「もしもし、アンジェ? ああ、俺だ。今仕事終ったからな。ああ。真っ直ぐ帰る。あたりまえじゃねえか…おまえの手料理が一番だ。待っててくれ? ああ、愛してる」 隣で、妻に"かえるコール”をするアリオスに、オリヴィエはふうっと溜息を吐いた。 ホント…。 変われば変わるもんだよねえ… 電話を切ったアリオスに、オリヴィエはニヤニヤと笑いかける。 「何だ、気色の悪い」 「いや〜、まさかあんたが、こんなに"家庭人”になるなんて、一体誰が想像したかな〜ってね?」 「うるさい」 アリオスは、話しながらも、手早く帰る支度をしている。 よほど早く帰りたいに違いないと、オリヴィエは苦笑する。 「だってさあ、毎晩、遊び歩いて、女とっかえひっかえしてた"プレイボーイ"が、愛する女性と結婚した瞬間、こんなに家庭を大事にするなんてね〜」 「決まってる、アンジェは世界一の女だ」 きっぱりとはっきり惚気る彼に、オリヴィエは微笑まずにはいられなかった。 「たまにはさ〜、以前みたいにクラブで飲んだりしようと思わないの!? 何だったら今日だってつきあってあげるよ」 「いやかまわねえよ」 アリオスははっきり言って、オリヴィエを見る。 「そんな下らねえ場所でくだらねエ女と飲んでる暇はねえよ! 今夜はアンジェと約束があるからな?」 「約束?」 「"膝枕”してもらうんだ。だから帰る」 その言葉に、オリヴィエはここまであのアリオスを骨抜きにしてしまった、彼の妻アンジェリークを感心せずにはいられない。 最も、アンジェリークは、アリオスに10歳から育てられていたせいか、彼好みの女性に成長してしまったから、無理もない。 アンジェちゃんも今妊娠中なのに大変だ…。 子供がもう一人増えたようなものだからね〜。 「あんた、もう直ぐ父親になるなんて、信じられないよ。 私たちの中で一番そういうのに縁がないように思えたのに、意外に一番だなんてね〜」 「オリヴィエ」 「はい?」 深く勝ち誇ったように笑うアリオスを、オリヴィエは観察せずにはいられない。 「結婚はいいぞ? 精一杯幸せになれる!」 たっぷりと自信を持って言われて、オリヴィエは呆気に取られる。 「じゃあな。早く帰って、アンジェを安心させてやらなきゃいけねえからな?」 肩をポンと叩くと、アリオスはご機嫌にも事務所を出て行く。 それを見つめながら、オリヴィエは、幸せと呆れが入り混じった表情をすると、電話を手に取った。 「ねえ、ロザリア? 今晩そっち行っていい? また相棒殿に惚気られたよ〜。慰めてくれる?」 オリヴィエもまた、アリオスの"幸せ病"に感染した一人のようである---- |