
アンジェリークはアリオスにブティックに連れていかれ、そこでドレスを渡された。 「オーナー、こんな豪華なドレス・・・」 用意されたドレスの生地の良さに、アンジェリークは目を丸くした。 「かまわねえよ。パーティに付き合ってもらうんだからな?」 「でも・・・」 困惑する彼女に、アリオスは笑いながら、ぽんと肩を叩いた。 「ほら時間がねえから早く着替えて化粧してもらって、美人にしてもらって来い!」 さらに強く背中を押されて、アンジェリークはフィッティングルームに押し込まれた。 中に入ると、そこはかなり広く、シャワー室やドレッサーが完備されている。 そのうえ、ニコリと笑った女性が、アンジェリークを待ち構えていた。 「さっそく、シャワーを浴びて下さい」 いきなり新品のバスローウ゛を渡され、彼女はシャワー室に押し込まれた。 そこからが慌ただしかった。 シャワーから出ると、顔にマッサージなど軽いエステが施された。その後に、彼女特有の清楚さを引き出すメイクが施され、最後にドレスを着せられた。 まるでお姫様のような待遇に、アンジェリークは少し気分を良くする。 「はい、出来上がり!」 女性の合図で鏡を見ると、そこには別人が立っているように見えた。 シンデレラって、こんな心境だったのかな… ドアを開けてもらって、フィッティングルームの外に出れば、そこには黒のタキシードに着替えたアリオスが、煙草を吸いながら待っていた。 その姿を見てアンジェリークは息を飲む。 元々、艶やかで端麗な容姿を持つアリオスは、見事にタキシードを着こなしている。 オーナー、凄くカッコいい…。 アリオスもまた、アンジェリークに暫し見惚れ、その清楚な美しさにじっと見つめることしか出来なかった。 まさかここまでとはな・・・ 彼をはにかんで見つめる彼女を見、益々可愛く感じる。 「なんだ? 俺に見惚れてたか?」 「もう! オーナーのバカ!」 真っ赤な顔で抗議をする彼女は、暗にそれを認めている。 「ほら、行くぜ?」 いきなり腰をぎゅっと掴まれて、アンジェリークはひるんでしまう。 「おまえ抱き心地いいな」 いきなり頬にキスされて、アンジェリークは恥ずかしさの余り目を剥いた。 「オーナー!」 彼女の真っ赤になって怒る姿も、アリオスには好ましい。 「そんなに目くじら立てて怒ったら、皺になるぜ? せっかく綺麗にしてもらったのによ。”馬子にも衣装”だけどな・・・」 ニヤリと魅力的に微笑まれて、その素敵さも癪で、彼女は口を尖らせた。 「おい、そんなことしてっと、可愛い顔が台無しだぜ」 甘い声で囁かれて、彼女は身体の力が抜け、骨抜きにされているのを感じた。 「判りました・・・」 「いいこだ」 さらに腰を強く抱かれ、彼女は甘い息が出る。 「行くぜ」 「はい」 そのままアリオスに導かれて、リムジンに乗り込んだ。 車のシートに身体を沈めていたが、隣にアリオスがいるせいか、意識してまう。 「緊張してるのか?」 「大丈夫」 堅い声の彼女に、アリオスは苦笑する。 「俺のそばにいればいいんだからな。心配するな」 その頼り甲斐のある言葉に、アンジェリークは僅かに頷いた。 二人を乗せた車は、高級ホテルの前に着いた。 セレブが来る度に派手にフラッシュがたかれ、その光の海の中を、眩しそうに泳いだ。 彼に手を引かれて歩く姿は、導かれる人魚そのもので美しい レセプション会場に入ると、誰もが二人を、お似合いのカップルとばかりに、羨望のまなざしで見つめている。 時にはうっとりと見惚れている者すらいる。 だが、少し意地悪な嫉妬のまなざしを投げ掛ける者も少なくない。 特にアリオスは艶やかで端麗な容姿を持つ、若くてリッチな独身男のせいか、狙っている女達は少なくはない。 そのせいか、嫉妬と悪意を含んだまなざしを、アンジェリークは感じた。 オーナー、もてるんだ・・・。当然よね・・・。あんなにかっこいいんだもの・・・。当然よね・・・。 少し苦しげに身を堅くするアンジェリークを守るかのように、アリオスはアンジェリークの細い腰をさらに強く抱いた。 「オーナー」 はにかんで俯く彼女に、新鮮な喜びを感じながら、アリオスは愛しくも思った。 「今夜は俺のそばから絶対に離れるなよ」 「はい」 自分のためを思って、彼が言ってくれていると、アンジェリークは思っていたが、実際は違っていた。 清楚な美しさをはなっている彼女に、男達が夢中になっているのが、アリオスには我慢ならなかったのだ。 彼女の腰を抱くことで、男達に自分のものだと宣言したかったのである。 俺のアンジェリークにそんなまなざしを向けるなんて我慢ならねえ・…。 アリオスは初めて、自分が本当は独占欲が強い男だと感じた。 フロアでダンスミュージックが奏で始める。 「踊るぜ?」 「はい」 アリオスがアンジェリークの手を取って、ダンスの中に入ったとき、誰もが驚いた。 いつもは誘っても、決してダンスの輪に入らないアリオスが、今日に限っては少女の手を取って参加しているのである。 ぎこちないアンジェリークの動きに、アリオスは微笑みを浮かべてしまう。 「俺のリードに任せろよ」 「はい」 アンジェリークはアリオスに掴まりながら、なんとかダンスゆったりとした音楽が流れ始め、急に体を抱き寄せられて、アンジェリークはどきりとした。 「俺に凭れてていいから」 「はい・・・」 そのまま、少し心臓を高まらせながら、アンジェリークはアリオスに身体を預けた。 華奢な彼女の身体をしっかりと支え、緩やかなダンスを続ける。 「オーナーって何でもできるんだ」 「惚れ直したか?」 さらりと言われて、アンジェリークは真っ赤になって、アリオスの胸に頭を預けた。 「バカ」 その一言が気持ちを肯定しているとはアンジェリークは気がつかなかった。 ずっとこうしていたい・・・。 彼女の小さな願いも、時間には適わない。 ダンスをしたり、彼と一緒に会話に入ったりして、瞬く間に時間は過ぎた ------------------------------- 「今日は色々サンキュ」 「いいえ」 二人はリムジンに乗り込んで、家路に急いでいた。 先にアンジェリークのアパートに寄ってから、アリオスは自宅へと帰るのである。 二人が乗っている座席の距離は微妙で、親密さとよそよそしさのちょうど中間ぐらいであった。 「今日のお礼を何かしなきゃな・・・」 「お礼なんて・…」 言いかけて、アンジェリークは彼の時計に目が行く。 あなたの一様刻みの時間が欲しい・… 「…あの…、この時計が欲しい…」 「時計!?} アリオスはびっくりして眉をしかめる。 もっと違ったものを欲しがると思っていたのだ。 彼女は…。 「ダメ…?」 上目遣いに強請るような眼差しで見つめられれば、アリオスは訊いてやらなければならなくなってしまう。 「判った」 優しく微笑むと、彼は時計を外してくれる。 その仕草も艶やかで、アンジェリークは思わず見惚れる。 「ほら」 ぽんと投げられた時計を、彼女は受け取ると、大切そうに胸に置く。 「有難うございます…。 忘れた頃に返しますから」 舌を少し出しながら笑う彼女に、アリオスは目を細める。 「オーナーの時間、私が預かりましたから!」 「お手柔らかにな。 アンジェ?」 「何でしょうか?」 「・・・おれからも欲しいものがある・…」 言って、彼は膣全、彼女の唇を奪った。 「・…!!!!!」 アンジェリークは、最初は驚愕してしまい、思わず目をむいてしまったが、アリオスの舌で巧みに愛撫され、瞳をゆっくりと閉じる。 甘い、甘いキス・…。 どうしてこんなに胸が高まるのかが、彼女は不思議でしょうがない。 それが”恋"だと気が付かないうちは・…。 「・・・ん・・・」 唇を離された後、彼女から漏れるは、名残惜しむ吐息。 頭が麻痺して、何も考えられない。 だが、この一言だけは口につく。 「オーナーのバカ・…」 少しはにかんだ言葉に、アリオスは甘い笑みを浮かべた。 「・・・続きはまたな?」 恥ずかしげもなく言われ、何も返せないアンジェリークであった。 覚えておいて・・・? オーナー・・・。 あなたの時間は私が貰ったのよ・・・・? 心の中で呟いて・・・・。 |