甘い香りのするその花はアルカディアに芽生えた新種の花だった。 「そういうの好きだろ?」 「うん」 控えめな白い小さな花。だが、その香りは存在感があって。いざなわれる蝶や蜂、蜜を糧にする小鳥が集まっている。 「この森の中を歩いてたら、咲いてたんだよ」 「そうなんだ」 約束の地の草原からつながる森に連れてこられて、見せられたそれをアンジェリークはとても満足げに見つめる。 「ありがとう、アリオス!」 「別に礼を言うほどのものじゃねぇだろ? 俺は花が咲いていたのを見つけただけだし」 「それでも連れてきてくれたのはアリオスだから」 「バーカ」 クシャリ…と髪をかき回される。照れ隠しのアリオスの癖だ。 (え……) トクン…と心臓が高鳴る。いつもなら、髪がくしゃくしゃになる〜と思うはずなのに。 「あれ……」 鼓動がいつもより早い。息が詰まりそうだ。今日の気温は快適なはずなのに、どこか暑い。いや、身体が熱くなっているのだ。 「アンジェリーク……」 自分の名を呼ぶアリオスの声もどこか熱い。そっと頬に伸ばされるアリオスの大きな手。それすら荷も、心が、身体が熱くなる。 「んっ……」 引き寄せられて、口付けられる。いつも以上に荒々しい口付け。けれど、逃げる気にはなれずにそのまま受け止める。身体が、心がアリオスを求めて止まない。 「あ……」 深い口付けが終われば、身体に力は入らなくて。その身体をゆっくり横たえられる。 「アリオス……」 呼びかける声は自分でも熱いと自覚している。だが、どうにも止まらない。服が汚れるとかそういうことよりも、目の前のアリオスが欲しくてたまらない。同じように欲望に濡れるアリオスのオッドアイに見つめられる、ただそれだけで身体が熱くなる。 そして、どちらからともなく再び唇を重ねた……。 「アンジェ、あの花の調査結果が出たよ」 「ありがとう?」 あまりにもいい香りだったから、あのあと少しだけもって帰って、レイチェルに調査を頼んだ。 「いい香りだよね。でも、香水にするのには向いてないかも」 「あら、どうして?」 こんなにいい香りだから、香水にできたらいいのに…と思ったのも事実で。 「うーん。何ていうかね。実験動物たちの中でつがいの奴だけがこの香りに反応しちゃってさ。人間相手に応用したら、カップルにだけ反応する媚薬ってのも作れそうだけど」 「……」 あっさりと言ってのけるレイチェルにアンジェリークは硬直する。あの時の妙な昂揚感。熱に浮かされたような時間が一瞬で脳裏によみがえってくる。 「どうしたの、アンジェ?」 固まってしまい、何も言わなくなったアンジェリークをレイチェルは不思議そうに見つめた。 |