LOVE


ねえ、キスして・・」
「クッ・・・、しょうがねえな・・・
 余りにも可愛らしくキスを強請るアンジェリークに、アリオスは喉を鳴らして笑う。
「あ・・・、煙草は消してね?」
「はいはい、お姫様」 
 大人の余裕なのか、彼はまるで子供を宥める父親のように言うと、吸っていた煙草を、灰皿に押し付けた。
 ぎゅっと抱きしめてくれるのだが、それもまた、子供にするのと同じように、軽く抱擁するだけ。
 それが彼女には癪に障って、小さな子供のように頬を大きく膨らませる。
「またそうやって子ども扱いする!」
 そうすることが、さらに“子供っぽく”させることを、彼女は知らない。
「しょうがねえだろ? “お子様”なんだからよ?」
 余裕を持った微笑を浮かべながら、頬を包み込む彼に、彼女は背伸びをしながらもそっぽを向いた。
「だったら、もう“えっち”してあげない」
「なっ
 流石に、この一言には、アリオスは唖然とする。
 伝家の宝刀を出されて、アリオスは慌ててしまう。
 彼女だから、”したい”のに、それを止められたら、哀しくて堪らない。
 彼女の甘い肢体があるからこそ、毎日頑張って仕事ができるのに。
 一日の終わりの最高のご褒美なのに。

 呆気にとられた彼の表情に、アンジェリークは内心ほくそえんだ。

私の勝ちね? アリオス!

 たまにはアンジェリークは勝ちたいと想う。
 いつもは、彼に上手くあしらわれているので、これぐらいはいいだろうと想う。

「だって、子供に“えっち”なんかしたら、アリオス、犯罪者よ?」
 くすり。
 アンジェリークは本当に楽しそうに笑いながら、アリオスの耳元で囁いた。

 アリオスの表情が、俄かに、引き攣る。
 彼は溜息を付くと、アンジェリークを見た。
「判った。じゃあ、キスもお子様用だな?」
「え?」
 今度は彼女が大きな瞳をさらに見開いて、彼を見上げる。
 ほんの一瞬、アリオスは掠めるように彼女の頬にキスをすると、そのまま彼女から離れてしまった。
「アリオス?」
 彼女は不満そうに、そして強請るような眼差しを彼に向ける。
 今度はアンジェリークが焦る番だ。

 すこし瞳が潤んで、とても艶やかで可愛らしいのだが、そこで望むものを上げてしまうと、彼女の完全勝利になってしまう。
「子供なんだろ? だったらこれでおしまい」
 ニヤリと余裕のある微笑を浮かべられて、アンジェリークは口を大きく尖らせる。
 煙草を吸う彼は、余裕のある”大人”そのもので。

「アリオスの意地悪・・・」
 その少し拗ねたところがたまらなく可愛らしい。
「“大人の”をして欲しいか?」
「・・・判ってるくせに・・・」
 彼に頬を捉えられて、彼女は咎めるようにその異色の瞳を捕らえた。
「だったら、おまけつきな?」
 よくない微笑を浮かべられて、アンジェリークはその罠に気が付くがもう遅い。
「やっぱりいらない、大人の!!!」
「良いから、たっぷりな・・・?」
「やあん」
 そのまま深く口付けられる。
 口腔内をくまなく愛撫されて、アンジェリークはそのまま体の力が抜けてゆく。
 力が抜けたところで、アリオスに床の上に押し倒されて、そのまま身体を弄られた。
「大人の扱いしてやるよ」
「ああんっ!」
 そのまま、アンジェリークはアリオスの紡ぐ愛の世界に溺れていった----
 天使も、愛する男性には叶わないようだ。


コメント

夏のペーパーの再録です。
はい、切羽詰ってます(笑)