「すっかり遅くなってしまったな…」 レヴィアスが時計を見て時間を気にしながら、車に乗り込む。 今日は愛しい妻と、外で食事をする日。 最近仕事が忙しく構ってやれなかったので、その穴埋めをするための"デート”だった。 明日は非番なので、今夜はゆっくりとできると思っていたのだが、急患が入ってしまい、予定より一時間もオーバーしての終了であった。 アンジェ…、怒ってないといいがな… 約束の場所の近くまで来るまで来て、その後有料の駐車場に停める。 そこから5分ほど歩けば、彼女の待つ場所へとたどり着く。 レヴィアスは、逸る心を押さえながら、車から降りた。 いきなり、冷たい風が吹き付けられて、彼は寒さに震えた。 「もう、冬が近いのか…」 時計を見て、彼ははっとする。 既に約束の時間から1時間が経過しており、レヴィアスは急いだ。 こんな寒空でアンジェを待たせれば、風邪を引いてしまう…。 あいつは体が弱いから、心配だ。 レヴィアスは薄い秋用のコートをなびかせながら、走って約束の場所へと向う。 不意に、彼の視界に、とても可愛いマフラーと手袋のセットが見えた。 カシミアらしく、とても温かそうだ。 また薄いピンクでとてもアンジェリークに似合いそうな一品でもある。 あいつに似合うな…。 いつも、何も欲しがらないから、こちらから言っても躊躇するからな、あいつ…。 "まだ古いのが使える"と言って。 母が言っていたな…。 うちに暮らすようになってから、ものを欲しがったことはないと---- 与えたものを大人しく着て、゛お下がりで良い”といつも言ってたらしいからな…。 あいつの慎ましやかさは、愛してやまない部分の一つだが、本当は俺にもっと頼って欲しいのにな…。 レヴィアスは、彼女が”もったいない”と言うのは判っていたが、カシミアの手マフラーと手袋のセットを彼女のために買い求めた。 レヴィアス…遅いな… アンジェリークは、擦り切れたマフラーと手袋をして、服はお腹を冷やさないようにゆったりとしたものを厚着している お腹の中には、レヴィアスの子供がいて、腹帯や、毛糸のぱんつを履いて、冷えないようにしている。 時折、突き出ているお腹を何度か擦って、温めている。 その手には、紙袋。 レヴィアス使ってくれるかな…。 というよりも使わせちゃうけれど! ふふっと幸せな微笑を浮かべた所で、愛しい男性がかけてくるのが見えた。 「アンジェ!」 彼の手にもまた紙袋が握られて、それが揺れる。 「レヴィアス!」 「遅くなって、すまなかったな?」 彼は彼女に謝り、彼女もそれに笑って答えた。 「急いで来てくれたんでしょ? 判ってるわ」 「アンジェ…」 彼女は仕事だとわかっているせいか、彼を責めない。 それがまたレヴィアスには嬉しくて、 彼女の手をぎゅっと握る。 「アンジェ、近くに車を停めておいたからな? 車まで行くぞ?」 「うん」 自然と二人は手をしっかりと繋いで、車に向った。 車に乗り込むと、流石に安心したのか、アンジェリークはほっとしたように息を吐く。 「すまなかったな? 温かいもんでも食いに行こう。それと----」 彼はさり気に、彼女の目の前に紙袋を差し出した。 「使ってくれ。そのマフラーと手袋はくたびれてるだろ?」 「有難う!!!」 彼女は本当に嬉しそうに言うと、レヴィアスの頬に軽くキスをする。 「開けてみて良い?」 「ああ、かまわん」 彼女は、子供がおもちゃのパッケージを開けるように嬉しそうな表情で、紙袋を開けた。 「うわあ!」 これぞ感嘆の声の見本というものを彼女はしてくれた。 袋からマフラーと手袋を取り出して、彼女は本当に嬉しそうに頬擦りをする。 「有難う、大事にするわね?」 「ああ」 アンジェリークは、大事そうにそれをしまいこむと、今度は彼に彼女から紙袋を渡す。 「はい、これ」 「何だ?」 「編んだの。履いて欲しくって…」 レヴィアスはフッと笑うと、それをしっかりと受け取ってくれた。 「有難う…。開けて良いか?」 「…うん…」 ほんの少し照れている彼女を、レヴィアスは微笑ましく思いながら、そっと紙袋を開けた。 そこには暖かそうな腹巻があった。 「アンジェ…」 「あ、ごめん嫌だった? 嫌だったらつけなくても良いんだけれど、外科医は冷えるからって聞いたから、腰を温めたら、いいだろうしね?」 レヴィアスは深い微笑を浮かべると、アンジェリークを強く抱きすくめた。 「有難う。使わせてもらう…」 「うん…」 レヴィアスはそのまま、ここが街中にもかかわらず、妻にキスをする。 二人は甘いキスに酔いしれながら、さらに絆を深めていた----- |