アンジェリークは、恋人のアリオスに呼び出されて、デパートの彼の執務室に来ていた。 勿論グループ総帥なので、社長室よりも更に立派な部屋で、彼女は少し気後れする。 「突然呼び出したりしちまって、怒ったか?」 「ううん、大丈夫。今日お仕事であえないって聞いてたから、少し嬉しかった…」 「サンキュ」 彼女が座っているソファの隣に腰を掛けると、アリオスは軽く唇に甘いキスをした。 「早速だがな、仕事がらみのパーティがあるんだが、婦人同伴の正式なやつなんだが、一緒に来てもらえねえか?」 「私…?」 アンジェリークは頬を赤らめながら、彼を見つめる。 正直嬉しかった。 仕事がらみの大切なパーティに、同伴してくれる彼が。 まだ高校生のせいか、そういったところには連れて行ってもらえないと、正直思っていたからである。 ホワイトデーの呼び出しだと思って、少し期待してきたけど、これはこれで素敵なことだわ・・・ 「嫌か?」 「勿論行くわ! ただ、私なんかでいいのかなって…」 返事をした勢いはどこかに行ってしまったのか、アンジェリークは急にしおらしくなった。 「おまえはぴったりだろ? みんな自分の大切な女を連れてくる。 俺にとってはおまえがそうだからな?」 「うん…有難う、アリオス・・・」 さらりと、顔から火が出るようなことを言う彼に、アンジェリークは耳まで真っ赤にして返事をする。 「じゃあ、直ぐに用意しなきゃな。おまえのドレスは、デパートのものを適当に見繕っておいた。後、化粧品売り場から、美容部員がメイクしてくれるからな」 「うん」 アンジェリークはソファから立ち上がると、早速準備に追われた。 「孫にも衣装だな?」 「もう…」 小一時間ほどで準備が整い、アンジェリークは美しくなってアリオスの前に姿をあらわした。 薄いピンクのドレスは、とても品があるのだが、同時にアンジェリークの艶やかな珠のような肌を際立たせ、妖艶に見せている。 腰元には大きなリボンがついており、すんなりとした、綺麗な体の線であるアンジェリークだからこそ身に纏えるといってもいい、ドレスだった。 栗色の髪はアップにして、首には真珠のネックレス。 おまえは、どんどん綺麗になっていくんだろうな、そうやって…。 現に今も、出会ったときよりも随分綺麗になっている…。 アリオスは、愛しげに目を細めながら、アンジェリークの、美しい姿から目を逸らすことは出来ない。 アンジェリークもまたそうだった。 彼女も、アリオスの艶やかなスーツ姿に、見惚れている。 アリオスやっぱり凄くカッコいいな・・・。 こんな素敵な人が、私の恋人だなんて、時々信じられなくなってしまう・・・ 「アンジェ」 艶やかにアリオスに見つめられると、アンジェリークは恥かしく、甘い厚さを耳朶まで感じて、俯く。 「ルージュはまだだろ?」 アンジェリークは頷く。 先ほど、デパートの美容部員が下地のリップ以外塗らなかったので不思議だったのだ。 「うちのグループの会社が作ったルージュだ。ためしにな?」 ちらりとアリオスを見ると、彼がルージュを持っている。 それがとてもセクシーで似合っていて、アンジェリークはドキリとした。 「最後の仕上げだ、顔を上げろ」 「うん…」 顎を持ち上げられて、アンジェリークは顔を少しだけ上を向かされる。 彼は持っていたルーjジュのふたを開けると、アンジェリークの小さな唇につけた。 「少し、唇を開けろ」 「うん」 アリオスは真剣な眼差しで、彼女の唇にルージュを引く。 男の人にルージュを引いてもらうなんて、なんて素敵なんだろう… 「オッケ、一通り着いたな」 「ありがと・・・、ティッシュオフしなくっちゃ」 はにかみながら、ティッシュをとりに行こうとした彼女を、アリオスは簡単に捕まえた。 「待て、ルージュをきれいにするのは、他に方法があるぜ」 「あ、え、…んんっ!」 息を呑むまもなく、アリオスが唇を重ねてくる。 いつものように深いものではなく、しっとりとやさしいもの。 「あ…」 離されて、アンジェリークはぼんやりと彼を見つめた。 「これで綺麗についたぜ、アンジェ」 ニヤリと良くない微笑を浮かべられて、彼女は益々顔を赤らめてしまう。 「バカ…」 「ほら、行くぜ?」 「うん…」 腰を強引に抱かれて、彼女は全身に甘い電流が走ったのではないかと思った。 二人は、地下駐車場に行き、そこで、アリオスの愛車であるスポーツカーに乗り込む。 「すまねえな? 仕事がらみのパーティにつき合わせちまったりして」 「ううん、私はアリオスのそばに入れるだけで、嬉しいから…」 「サンキュ」 軽く彼女にキスをしてから、アリオスは、目的地へとハンドルを進めた----- 運転している間も、アリオスは、暇さえあればアンジェリークの太腿に手を置いている。 車は目的地に到着し、静かに駐車場へと入った。 「え!? アリオス、パーティってここでするの?」 戸惑うアンジェリークに、アリオスはただ笑うばかり。 車が到着したのは、二人がヴァレンタインデーの前日の約束をしていた、あのレストランだった。 アリオスの所有のものの一つである。 「ああ。ここでする」 「そうなんだ…」 「ほら、来い」 「あ、うん…」 アリオスに手を差し伸べられて、アンジェリークは、何の疑いもなく、彼の後を着いていった。 「いらっしゃいませ!」 レストランに入ると、誰もいなかった。 「あ、どうして、誰もいないの?」 誰もいないことに、アンジェリークは不思議そうにあたりを見渡した。 「今日は貸切だ。なんだって出来るぜ?」 そこでアンジェリークはようやく気がつき、アリオスを見た。 「貸切って、私たち?」 「そうだ」 その瞬間、体から喜びが溢れ、嬉しさの余り涙となって体から零れ落ちていく。 「アリオス・・・っ!」 泣きついてきた彼女を抱きしめながら、アリオスは優しく微笑む。 「そのときちゃんとディナーできなかっただろ? だから、今回は、その意味を含めて、チョコレートのお礼もしたかった…」 「アリオス!!!!」 忘れていなかったんだ!!! 凄く嬉しい!!!!! 「アリオス、アリオスっ! 有難う!! 凄く嬉しい!!!」 「こら、泣くな…」 栗色の髪を撫でながら優しく囁いてくれる彼を、アンジェリークもぎゅっと抱きしめた。 「・・・忘れてたかと思ってた・・・」 「俺が忘れるわけねえだろ? こんな大事な日を…」 ウェイターが見ているにも拘らず、アリオスはアンジェリークに甘いキスをする。 「さあ、楽しもうぜ? ホワイトデー。先月の分もな?」 「うん、凄く幸せよ!!!」 アリオスにエスコートされて、アンジェリークは、前回と同じ席を案内される。 「新郎と新婦のときも、ここだからな、覚えておけ?」 「アリオス…!!!」 アンジェリークは、彼の言葉をしっかりと噛締めながら、また泣いてしまう。 嬉しいのに泣けてくるのはなぜだろう。 「こら、折角の化粧も台無しだぞ?」 「うん・・・」 二人は席に着き、ホワイトデーの夜を存分に楽しみ始める。 幸せな恋人たちの夜はまだ始まったばかり----- |
| コメント 遅刻です〜。 昨日が「White Day」なことを、すっかりと頭から抜けてました(笑) 前回のヴァレンタイン創作の続きになっています〜 |