
今日は聖誕祭の前日。
新宇宙の女王陛下は、なんとかこの日を愛する人と過ごそうと、やっきになって仕事を片付けていた。
「あ〜、終わらない!! もう、サンタさん!! お願いです、私の執務を片付けてください!!」
書類に埋もれ、もうやけっぱちになりながら、栗色の髪の女王陛下は執務を続ける。
「大丈夫だって、女王陛下!! ちゃんと終わるって!! まあ、どっかの王立派遣軍の総司令官殿も、今ごろ執務で悲鳴を上げてるから」
しっかり物の大好きな補佐官に励まされて、ようやくその愛らしい顔に笑顔が戻った。
「…ん…、頑張る、レイチェル」
「そうこなくっちゃ!!」
補佐官・レイチェルは、親友でもある女王陛下の肩を抱いて、そっと額を当てて元気付けてくれる。
それが何よりも、嬉しいと女王陛下は思う。
「じゃあ、頑張ってね!」
「あっ、待ってレイチェル!」
「何?」
女王陛下に呼び止められ、無敵の補佐官レイチェルは振り返った。
「あのね・・」
言いかけて、さっとメモを書き、女王陛下は執務机の横に置いてある、陛下手作りの簡単なサンドウィッチの入ったバスケットにそれを入れた。女王陛下は、準備が整ったとばかりに、そのバスケットを補佐官に手渡す。
「さっき、お昼の休憩のときに作っておいたの。余り豪華なの嫌がるから…」
はにかんだ女王陛下の表情には、宇宙を導く創生の女王としての顔はなく、ただの恋する少女としての顔しかなかった。
「判った。総司令に渡しておくわ----アンジェリーク」
これはレイチェルが、女王陛下としての願いを訊いたのではなく、”アンジェリーク”の願いを訊いたことを示していた。
「お願いね」
「オッケ」
レイチェルが出て行く姿に、少しイタズラっぽい微笑を彼女は送る。
レイチェルがドアを閉めたのを見計らって、アンジェリークは嬉しそうに囁く。
「上手くいけば、エルンストに逢えるわよ、レイチェル!!」
女王陛下は、楽しい気分転換を図ると、再び執務に没頭する。
もちろん、愛する人と一緒に過ごすために。
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「それで、研究院的には、この規模で派遣軍の派遣を考えてーんだな?」
「そうです」
王立派遣軍総司令官と王立研究院々長は書類を片手に、女王の勅命の下、検討中だった。
力強いノックがして、総司令官と院長は、軌道に乗ってきた執議論を止めた。
ノックの仕方で判る。女王補佐官だ。
「ク、ククッ、お出ましだぜ?」
「何が…、ですか?」
「補佐官殿だ」
総司令官は、ニヤリと探るような微笑を、院長に向ける。
途端に院長は顔を赤らめ、それをごまかすために眼鏡のフレームを直したりする。
それが、司令官の失笑を誘う。
司令官は、執務机から立ち上がると、静かにドアを開けてやる。時々嫉妬すらしてしまうほど女王と固く結ばれている補佐官の為に。
「ようこそ。むさくるしい場所に」
相変わらず魅惑的な司令官だと、レイチェルは思う。
美しく筋肉のついた体は均整が取れているし、長身を包んだ、新宇宙の王立派遣軍の軍服は彼のためにあつらわれたのかと思うほどによく似合っている。
「今日は、”補佐官”としてきたんじゃないわ。”アンジェリーク”の友達としてきたのよ----アリオス」
「あー?」
「アンジェに頼まれてきたの、サンドウィッチ。アナタが、手作り物しか食べないことを配慮して! いい奥さんを持ったわよね。アナタにはもったいない」
散々悪態をついた後、レイチェルは乱暴にアリオスにバスケットを差し出した。
「サンキュ」
言って、アリオスはバスケットの中のメモにいち早く気が付き、それに目を通した。
「なるほどね」
僅かなイタズラっぽい微笑を口元に浮かべると、したり顔でレイチェルを見る。
彼は、ふいに後ろを向いて、エルンストにも同じ笑みを浮かべた。
「----女王陛下の勅命だ、補佐官殿、…そして王立研究院院長殿」
凛としたアリオスの声に、レイチェルは初めてそこにエルンストがいることに気が付き、顔を赤らめる。
「----今を持って、二人とも仕事は終了。補佐官殿も、院長殿も、後のことは、王立派遣軍総司令官に任せること!! HAPPY CHRISTMAS…だそうだ」
「バカ、アンジェ…」
アンジェリークの甘い罠に嵌ったレイチェルは、それこそ茹でたこのように顔を真っ赤にさせている。
「陛下…」
エルンストも、照れくさそうに俯いている。
「ほら、二人とも」
アリオスは、エルンストの背中を押して部屋の入り口に追い出した。
「後のことは任せろ? あいつの様子は、執務が片付いたら見に行くから」
「…ありがと…、アリオス」
「有難うございます」
「どういたしまして」
軽く肩を竦まして、それに答える。
「あ、アンジェにお礼を言っといてね」
「私からもお願いします」
エルンストは、深々と頭を下げる。
「オッケ。楽しんでこいよ、二人とも!!」
幸せそうな二人の後姿に軽く手を振りながら、アリオスは考える。
俺たち、いつになったら、クリスマスを楽しめるんだ?
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アリオスの執務がようやく終わる頃、空は既に夜の帳が下りていた。
彼は、軍服からようやく開放され私服に着替えて、執務室を後にする。
向かう場所は、もちろん女王執務室だ。
閉口するほどのセキュリティを潜り抜けて、女王執務室前に車でおよそ15分も経過していた。
執務室のドアを、何度もノックをしたが、中からは一向に返事がない。
「アンジェ…?」
アリオスが、そっとドアを開けると、月明かりに照らされて、机の上で疲れきって眠っているアンジェリークの姿があった。
「アンジェ…」
執務机を見ると、見事の仕事が綺麗に片付けられている。
片付けた瞬間に、その開放感から睡魔が襲ったのだろう。
彼は、アンジェリークにしか見せない、深く慈しみのある温かな光を彼女に投げかけ、触れるだけの口づけをする。
「----愛してる…」
アリオスは、静かに疲れきっている彼女を抱き上げると、執務室を後にした。
二人の私室で、ゆっくりと自分だけの天使を休ませてあげるために・・・。
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「----う…ん…」
緩やかな眠りから開放され、アンジェリークは私室のベットに、愛する人の腕の中で寝かされていることに気が付いた。
「目。覚めたか?」
「うん…」
眠っている間、ずっと見守るようにして抱きしめてくれていた愛しい人の顔が間近に見え、アンジェリークは、恥ずかしいのと嬉しいのの両方で、顔を赤らめる。
「よくがんばったな」
栗色の髪が優しく彼によって撫でられ、切ない甘い疼きが全身を駆け抜けた。
「だって、クリスマスぐらい休みたいもの。ご褒美くれる…?」
「クッ、しょーがねーな」
優しく、甘さを含んだ口づけが、降りてくる。
僅かに開いた互いの唇から、舌が絡まりあい、愛を伝え合うかのような深い口づけになる。
彼の手が、彼女の服にかかったところで、アンジェリークは軽い抵抗をした。
「なんだよ」
「ちょっと、待って。見せたいものがあるから、それが終わってから…、ね?」
懇願するように微笑まれると、止めないわけには行かない。
この少女のこのような微笑には、愛しすぎている弱みか、逆らうことすら出来ない。
「しょーがねーな。なんだ?」
「窓の外にあるわ…」
「窓か…」
アリオスは体を起こしてベットから出ると、彼女を抱き上げ窓辺へと連れてゆく。
「----雪か…。ホワイト・クリスマス…」
感嘆の声がアリオスから漏れ、彼女を抱き上げる手に力が篭る。
「一緒に見たかったの…。雪は二人にとって大事な思い出だから…」
「だから…、降らせたのか?」
「う………ン…!」
この天使の気持ちが何よりも嬉しくて、可愛くて、狂おしいほど愛しくて、それらの想いを総て伝える為に、アリオスは、深い深い口づけをする。
互いの情熱に瞳は陽炎のように燃え、外の雪をも溶かそうとしている。
やっとのことで唇を離す。
「ベランダに出るか?」
「うん・・・」
ベランダに通じるドアを開け、二人は、外へと出た。
やはり雪が降っているせいか、外はかなりの寒さだったが、二人はいっこうに震えなかった。
「寒くねーか?」
「大丈夫・・。アリオス、暖かいし、心もアリオスに暖めてもらってるから」
「俺もな」
「前に一緒に見たときも、同じように想ったわ」
アンジェリークは、彼の胸に甘えるように顔を摺り寄せた。
「ホントにおまえは雪がよく似合うな・・・。雪を見るたびに想うぜ?」
アンジェリークの頭に積もり始めた雪を優しく取ってやり、彼女の頬に手を置く。
雪の元にいる彼女は、まるで羽を纏った天使のようだ。
「----綺麗だ…、俺の最後の天使…」
彼の魅惑的な低い声が心にゆっくりと降りてくるのが、アンジェリークには判る。
再び唇が、どちらからともなく重ねられ、お互いの愛を与え合う。
「…は…、ん…」
唇が離され、アンジェリークの唇からは、切なげな吐息が漏れる。
「ハッピークリスマス、アンジェ」
「ハッピークリスマス、アリオス」
二人は互いに思いやる優しく温かな愛が篭った微笑を、与え合う。
「じゃあ…、さっきの続き、な?」
「…バカ…」
アンジェリークがベットに運ばれてものの数秒で、彼女の切なげな吐息が寝室に響き渡った。
恋人たちに、HAPPY CHRISTMAS!!!
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コメント
新宇宙の「HAPPY CHRISTMAS」をテーマに創作してみました。
クリスマス気分を盛り上げるために、Polygramから出ている輸入版の「NO1CHRISTMAS ALUBM」をBGMにして、頑張りました。
ホンマにええクリスマスソング集です。
皆様も、よいクリスマスを!!

