Ever After

TALE 1


「アリオス、視察ご苦労様。明日は一日休んで下さいね」
「陛下、有り難き幸せです」
 女王の間では、主座の守護聖アリオスが、新宇宙の女王の前で謁見していた。
 視察結果を報告するためである。
 他の守護聖たちも集まり、かしこまって彼の話を熱心に聞いていた。
 彼の騎士そのもののいでたちで膝を曲げる姿は、本当に絵になる。
「詳しい報告については、文書にして提出いたします」
 女王はにっこりと笑い頷くと、玉座から立ち上がった。
「ではこれで陛下の謁見は終了いたします。主座の守護聖アリオス、ご苦労でした」
 補佐官であるレイチェルが凛として宣言をすると、それで謁見はお開きとなった。
「兄様!!」
 立ち上がったアリオスに、地の守護聖ルノーが声をかけてくる。
 最年少なのに、彼の知識は誰よりも深い。
「おい、ちゃんと名前を呼べ? ルノー」
 言葉では怒ってはいても、アリオスの声は深みがかかって優しかった。
 アリオスと違ってルノーには前世の記憶はない。
 だが、彼は魂の奥で”兄”としてのアリオスを求めていた。
「ルノー、おまえが言ってた”鉱石セット”とやらを、視察のついでに見てきたぜ? おまえの執務室に届けさせたから、後で見ておけ?」
「兄様、有り難う!!!」
「うわっ!」
 急に抱き付いてきたルノーに、アリオスは少し姿勢を崩してしまう。
「あのね、珍しい鉱石が入ったから、ショナに手伝ってもらって、兄様と姉様のお揃いの指輪作ったよ」
 守護聖の正装をぼたつかせて、ポケットから小さな箱を取り出す。
「はい」
 ルノーが一生懸命瞳を輝かせながら差し出してくれた箱を、アリオスは目を細めて受け取った。
「サンキュ。あいつも喜ぶ」
 その言葉だけで、ルノーの表情は明るく輝く。
「おい、俺の前ではあいつのことを”姉様”って呼んでもかまわねえが、公式なときに出ないように注意しろよ? あいつは負かりながらも、この宇宙の創世のジョウオウサマだからな?」
「だけど姉様って読んでもお怒りにならなかったよ、陛下」

 あいつのことだ、絶対に嬉しいと思ったに違いねえ…

「じゃあ、僕執務室に戻ります」
「サンキュ」
 ルノーはぺこりと頭を下げると、ぱたぱたと執務室に戻って行く。
 その後姿を見つめながら、アリオスは温かな気持ちになるのを感じた。

 アンジェの温かさのお陰で俺たちは転生し、この宇宙を理想郷にするべく頑張っている…。
 結局、俺たちの生きるべく場所は、あの場所ではなく、アンジェのいるこの宇宙だった。
 あいつの大きな愛に育まれて、この宇宙は”理想郷”になりつつある…。
 あいつの愛があったからこそ、俺たちは幸せな転生が出来たんだから…

 アリオスはふっと笑うと、愛する女王の元へと向かった。
 マントを揺らして、長い廊下を進む。
 女王の執務室はもう直ぐそこにある。
 数々のセキュリティを通過して執務室のドアを開けるなり、いきなり女王が抱きついてきた。
「おかえりなさい〜!!」
「うわっ!!」
 まさか執務室から抱きついてくるとは思わず、流石のアリオスも少しだけ体勢を崩してしまう。
 が、元来からの腰の強さか、直ぐに体勢を立て直し、アンジェリークを片手でしっかりと支えた。
「ただいま、アンジェ」
「うん、お帰りアリオス」
 後ろに補佐官がしっかりと控えているのにも拘らず、二人はすっかり甘い雰囲気を醸し出していた。
「ちょっと〜! 二人とも!! ここは”執務室”なの!! ったく、いちゃつくなら、私室でしてよね! 二人とも、女王と首座の守護聖でしょう!!」
 ぷんぷんと鼻を鳴らして怒る補佐官レイチェルに、アンジェリークはそっと離れようとするが、アリオスがそれを許してはくれない。
 ばたばたと手足を動かすアンジェリークに、アリオスは更に強く抱きすくめる。
「・・・逃げるな・・・」
「あっ…」
 耳元で低い声で囁かれると、アンジェリークは真っ赤になってアリオスの腕の中で小さくなってコクリと頷いた。
「”ラブシーン”は、私室でやって」
 もう一度きっぱりとレイチェルは言ったが、聞くようなアリオスではない。
 彼は少し挑戦的な不適な笑みをレイチェルに向けると、更にアンジェリークを抱き締めた。
「ア、アリオスっ」
「悪ィがな、こいつは俺の女なんだ。
 確かに公式には女王様かも知れねえが、プライベートじゃあ、俺の女だ。
 三日も離れてたんだからな? この埋め合わせはしっかり今夜から貰うからな」
「きゃあっ!!」
 急にアリオスに抱き上げられて、アンジェリークは甘い声を上げる。
「ちょっと!! ここは執務室よ!! 何するのよ!!」
 レイチェルは慌てて止めようとするが、後の祭りだ。
「今日の女王の予定は、俺との謁見が最後のはずだぜ? 補佐官殿には、ちゃんとデータを執務室に置いてあるからな?
 後は、研究院の堅物と一緒に分析してくれ」
 その途端レイチェルの顔は、16歳の少女らしく真っ赤になった。
「女王陛下には、俺から直接”ご報告”さしあげるからな? 今からたっぷりな」
 意味深な眼差しを浮かべられて、アンジェリークは恥かしそうに彼の胸に顔を埋める。
 この意味が判らない彼女では、もうないから。
「じゃあな」
「っもう!!」
 ひらひらと手を振って執務室から資質に向かうアリオスに、レイチェルは後姿に悪態をつくことしか出来なかった。


 二人の私室は宮殿の一番奥にある。
 公認で同じ部屋を使っているのである。
 部屋と言っても、寝室、レクリエーションルーム、リビング、書斎、キッチン、ダイニングが揃っていて、甘い二人にはぴったりのつくりである。
 もちろん補佐官のレイチェルにも同様の設備があり、彼女も元宇宙からやってきた研究者と暮らしている
 私室に入って、二人はベランダに向かう。
 夕方の聖地の風はとても気持ちがいいのだ。
「アンジェ、ルノーが俺たちにって」
「ルノーが!」
 本当にアンジェリークは嬉しそうに笑う。
 彼女は、ルノーを本当の弟のように可愛がっているので、彼がしてくれることは何でも嬉しかった。
「指輪らしい。良い功績があったから、ショナと二人で作ったそうだ」
「ショナは器用さを司るんですものね」
 アリオスがゆっくりと蓋を開けてくれるのを、アンジェリークはじっと見つめている。
 そこには、ちゃんとシルヴァーで加工された指輪が二つ入っていた。
 美しい同じ宝石が中心に飾られている、とても温かな雰囲気がするものだ。
「------綺麗ね・・・」
「ああ」
 アリオスも優しげな微笑を浮かべると、彼女の左手を取る。
「プライベートでは、いつでも身に付けていてくれよ?」
「うん・・・、アリオスも…」
「ああ」
 とても意味深い場所にアリオスは指輪をはめてくれる。
 薬指に輝いた指輪を見て、アンジェリークは嬉しさのあまり少しだけ涙ぐんだ。
「アリオスも・・・」
「ああ」
 アンジェリークも指輪を手に取り、アリオスの左手薬指にそっとはめる。
「サンキュ」
「うん…」
 アリオスの左手がアンジェリークの左手をしっかりと握り締め、離さない。
「アリオス、ずぅぅぅぅぅぅぅぅぅっと、一緒だからね?」
「ああ。離せって言っても離さねえからな」
「・・・うん」
 アンジェリークは幸せな微笑を浮かべながら、アリオスをじっと見つめる。
「きっとルノーの指輪がいっぱい私たちに幸せを運んでくれるわ? ね?」
「ああ」
「きゃあっ!!」
 不意に抱き上げられ、アンジェリークはまた甘い声を上げる。
「アリオス…?」
「さて、ジョウオウサマには、今からたっぷりと報告とやらをしてやらねえとな?」
「もう…」
 恥かしそうにアンジェリークはアリオスの胸に頭を凭れさせて甘える。
 そのまま寝室に運ばれて、アリオスの濃厚な”報告”が始まったのは、言うまでもない。

 幸せな、幸せな、新宇宙のお話-------

コメント

「トロワ」後の新宇宙の幸せな二人を書きたくて、このようなお話になりました。
読みきりなので、続き物ではなく、まったりと幸せなものを書いていきたいと思っています。
ルノーのほかにも色々なキャラが出せたらと思っています。
やっぱり、新宇宙の、アリオスの傍らにはコレットちゃんです(笑)


モドル