私にクリスマスはない----- そんなものは忘れ去れと、私のハンドラーから言われたから。 けれども、少しはクリスマスの気分を味わいたいから、小さな子供用のツリーを買った。 これぐらい許されるでしょう? アンジェリークは大きな溜め息をひとつ吐くと、小さなアパートメントの一室に入った。 ここは今の彼女の安らぎの場所。 一週間後にはどこにいるか判らない身の上だが、今の安住の場所はここだ。 出来る範囲のなかで、女の子らしく、落ち着くことが出来るように、インテリアを楽しんでいた。 カーテン、淡い色が特徴のイラスト、ガラスの花瓶、テーブルの上のクロス…。 これらは全て、この場所でマーケットなどで手にいれたものだ。 窓辺にはガラスの花瓶に可愛い花が活けられていて、部屋を華やいだ雰囲気にしてくれるが、今日はそこに小さなクリスマスツリーが飾られる。 「ここに飾ると、ぐっと雰囲気良くなると思うのよね」 小さな木にモールで出来たオーナメントを飾り、出来上がると、とても幸せな気分を味わった。 お茶の時間は、今のお気に入りであるロイヤルミルクティーを淹れ、作り置きをしている、ジンジャーブレッドマンクッキーをを添える。 これもどこかクリスマスぽくて、彼女は大満足だ。 ゆったりとしたお茶の時間の間も、アンジェリークはクリスマスツリーを眺め、幸せな気分を味わっていた。 不意にセキュリティロックが外される音がする。 これが出来るのは、たったひとりしかいない。 アリオス------ 彼女のハンドラーだ。 彼が彼女のテリトリーに来る理由は、ひとつしかない。 仕事。 極めて私情を挟むのを嫌がるタイプの彼は、アンジェリークの心の中にわざとなのか踏み入れようとは決してしない。 彼女としては踏み入れたいというのに----- 「お茶の時間とは、俺もタイミングが良いらしい」 アリオスはドアを開けながら、僅かに微笑みを浮かべていた。 どこか不適なのだが、それでも魅力的だと、彼女は思う。 「アリオスさんもコーヒーいかがですか? インスタントでよければ」 「ああ」 普通、アリオスを見るだけで畏縮する者が多い中、アンジェリークは平気だった。 それどころか、”好き”という感情すらある。 「クッキーもありますよ。コーヒーが入るまで、食べていてくださいね」 「ああ」 溜め息を吐いて、アリオスは目の前にあるクッキーを見た。 「間抜けなツラしてんな・・・。誰かにそっくりだ」 アンジェリークと一緒にいると、どこか緊張感が抜けてしまう。 それが本当は心地良いことを、彼は必死に否定していた。 アリオスは苦笑すると、彼女が小さなキッチンに立っているのを見つめる。 本当は、こうやって普通に生活をするのが、いいんだろうがな・・・。 俺はおまえから総てを奪っているか? アンジェリーク…。 「お待たせしました!」 明るい声でアンジェリークは、アリオスにコーヒーを出す。 ちゃんと彼好みのブラックというところも、心得ている。 それがアリオスはさりげなく嬉しくもあった。 「クッキー、食べてくださいね? ジンジャーですから、アリオスさんも大丈夫なはずです」 「ああ」 アンジェリークの微笑みに、アリオスは軽く頷く。 彼女の笑顔は、緊張感がないどころか、癒しすら与えてしまうものだ。 それがこの世界では弱点になるのではないかと、彼は時折考えることもあった。 コーヒーを一口飲んで口を湿らすと、アリオスは怜悧な瞳をアンジェリークに向ける。 「クリスマスプレゼントだ」 彼はそれだけを言うと、封筒を一通差し出す。 「これは?」 「開けてみれば判る」 アンジェリークは素直に頷くと、封筒を開けてみた。 「あ・・・」 そこには、特急のチケットと、ホテルのセミスウィートの宿泊券が2日分入っている。 もちろん、ディナー券がついている。 行き場所は、クリスマス期間、幻想的な聖誕祭をすることで有名な、クリスマス市だ。 また、驚いたことに23日チェックイン、25日チェックアウトとかかれており、しかも、人気の最高級ホテルだ 「あの…、これ」 「だから言っただろ? クリスマス・プレゼントだってな?」 「本当に、嬉しい…」 アンジェリークは本当に心から嬉しそうに、封筒を覗いては、幸せそうな笑みを浮かべている。 「これが俺たちからの今年のねぎらいだ。受け取ってくれ」 「はいっ!」 アンジェリークは本当に素直に嬉しそうに頷いている。 ここがアリオスにとって、アンジェリークの良いところだと思うと同時に、ウィークポイントだと思うところであった。 「出発は来週だ。楽しんで来い」 「はいっ!」 「今日の俺の用事はこれだけだ」 アリオスはそういうと、コーヒーを飲み、立ち上がる。 「本当にどうもありがとうございました! アリオスさん!」 「ああ」 彼はただそれだけを返事すると、静かに帰っていく。 アリオスを見送った後、アンジェリークは、再び、封筒の中身を見た。 特急とディナーのチケットは一人分。 だが、部屋は二人分の場所がとられている。 ひょっとして…。 アリオスさんも一緒…? そう考えると、なんだか顔がにやけてきた。 幸せでたまらなくて、小躍りしたくもなってしまう。 すごく…、楽しみだな…。 その次から、アンジェリークは旅の準備におおわらわだった。 アリオスの秘書からも、新年にかけては大きな仕事も入らないと聞かされ、とてもよい気分になる。 どんな旅行になるかなあ。 …一応、アリオスさんが着ても大丈夫な服だけは、用意しておかなくっちゃ!! 旅行が本当に楽しみで仕方がない、アンジェリークであった。 旅行の当日、荷物を持って特急に乗り込む。 特急はグリーン車でおよそ2時間の旅は快適に過ごせる。 途中、とても甘いアイスクリームを買って食べ、気分はとても心地が良い。 これで、隣にアリオスさんがいたらなあ・・・ そんなことを夢想しては、微笑んでしまう、乙女なアンジェリークであった。 クリスマス市の駅に着き、アンジェリークはぶらぶらと歩き始める。 散歩がてら、ホテルにまずは向かった。 ホテルでクーポンを出すとき、一瞬、どきどきとしたが、直ぐにクラークがきちんと処理をしてくれた。 「それではコレット様、お部屋にご案内いたします」 「はい」 荷物をちゃんと盛ってくれるベルボーイに、アンジェリークはなんだか嬉しく感じながら、後ろについていく。 「こちらです」 案内された部屋は、やはり文字通りのセミスィート。 大きなダブルベッドや、部屋自体もとてもかわいらしくて、思わず見入ってしまう。 「ではコレット様。私はこれで」 「はい! 有難う」 アンジェリークはドアが閉まるのを確認すると、そのままベッドの上に飛び込んでいった。 「わ〜っ!!」 お約束のスプリングの硬さの確認。 アンジェリークはぽんぽんと何度もベッドの上を飛んで遊ぶ。 「あ・・・」 不意にテーブルの上に、リボンがかかった箱があるのを見つけ、アンジェリークはベッドから降りて、それを見ることにした。 箱の横には、”To Angelique”と書かれたメッセージカードが置いてあり、彼女はそれを手に取る。 Merry Chrisitmas Angelique 箱の中を見てくれ。 Arios アンジェリークはそれを読んだあと、子供のように箱のリボンを解き、鼻歌を歌いながら、箱を開けた。 その瞬間、彼女の表情が固まる。 そこに入っていたのは、無線機のヘッドセット。 そして------- ライフル銃コルトM16A1が分解されて中に入っていた------- |
コメント クリスマス創作です。 アンジェにはとんだクリスマスか?(笑) 甘いシーンもありますので〜。 |