彼のマンションに押しかけたのは、先週のこと。 「アリオス、クリスマスは予定…あるのかな…」 逢うなり、思いきって勇気を出してアンジェリークは訊いてみた。 「仕事。年末の最終の締めに追われてるから、どうにも出来ねえよ」 煙草を口に銜えながら、アリオスは何にもないことのように言う。 「そっか。忙しいもんね」 せっかくのクリスマス----- だが彼の余りもの返事に、アンジェリークは失意の溜息を吐いた。 「おまえはクリスマスはどうするんだ? カレシとやらと過ごすのか?」 まったく興味がないとばかりに、アリオスが訊いて来る。 その眼差しはアンジェリークをどこかからかっているようにも見えた。 「-----いないもん。そんなひと。 クリスマスは、いつものようにケーキ屋さんでバイト。だって、時給が100円上がるんだもん」 「ったく、心配するぜ? 兄代わりとしてはな?」 軽く頭に手を置かれて、彼女は複雑な気分になる。 だって、もう子供なんかじゃないのよ? アリオス…。 「来年こそは、ちゃんと、カレシとやらと一緒にクリスマスを過ごせよ」 アリオスはそれだけを言うと、笑いながらキッチンに行ってしまった。 アリオス…。 私、本気なのよ? この間のアリオスのマンションでの一部始終を思い出すたびに、溜息を吐いてしまう。 結局、アリオスにお茶と夕飯のなべをご馳走してもらって終わった、日曜日。 これも珍しくアリオスがどこにも出かけていなかったからなのだが。 いつまで経っても、私は妹なのかな…。 「ほら、アンジェ、ぼけっとしてないで!」 「あ、はいっ!」 クリスマスイブといえば、ケーキ屋では一年で最大の書入れ時。 アンジェリークは姿勢を正して、しっかりとケーキを売るのに専念することにした----- 「アンジェ!!」 「レイチェル!!」 親友のレイチェルが恋人のエルンストと共に、ケーキを買いに来てくれた。 これは本当に嬉しくて、アンジェリークは満面の笑顔になる。 「この二人分の2000円のケーキを下さい」 「はい。有難うございます!! エルンストさん!」 親友のカップルは、甘いケーキが苦手なのにも関わらず、ケーキを買ってくれるのが嬉しい。 といっても、アンジェリークがアルバイトをしているケーキ屋は、甘さを控えめにしたケーキで、とても美味しくて評判の店なのだ。 「じゃあ、アンジェ、がんばってね?」 「うん、レイチェル」 楽しそうな幸せなカップルを見送った後、アンジェリークはフッと寂しくなる。 私も、アリオスと一緒に過ごせればいいのに・・・ 親友が心の奥では羨ましくてしょうがない。 アンジェリークは気持ちを再び整えると、ケーキ販売に専念した。 24日には幸せなカップル、家族のためにケーキを買い求める人など、たくさんの幸せなオーラをアンジェリークは精一杯受け取る。 それだけでも、温かな気持ちになり、アンジェリークはこのアルバイトをして良かったと心から思えた。 25日の7時を過ぎると、売れ残ったクリスマスケーキの割引が始まる。 アンジェリークのいるところは人気店であるが、毎年、すべての人々に美味しく食べてもらえるようにと、少し多めに作るのだ。 割り引かれたケーキはそんなに多くなく、ホールで5個だけだった。 それも続々と売れていき、もうひとつしか残ってはいない。 売れ残りのケーキ…。 何だか私みたいだな…。 売れ残ったら、私が買ってあげるからね? 売れ残ったケーキに、彼女は妙な親近感を覚えた。 「そのケーキをくれ」 「あ、はい、ただいま」 妙に聞きなれた小枝と思いながら、アンジェリークはケーキをすばやく詰める。 「お待たせしました! 1500円です…あ…」 目の前にいたケーキを求めた客は、なんとアリオスだった。 「アリオス…」 「ケーキと、ついでに、おまえをもらってく」 「きゃあっ!」 机の奥にいるアンジェリークを、いきなりアリオスは掴むと、そのまま担ぎ上げる。 「アリオス〜!!!」 アンジェリークは嬉しさとそして困ったような声を上げた。 それを見ていた店長が、柔らかな微笑を浮かべる。 「しょうがありませんね、アンジェリーク。今日はもう全部ケーキも売れましたから、荷物を持って帰っていいですよ? ご苦労様です」 「あ、有難うございます。 アリオス、下ろして…」 「逃げるなよ。5分以内だ、アンジェ」 「うん」 アンジェリークはアリオスに肩から下ろしてもらうと、慌てて更衣室に入り、着替えをして、荷物を持ってでる。 ここまでが僅か3分ほどだった。 「よし、行くぜ」 戻ってきたアンジェリークを、アリオスは再び担ぎ上げてしまう。 「お疲れ様、アンジェちゃん」 「…皆様お疲れ様でした・・・」 アンジェリークは恥ずかしくて、少し俯き加減で挨拶をした。 「アリオス…、下ろして?」 「ダメだ」 「お願い〜!!」 恥ずかしそうに彼女は何度も懇願するが、そんなことで解放してくれるアリオスではない。 駐車場まで来て、ようやく彼は肩から下ろしてくれた。 車のドアをあけて、助手席に乗せてもらい、アンジェリークはいつの間にかケーキを持たされていた。 「-----アンジェ、今夜はうちでクリスマスしねえか?」 「ホント!! うん! 嬉しい!!」 望んでいたことを言ってくれて、アンジェリークは大きな歓声を上げて喜ぶ。 「あ、だったらうちに寄って? アリオスへのプレゼント、用意してあるの…」 「プレゼントならもうあるぜ?」 「え?」 次の瞬間には、しっかりと抱きしめられていた。 「------プレゼントはおまえだ…」 「アリオス…。うん…」 「おまえの”カレシ”とやらに、俺をしてくれるんだろ?」 甘く囁かれて、アンジェリークはそっと頷く。 「愛してる…メリー・クリスマス、アンジェ」 「私も、愛してるわ…。メリー・クリスマス…」 唇が深く重なり、アンジェリークはその甘い感覚に酔いしれた。 「-----ずっと気が気じゃなかったんだからな? おまえが俺以外の男と付き合うなんてことは、俺の辞書にはねえからな?」 「でも、カレシと過せって・・・」 アンジェリークはほんの少しだけ切ない声で囁く。 「バカ、いちいち俺の言葉を本気にすんなよ…? あれは本心じゃねえ・・・」 「うん」 アンジェリークはふんわりと柔らかな微笑を浮かべると、アリオスに抱きつく。 「これからずっと、クリスマスは一緒に過ごそうぜ?」 「うん。ずっと、一緒ね」 アンジェリークは更にアリオスを抱きしめると、甘く微笑んだ。 「あなたも、私にとっては最高のプレゼントだわ…」 「忘れられない一夜にしてやるぜ・・・」 再び唇が甘く重なっていく。 売れ残りのケーキと自分を重ね合わせていたけれども、残ったおかげで、一番の幸せな瞬間を掴むことが出来た。 幸せな気分に浸りながら、アンジェリークは、「売れ残りのケーキ」も悪くないと思う。 ケーキが幸せを運んできてくれたのね? 今夜は最高に幸せな、クリスマスです…。 アリオスと二人で過す誠也は、蜂蜜のように甘く、アンジェリークにとっても「忘れられない聖夜」になった------ |
コメント クリスマス創作第二段です。 ぎりぎりセーフでしょうか。 皆様は素敵な聖夜を過されたでしょうか? アリオスはもちろん・・・。アンジェと(笑) |