目が覚めると、太陽はすでに昇っていた。 白い朝の光がカーテンを引いた窓からさし込んでくる。 いつもと変わらない朝。 いや違う。今日は特別な朝だ。 なんと言っても今日は正月一日。一年の始まり。 去年はできなかった分、今年こそはアリオスと二人で初日の出を見に行こうと思っていたのに。 ―――ものの見事にパーである。 「……うそぉ…」 ベッドにすわり、半ば茫然と呟くアンジェリークの姿からは、どことなく哀愁が漂う。 やってしまった。正月初日からやってしまった。 一年の系は元旦にありというから、今年はサイアクかもしれない。 隣でいまだに眠りつづけるアリオスが、憎らしく、ほんの少しだけ羨ましかった。 この男はそんなものへとも思わないのだ。絶対。 「あ―――っ、もうっ! せっかく初詣とか、おせち食べに行くとか、いろいろ考えてたのにッ」 「…何騒いでんだ、うるせぇ」 ぶつぶつ文句を言う声がどうやら聞こえたらしい。うっすらとまぶたを持ち上げて、アリオスが寝起き特有の不機嫌全開な声でうめく。 もぞもぞと布団の中から手を伸ばして、ベッドサイドの時計を見ると、ますます不機嫌に目をすがめた。 「……まだ9時じゃねぇか…」 「もう9時じゃない」 平日でいえば早い時間でもない。むしろ遅い。 「…ああ? ンなこと知るか。俺は眠い」 そう言って再び布団にもぐり込む。 アンジェリークは溜め息をついた。 なんだか―――どうでもよくなってきた。 初日の出も初詣も、今から行ったのでは、どうせ無理だろう。 ―――ならば、自分が今するべきことは何か。 結論は考えるまでもなかった。 寝るに限る。 アリオスに倣ってごそごそと布団にもぐり込むと、まだ完全には眠っていなかったらしいアリオスが、うっすらと目を開けた。 ぴったりとくっついて目を閉じると、片手で頭を抱え込まれる。 眠りはすぐに訪れた。 「…なんか、全然お正月らしくない」 リビングのソファに腰掛けて雑誌を読むアリオスの膝をまくらがわりにして、寝転がったアンジェリークはぽつんと不満を漏らした。 結局、あれから再び目が覚めたのはすでに昼近い時間だった。 どこかに食べに行こうとも思ったのだが、正月の昼ともなるとどこも混んでいるだろうと言うことで、アリオスが速攻却下。 最終的に落ち着いたのは、パンとサラダと目玉焼き。 いつもとまったく変わらない。 これでは一体何のために、親に無理を言って外泊を許してもらったのか分からない。 アンジェリークの呟きに、アリオスが雑誌から目を離す。 呆れたように異色の瞳を細めて、やっぱり呆れた声を出した。 「何を期待したんだ、おまえは」 「……べっつにぃ」 ふてくされたように視線を逸らす。 「ガキか」 くつくつと笑うその仕草が、少し憎らしい。 「わざわざ好き好んで、自分から疲れに行くこともないだろ」 「そう言う問題じゃないよう」 言っている事は確かに正論かもしれないが、何かが違う。 絶対間違ってる。 怒るというか、脱力と言うか…とにかく、何だかもう、溜め息も出ない。 本当に自分は、一体何を期待していたのか。 と、温かな感触がふわりと髪に絡まった。 見上げれば、アリオスが長い指に髪を絡ませながら見下ろしてきている。 異色の瞳の奥の光がやけに穏やかに見えて、小さく息を呑んだ。 「たまにはいいだろ、こういうのも」 どうしてこの男は―――こうも人の目を奪うのがうまいんだろう。 卑怯だ。ずるい。 こんな顔をされたら、頷くしかない。 そして、思う。 契約カメラマンとは言え、一応プロで。 呼び出しや取材旅行で普段忙しそうにしているこの男と、そういえばこんな風にのんびりしたことは、数えるくらいしかない。 よくよく考えれば、ものすごく貴重な体験だ。 そう思うと、自然と顔が綻んだ。 「…そう、だね」 たまにはいいかもしれない。こういうのも。 頭を撫でる掌の心地よさに、アンジェリークはまぶたを閉じた。 |
| コメント サークル「へのへのもへじ」の空山樹さまから頂きました一品です。 私の好きな、カメラマンアリオスと女子高生アンジェの一品。 皆様にも是非、この素敵な物語を堪能していただきたくて、タチキ様に掲載許可を頂きました。 甘い世界を堪能されてくださいね〜。 本当にタチキさま、有り難うございました!! |