「では、独身のお嬢ちゃんたちは集まってくれ!」
ウェディング・パーティ幹事であるオスカーが音頭を取ると、独身の女の子たちは全員、所定の位置に群がった。
ブーケを持った花嫁アンジェリークが、花婿であるアリオスに支えられて微笑んで彼女たちの前に登場する。
「では、花嫁さん? 用意してくれ?」
アリオスに華奢な腰を支えられながら、彼女は頷くと、女性たちに背を向ける。
「用意はいいか?」
司会のオスカーの掛け声に、アンジェリークは再度頷いた。
「アンジェ、しようぜ?」
「えっ!?」
突然の甘い囁きと、肩をぐっと抱かれて、アンジェリークは真っ赤になってしまう。
「じゃあ、いくぜ! 1、2、3、ファイヤー!!」
合図と共にブーケは投げられ、同時にアリオスは深く花嫁の唇を奪った。
「んっ・・・!!」
女の子はブーケに群がり、他の者は、ふたりの深いキスを見つめずにはいられない。
「ワタシが取ったよ〜!!」
レイチェルの興奮した声を合図に、ふたりはようやく唇を離す。
その瞬間、たくさんの人々の視線が、自分たちから一斉に散らばるのを彼女は感じる。
アンジェリークは、長い長いキスを沢山の視線に晒されたせいか、真っ赤になってしまい、俯いてしまった。
「ブーケをGETしたお嬢ちゃんはレイチェルだ!」
オスカーにマイクを向けられて、レイチェルは満面の笑みを浮かべる。
「今度はワタシとエルンストだよ〜!」
恋人をぎゅっと抱き締めて、レイチェルは凄い喜びようだ。
アンジェリークは、一番渡したかった相手に渡って嬉しいはずなのだが、彼にキスされたせいでそれどころじゃない。
恥ずかしさの余り、アリオスの影に隠れてしまった。
「おい、アンジェ」
苦笑いしながら、アリオスは妻となった彼女の手を握ってやり、オスカーを見た。
「ちょっと出るから、適当にやっといてくれ」
「判った。歓談タイムとダンスタイムにしておくぜ?」
「サンキュ」
礼を言うと、アリオスはアンジェリークを引っ張って、庭園に向かった-----
闇の中で、白いゲートだけが照明が施された中庭へと、アリオスはアンジェリークを誘う。
「ここだったら、落ち着くだろ?」
「うん・・・、有り難う」
遠くから、彼らを祝ってくれる者たちの賑やかな声が聞こえてくる。
きっとオスカーやオリウ゛ィエたちが盛り上げてくれているのだろう。
「みんなの前であんなキス…」
口ごもる彼女に、アリオスはフッと笑いながら彼女を見た。
「おまえが今日最高に綺麗だからに決まってるだろ? アンジェ?
今日のおまえは本当に綺麗だ…。だから堪らなくなっちまったんだ・・・」
「・・・もう・・・」
照れ隠しにいつものように少し怒って見せているが、その眼差しも肌も全てが、喜びに満ち溢れていることを、アリオスは知っている。
「アリオス・・・、今日は有り難う・・・。私ね、凄く嬉しかったの・・・。
あんまり賑やかなのが好きじゃないあなたなのに、私のために、最高の結婚式を用意してくれた・・・。本当に嬉しかったの・・・」
幸せに潤んだ瞳をアリオスに向けると、感極まったようにアンジェリークはアリオスの手を強く握り締めた。
「アンジェ・・・」
彼女にしか見せない優しげな微笑を浮かべると、触れるようなキスをする。
「おまえが喜んでくれたら、俺はそれだけで嬉しい。
-----俺の喜びはおまえの喜びだからだ」
優しく慈しみの溢れた魅力的な低い声。
この声が、全ての感情を彼女に運んでくれている。
ぶっきらぼうな優しさを持った、彼女にとっては、一番大切な男性の…。
「アリオス…」
感情が心から溢れるのを抑えきれなくて、アンジェリークはアリオスの胸に顔を埋めた。
「-----おまえともう少しだけふたりきりでいたい。上に行こうぜ?」
「-----うん…」
みんなが待ってくれているのは判っている。
だが、もう少しだけ、アンジェリークはアリオスと二人でいたかった----
アーチを潜りながら石段を上がって行く。
その上に差し掛かったところで、アンジェリークは思わず声を上げた。
「わあっ! なんて素敵なの!」
そこは、白い小さな噴水があり、月明かりと控えめな照明に照らされ、厳かな雰囲気をかもしだしている。
「なんだか映画みたい…」
「行くぜ?」
うっとりと見つめている彼女の手を、アリオスは力強く引っ張った。
「あ、待って、きゃあっ!」
慌てて行こうとしたからか、アンジェリークは、石段の最後の段にお約束にも躓いてしまう。
「おっと」
アリオスはしっかりとアンジェリークの華奢な体を支えると、彼女の鼻にキスをした。
「有難う…」
「おまえのドジさ加減は、今になって始まったことではねえけどな」
ニヤリと微笑まれて、アンジェリークは少し拗ねたように頬を膨らませる。
「だって、このドレスだもの、いつもよりは動けないわよ…きゃあっ!!」
不意に抱き上げられて、アンジェリークは思わず甘い声を上げる。
「え、あ、アリオスっ!?」
彼に”お姫様抱っこ”をされて、アンジェリークははずかしかったが、同時に、どこか華やいだ気分にもなれた。
「夫が妻を抱くのは当然だろ? 夫婦になったんだからな?
家に入るときも、同じようにしてやるから、その予行演習だ」
「うん…」
彼の温かな温もりが嬉しい。
アリオスは静かに噴水の前に進むと、空の上の月を見上げた。
「この月が証人だ。
おまえを一生離さない…。
これからはおまえだけだ…。
おまえだけと誓う…。
------アンジェリーク…」
アリオスの視線が、ゆっくりとアンジェリークに下りてくる。
黄金と翡翠の異色の眼差しは、月を写し、アンジェリークを捉えている。
「私も…。生涯あなただけだわ…」
アリオスの唇がアンジェリークの唇に重なり、深くお互いの愛情を確かめ合った。
遠くでダンスの音が聞こえ始める。
「そろそろもどらねえとな?」
「うん、そうね…」
「早く済ませちまおうぜパーティ。スウィートルームが俺たちを待ってるからな?」
見上げれば見える今夜の初夜を迎えるホテルの一室をアリオスは視線でさす。
「もう…」
恥かしくなり、アンジェリークは定番にもアリオスの胸に顔を埋めた-----
パーティは程なく終了し、2次会に誘われたにもかかわらず、二人はそそくさとホテルの部屋に行き、甘く密度の濃い時間を過ごしたという-----
|
コメント
三鷹久伊さまにいただいたイラストのイメージ創作です。
イラストの雰囲気を壊してなければいいですが・・・。
本当に素晴らしいイラストを有難うございました!! |
|