A Kind Of Hush


 あなたが私より綺麗な人を相手にしてることぐらいわかってる。
 だからこそたまらないの。
 あなたは私のもの-------
 そう強く宣言できたらいいのに、私にはそれが出来ない-------
 だって、私はまだまだ子供だもの・・・。
 あなたから見れば・・・。
 だけど17歳は大人の入り口なのよ・・・?

「こんにちは」
 アンジェリークはいつものように、学校の帰りにアリオスのサロンに寄る。
「あ、アンジェちゃん、アリオスさん、今、VIPのカット中…」
「うん判ってる。ちょっと待つね」
 アンジェリークは控え室に行こうとして、仕事中のアリオスを視線に止める。
 既にカットは完成してるらしく、カットの具合を訊いている様だった。
 カットしていたのは、パリコレにも出るような有名モデルだ。
 俗に”スーパーモデル”と呼ばれるやつだ。
 彼女は相当新しいヘアスタイルが気に入っているみたいで、アリオスに絶賛の声を上げている。
 だが、彼はいつものようにとてもクールだ。
 本当に嬉しかったらしく、彼女はアリオスを引き寄せると、親愛の情でその頬にキスをした。
「…!!!!」
 コレにはアンジェリークは冷静でいられなかった。
 まだ、自分に充分な自信のない彼女は、ささやかなことでも胸を痛めてしまう。

 アリオスのバカ…

 彼の意志からでないとはいえ、アンジェリークは切なく、そして哀しくなった。
 アンジェリークはすっかり拗ねてしまい、踵を返してサロンの入り口に向かう。
「帰ります・・・」
「あ、アンジェちゃん! 雨が降り始めたよ!!!」
 ランディが呼び止めるのもきかず、アンジェリークは、振り出しめた夕立の中を走っていってしまった。
「アンジェちゃん!!」
 ランディが困ったように溜息を吐き、空を眺めた。
 暫くして、VIPの客とともに、アリオスがフロントにやってきた。
「じゃあ、有難う、アリオス。またよろしく頼むわね?」
「有難うございました」
 客商売である以上、アリオスは丁寧に礼を言うと、女は艶やかな微笑を彼に送ると、タイミングよくやってきたリムジンに乗り込んでいった。
「あ、アリオスさん、アンジェちゃんが・・」
「アンジェが控え室に待ってるのか?」
 呼び止められて、アリオスは先ほど背中に感じた暖かな空気は彼女であることを確信して言う。
「いいえ、さっき、アリオスさんが頬にキスされたのを見て、やきもち妬いたみたいで・・・、その・・・、雨の中帰ってしまったんです」
 アリオスはちらりと窓の外を見た。
 夕立のように外は雨が烈しく降っている。
「------傘は・・・?」
「持ってないみたいです」
 アリオスは舌打ちをし、ランディをキツイ眼差しで見つめる。
「いつだ?」
「20分ぐらい前です」
「くそっ…」
 20分なら、アンジェリークはもう家についている。
「アリオス、次のゲスト!」
「ああ」
 セイランに呼ばれ、アリオスは仕方なく持ち場に戻った。

 あと3ゲストで俺の仕事は終わりだ・・。
 直ぐにアンジェのところに行かなきゃな・・・

                   -------------------------

「まあ、アンジェリーク!!」
 ずぶ濡れになった彼女を、母親は玄関で出迎えるなり驚いた。
「早く制服縫いで、さっとシャワー浴びてきなさい」
「・・・お母さん・・・喉痛い…」
「もう、そんな格好でいるからよ! わかったからシャワーを浴びて、温かくして、くすりを飲んで寝るのよ」
 熱っぽい顔をしたアンジェリークをバスルームに連れて行き、鞄などを彼女の部屋に持っていき、着替えのパジャマなどを用意した。
 シャワーを浴びた後のアンジェリークをベッドに連れて行き、風邪くすりを飲ませてやった。
「ゆっくり休みなさいよ?」
「うん…」
 アンジェリークはそれだけを言うと、掛けふとんに頭後と突っ込んでもぐってしまう。
 昔から拗ねるとする仕草である。
「おやすみなさい、アンジェ」
 アンジェリークは手だけ出して、母親に手を振った。

 アリオスのバカ・・・。
 もう、私の気持ちも知らないで・・・

 切なさに泣きそうになりながら、アンジェリークは息を乱す。
 熱っぽい躰が苦しかったが、薬が効いたのかうとうととし始めた。


 足音と話し声を感じて、アンジェリークは目が覚めた。
「いつもごめんなさいね、直ぐ拗ねる娘で」
「いいえ」
 優しいアリオスの声が聞こえる。
 アンジェリークは咄嗟にふとんの中にもぐって、丸くなる。
「アンジェ、入るわよ? アリオスくんがお見舞いにきてくれたわよ」
「おい、アンジェ」
 ドアを開けると、アリオスだけが部屋の中に入ってきたのが判る。
 彼の足音は容赦ない響きがした。
「おい! そんなに拗ねるな…」
「・・・だって、アリオスが悪いもの」
 ふとん中でアンジェリークはぼそっと囁く。
「俺が何悪いことした?」
「--------だって、アリオス、女の人とキスしてたじゃない…」
 拗ねるように言うアンジェリークに苦笑しながら、アリオスは更に彼女のベッドに近づいて行く。
「あれは不可抗力だ」
「嘘!! あっ!」
「それだけ元気であれば結構」
 布団を思い切るい外し、アンジェリークは驚かされた。
 が、次に驚かされたのは、アリオスの方------
「-------!」
 アンジェリークはふとんをでるなり、前かがみの姿勢になっていたアリオスの唇を一気に奪った。
「私の風邪がうつればいいの!
 誰かに、誰かに、コレが移ったら、アリオスを許さないから!!」
 半分泣きながら、強い調子で言う恋人に、アリオスはワ優しく微笑むと、形勢を逆転させる。
「きゃっ!」
 ベッドにこのまま寝かされると、アリオスはその熱い頬に触れる。
「おてんば娘は早く寝て治せ。
 うつったら、俺の看病してもらわねえといけねえからな?」
 ニヤリと笑われてアンジェリークは真っ赤になりつつ、素直にふとんを被った。

 この笑顔にヤッパリ私叶わないのかな・・・?

 アンジェリークは大きな息をすると瞳を安心したように閉じた。
「誰にも移さないでね?」
「ああ。おまえも早く治せよ? 俺の看病をしてもらうんだからな?」
「・・・うん・・・」
 ゆっくりとアンジェリークは夢のふちに向かう。
 アリオスは眠るアンジェリークを見つめながら、そのふっくらとした頬を指先で撫でた。
「お休み、俺の最強の天使様?」


 その後-------
 アリオスは風邪を引き、お約束どおり寝込んだらしい------
 

コメント

甘い甘い二人です(笑)
カーペンター好きいてたらついつい書いちゃった。

モドル