Lipstick


「秋色の新色か〜。可愛いよねえ」
「うん」
 デパートのコスメ売り場で、アンジェリークとレイチェルは、新色のリップに魅せられていた。
「何か買っていこうかな〜。明日エルンストとデートだしさ!
 ここはちょっとびっくりさせたいわけじゃない〜」
 レイチェルはうっとりとリップを見つめながら、瞳を輝かしてる。
「アンジェもどう? アリオスさんを驚かすっていうのは?」
 著名な美容師である彼に”綺麗”だと言ってもらえるだろうか?
 言わせてみたい-------
 アンジェリークは心からそう思ってしまう。
「・・・うん。今夜から泊まりで、明日はどこかに連れて行ってくれるって言ってたから、…デートに付けてみようかな・・・」
「だったら買おうよ!! お互いに気にいった色をさ!」
「そうね!!」
 少女たちは大好きな男性(ひと)の喜ぶ顔がみたい------
 恋心から、二人は一生懸命リップ選びに懸命になる。
 
 アリオス…。
 喜んでくれるかな…?
 喜んでくれたら、すごく嬉しい…

 アンジェリークは一生懸命考えて、淡いピンクのリップスティックを手にとった。
 これなら愛らしい色だし、まだ高校生の自分に相応しい色だと思ったから。
「少しお付けになってみますか?」
「あ、お願いします…」
 美容部員がサンプル用のリップパレットで唇に色をつけてくれた。
 ほんのりと輝くパールピンク。
 それだけでも”大人の女”になった気分になるから不思議だ。
「いかがですか? とっても愛らしくてお似合いですよ?」
「有難うございます…」
 鏡で映る自分。
 確かにいつもよりは愛らしく綺麗に見えるような気がする。
 ------だが、何かが足りない。
 同様にしてもらったレイチェルも同じように見える。

 まだ私がルージュには早い歳だからかな…?
 でも、可愛いし、買ってみようかな…

 リップの色に違和感があるのは、自分の歳のせいだと思い、アンジェリークはこの色を買うことにした。
 他の色は似合わないような気がしたから。
 結局、レイチェルも、最初自分が選んだ色に落ち着いたようだった。

「明日のデートはこのリップで勝負だね!」
「そうね!」
 ふたりとも、大事にリップの入った袋を抱き締めるようにして歩く。

 アリオス、気にいってくれるかなあ・・・。

 共に、歳の離れた男性と付き合っているせいか、釣り合うように懸命に背伸びしたい
 ふたりは愛する男性の照れた顔を思い浮かべながら、幸せな気分に浸っていた。

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「おかえり」
 アリオスのマンションに入ると、彼が既に帰ってきていた。
「たっ、ただいまっ! 早かったんだ」
「まあな」
 アンジェリークは、スーパーの食材の袋にまぎれて、慌ててリップの袋を隠す。
 明日までは黙っておきたかったから。
「ご飯直ぐ作るわね?」
「ゆっくりでかまわねえぜ? 今日はいつもと違って余裕があるからな?」
 ニヤリと笑われてアンジェリークはその意味を深読みすると、一気に顔を真っ赤にさせた。
「あ、ごはん♪ ご飯作ってくるね〜」
 不自然にも慌ててキッチンに向かう彼女を見送りながら、アリオスは苦笑していた。

「おい、ちょっと煙草を買いに行って来るから」
「あ、いってらっしゃい〜」
 鼻歌を歌いながらアンジェリークは夕食作りに夢中になりつつ、彼を明るく見送る。
「何か甘いもんでも買って来てやるよ?」
「うん、有難う!!」
 明るい彼女に見送られながら、アリオスは静かにマンションを後にした。

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 情熱的な夜を過ごし、二人は10時過ぎまで寝ていた。
 その後おきて、出かける準備を始める。
 朝食も外で済ませて、アンジェリークが以前から見たがっていた映画をみるのだ。
 彼女はベッドから恥らいながら出て、素早く下着を身に着ける。
 その後、手早く身支度を整えて、いよいよリップの登場だ。
 リップを塗る指が、わずかばかり震える。

 アリオスが喜んでくれたらいいな…

 震える指で何とかリップを塗り終えた。
「アンジェ、支度は出来たか?」
「アリオス…」
 タイミングよく彼が部屋に入ってきて、アンジェリークは振り向く。
「リップか…」
 美容師の彼は、じっとそれを観察しているかのように見つめている。
「アリオス?」
「・・・ガキっぽい」
 その瞬間、アンジェリークの表情が青ざめる。
「そんな…」
 声が震えて、今にも泣きそうな表情になっていた。
「どうせ! 私は子供っぽいわよ! アリオスがメイクをしてる綺麗なモデルさんや女優さんに比べたら!!」
「おいっ!」
 アンジェリークは半分泣きながら怒り出し、アリオスにリップスティックを投げつける。
「だから俺が取ってやる」
「あっ、んんっ-------!!!!」
 手首を捕まれるなり引き寄せられて、深くキスをされた。
 アリオスのキスは唇を満遍なく陵辱し、リップを綺麗に取っていく。
 唇が離されたときには、すっかりリップははげ、代わりにアリオスの唇にリップが付いていた。
「あっ…」
 彼は手でそのリップを拭うが、それがとても官能的で、アンジェリークは目を奪われてしまう。
「おまえが似合う口紅は、俺が一番よく知ってんだよ」
「アリオス…」
 彼は、アンジェリークが逃げないようにとしっかりと腕を握りながら、ポケットからルージュを取り出した。
「あ…」
 それは昨日アンジェリークが買ったものと同じメーカーのルージュだった。
「昨日、おまえキッチンでルージュを落としてた。だから、おまえがルージュを買ったことは知ってた」
 彼は涙でいっぱいの彼女の瞳を覗き込みながら、指を顎にかける。
「今度からルージュを買うときは、俺が選んでやる。
 おまえが似合う色は、誰よりもおまえの”男”である、俺がよく知ってる」
「あっ…」
 唇が自然と半開きになった。
 流石は本職名だけあり、アリオスはアンジェリークの唇に丁寧にルージュをぬる。
 それがとても官能的で、彼女は心が甘く震えるのを感じた。
「ほら、出来た。鏡を見てみろよ?」
 見せられた鏡を見て、アンジェリークは甘い声を上げる。
 明らかに、先ほどのリップよりもしっくりときていた。
 何倍も艶やかに、そして綺麗に映る。
 だから昨日物足りなさを感じたのだと、いまさらながらにアンジェリークは感じた。
「俺にはおまえがこう映るんだぜ? アンジェ」
「アリオス…」
 彼は彼女をぎゅっと抱き締めると、耳元で甘く囁く。
「おまえは俺が一番、綺麗で色っぽいと思ってる女だ・・・。それを忘れんなよ?」
「・・・アリオス…」
 彼女は素直に頷くと、彼を艶っぽく見つめる。
「・・・うん。これからはアリオスがリップを選んでね?
 私が選んだものよりも数倍も素敵だわ?」
「リップは愛する男が選んだものが一番なんだぜ? アンジェ」
「私も…、そう思うわ…」
 二人は額を寄せあって笑いあった。
「さて準備が出来たところで、映画に行くぜ? お姫様」
「うん!!!」
 アリオスの腕に手を絡ませてアンジェリークは嬉しそうにジャンプする。
 リップスティックによって、更に、絆を茶顰めることが出来たような気が、二人はしていた-----

 これからアンジェリークのメイクボックスには、たくさんのリップスティックが並んでいくことだろう。
 だが、それらは全て、愛する男性が見立てたもの。
 いつでも少女をきれいにする魔法は、恋する男性が握っているから------

〜THE END〜
 

コメント

115000番を踏んでくださいました、ミキアンジェ様のリクエストで
「ルージュを絡めた気温が上がるようなお話」です。
リクエストどおりになりましたでしょうか?、書いてて楽しかったです。
 やっぱり男性が得うージュを引くのは、どこか官能的ですね(笑)

モドル