるよ?」
 聴きなれた声に顔を上げると、そこには男性モデルで、アンジェリークもモデル時代に一緒に仕事をしたことのあるオスカーが立っていた。
「有り難う」
 彼女は笑顔で礼を言うと、素直にその行為に甘えることにする。
 一生懸命仕事道具を担ぐ彼女を見つめながら、オスカーは羨ましいように微笑んだ。
「しかし、もったいないな。あんなに一線で活躍していたのに、モデルを辞めちまうなんて。
 今だって、どんなモデルよりもお嬢ちゃんは綺麗だぜ?」
 本当に、アリオスのアシスタントを始めてから、アンジェリークは余計に綺麗になったと思う。
 しかも極上の宝石の輝きを放ちつつある。
 ちゃんと見る目のある男なら、どんなモデルよりも化粧をしていない彼女のほうが美しいと思うだろう。
「…有り難う。そう言ってくれるの、オスカーさんだけだわ」
「アリオスは?」
 それには、寂しそうにアンジェリークは首を振った。
「らしいよな」
「そうですね」
 ふたりはそう言うと、お互いにくすりと笑いあう。
 その笑顔は、宝石のような笑顔で、他人のものだと判ってはいても、つい、手に入れたくなる極上の華だ。
「それでこそお嬢ちゃんだ」
「はいっ!」
 その様子をアリオスが見ていた。
「アンジェ!!」
 彼は冷たい感情のない表情で近づくと、二人の間にずかずかと入り込んでいく。
 それが嫉妬だということは、オスカーには十分に判っている。
「お嬢ちゃんのナイトが来たみたいだから、この荷物はこっちに託すぜ?」
 アリオスに荷物を差し出すと、オスカーは意味深微笑む。
「じゃあな」
「ああ」
 アリオスはすっかり不機嫌になりながら、オスカーを見送った。
「行くぞ」
「あ、はいっ!!」
 アリオスが先をすたすたと歩き、アンジェリークはその後をおたおたと着いていくだけ。
 心が不安でいっぱいになる。

 やっぱり、さっきのことで怒ってるんだ…。

 駐車場につき、機材などを車に乗せて、後部座席に着こうとすると、アリオスに引っ張られて助手席に乗せられてしまった。
 仕事のときは、アンジェリークは必ず後部座席に乗るのだが、今日に限って助手席だとは、益々不安を募らせる。

 怒ったの?
 私クビ?

 様々な憶測の中、アンジェリークは小さくなって座っていた。
 アリオスは、相変わらず気難しい表情をしている。
「アリ……っ!!!」
 次の瞬間抱きしめられたかと思うと、そのまま激しく唇を奪われる。
「んんっ…!!!」
 野獣のような激しく、総てを奪いつくすようなキスを彼は彼女に与える。
「・・・・んふっ・・・」
 ようやく唇を離されると、アリオスはぎゅっと抱きしめてくる。
「------あんな笑顔、俺以外の男に見せるんじゃねえ…」
 耳元に囁かれた情熱的な言葉に、アンジェリークは嬉しい余りにその広い胸に顔を埋めた。
「…うん…。だから、あなたも、私以外の女性には微笑まないで?」
「アンジェ…」
 二人は、しっかりと抱き合うと、お互いにしか見せない極上の微笑を浮かべあって、額をつける。

 嫉妬するのは愛があるから・・・。
 ただ理由はそれだけ・・・。

  
コメント

秋に出したコピー誌
「EYES」を意識して書いてみました。
愛があるから嫉妬するんですね〜。


モドル