Have Yourself A Merry Little Christmas


 街を見渡せば、宝石のようなイルミネーション。
 人工に作られた、エレクトリカルなクリスマスツリーを見つめながら、アンジェリークは、白い息を何度か吐いていた。

 アリオス、今日もお仕事遅いんだ…。
 仕方ないよね、彼は普通の会社員とは違うし…

 クリスマスの彩られた時計台を見上げれば、もう八時になろうとしていた。
 もう二時間も外にいるせいか、アンジェリークの身体は冷え切ってしまっている。
 何度も手袋をした手を擦り合わせて温めることも適わないので、手に息を吹きかける。
 彼女の手には、恋人へのクリスマスプレゼントが握られていて、それが一番優先すべきこと。
 少しぐらい寒くても、アンジェリークは平気だった。
 八時を知らせる鐘が鳴った。
 その瞬間、アンジェリークは体が心地よく温かくなるのを感じた。
「あ…」
 首には良質のカシミアの男物のマフラーが掛けられ、身体にぬくもりを感じる。
「-----メリークリスマス、アンジェ」
「アリオス!」
 アンジェリークの表情が、一気に晴れ上がり、明るいそれとなる。
 先ほどまで灰色に見えていたクリスマスのイルミネーションが、明るく薔薇色に見えるような気がアンジェリークにはした。
 アリオスは背後から抱きしめながら、彼女の頬に触れる。
 頬を触れられて、アンジェリークはその甘い感覚に目を閉じた。
「すっかり冷たくなっちまったな…。すまなかったな…。仕事が長引いたばっかりに」
「…いいの…、お仕事だもの…」
 アンジェリークは、アリオスの仕事を誰よりも理解してくれている。
 それが彼には嬉しい。
 彼女は、アリオスの元上司の娘で、彼の職務の重さは誰よりもよく判っている。
 だから決して我儘は言わなかった。
 逢えるだけで幸せだと、彼女は言う。
 こんな彼女だから腰、愛しくて堪らなかった。
「アンジェ、温めてやる」
「うん」
 アリオスは、アンジェリークをコートの中に招き入れて、そのまま包み込む。
 往来の多い通りにもかかわらず、二人は暖め合っていた。
「アリオス温かい」
「だろ?」
 不意にアンジェリークは、鉄の塊の感触を得た。

 銃…?

 アンジェリークは不安げにアリオスを見上げ、彼はその眼差しの意味を捉えた。
「不安か?」
 栗色の髪を撫でながら、アリオスは優しい眼差しをくれる。
 それを見るだけで、アンジェリークは心が満たされるのを感じた。
「不安じゃないわ…。今日もこれで誰かを守ったんでしょう? だったら…」
 彼女はただ笑って、彼を優しく包み込んでくれる。
「サンキュ
----車を停めてる、行くぞ」
「うん」
 二人は一つのコートで、ゆっくりと街を歩く。
「どこか行きたいところはあるか?」
「ううん…。ない…。
 この間言ったみたいに、あなたの部屋で過ごすのが一番幸せ」
「アンジェ…」
 さらに腕に力を込めて、アリオスはアンジェリークを抱きしめた。
「一緒にいるのが凄く幸せ。だって、今日から二週間はあなたの部屋で、一緒に過ごせるもの。こんな嬉しいことはないわ…」
 アンジェリークは今、学校の寮で暮らしている。
 両親を亡くした彼女のために、アリオスが”あしながおじさん”として、彼女の面倒を見ている。
 最初は彼を”あしながおじさん”として慕い、恋心を抱いた。
 ちゃんと出会ったのは彼の誕生日。
 狙われていたアンジェリークを、アリオスが守ってくれたのだ。
 それ以来、二人は、”恋人”以上の関係になっている。
「俺も明日から楽しみだぜ? 帰ってきたらおまえがいるんだからな?
 明日は休みだし、ふたりでゆっくりしような?」
「うん…」
 アリオスのコートの中にすっぽりと埋まって歩いていると、横を通り過ぎるカップルがみんな振り返って見る。
 そして、二人の姿に羨ましそうに微笑んだ。
 二人は、駐車場に着くと、すぐに車に乗り込んだ。
 アリオスは、身体が冷え切っているアンジェリークのために、暖房を入れてやり、温かくなるまで、その手を握り締めてやった。
「寒くないか?」
「うん、大丈夫」
「唇は…?」
 そう言いながら、アリスの顔が近づいてくる。
 唇を重ね、アリオスはアンジェリークの冷たいそれを優しく包み込み、温めてやった。
 唇が離された後も、アンジェリークの瞳は官能に潤んでいる。
「身体は、後から温めてやるからな?」
「もう…バカ…」
 アリオスはフッと笑って、車のアクセルを踏むと、自分のマンションに彼女を連れて行った-----


「ごはん、直ぐに作るわね? 明日は豪華にするから…」
「-----かまわねえよ。気にすんな。クリスマスだろうと、何だろうと、俺は、おまえが側にいればそれでいいんだ」
「うん…、私も」
 アリオスの部屋は最上階にあり、ペントハウスだった。
 二人はエレベーターに乗って、最上階まで向い、そこで電子ロックをあけた。
「ほら、入れ」
「うん…」
 部屋に入り、明かりが落ちたリビングに、クリスマスツリーのイルミネーションが輝いている。
 この間の休みに、二人で飾ったものだった。
「アリオス、つけっぱなしはダメよ?」
 くすくすと笑いながらリビングにアンジェリークは入り、その瞬間、彼女は息を呑んだ。
 リビングのテーブルには、ちゃんとケーキとシャンパンが用意してあり、温かなチーズフォンデュのセッティングまでされていた。
「アリオス…」
 アンジェリークは嬉しくて泣きながらその場に立ち尽くす。
「おい、喜ぶのはまだ早いぜ? もうひとつ」
「もうひとつ?」
 アンジェリークは判らないといったように首を傾げた。
「ほら探せ? ここで変わってるもんがあるぜ?」
「変わってるもの?」
 アンジェリークはそれが何かが知りたくて、一生懸命探す。
「あっ!」
 彼女はツリーの星を指差す。
 星の上に、小さなものがついている。
 彼女はそれに近づいてみた。
「-----アリオス…」
 振り返ってみると、アリオスが優しく笑いかけてくれている。
「とってみろよ?」
「うん…」
 背伸びをして星に「ついているものを取ると、それは指輪だった。
 煌く星のようなダイヤが付いている。
「アリオス…」
 アンジェリークは嬉しさの余り、身体を震わせて泣いていた。
 彼は背後からアンジェリークを抱きしめると、指輪を彼女の手から取る。
「左手出してみろよ?」
「…うん…」
アンジェリークは左手を差し出すと、アリオスはそれを愛しそうに握る。
「一緒にならねえか?」
 アンジェリークはもう声で返事をすることが出来ない。
 ただ頷いて、彼の”プロポーズ”を受け入れる。
「一生なくすなよ?」
 彼は優しく言うと、アンジェリークの薬指に指輪を填める。
「幸せにするからな?」
「…はい」
 アンジェリークは輝くツリーを見つめる。

 神様…。
 今年は最高のクリスマスです…


コメント

60000番のキリ番を踏まれたLynne Sawamura様のリクエストで、
「クリスマス仕様で幸せな2人」です。
さり気に「Time」の二人に登場していただきました。
ただのラブラブカップルになってしまいました。
クリスマスの意味なし(笑)