明日は、ヘアサロンにとっては、かきいれ時の成人式。 アリオスのサロンはそうでなくてもいつも大繁盛だが、明日は彼にとってもとても大切な日。 アンジェリークも晴れて成人式を迎えるからだ。 「明日は君はアンジェ専用美容師だからね。髪だけでなく、特別に着付けまでするんだろ?」 「まあな」 そのことに触れられると、アリオスは妙に照れくさいせいか、セイランには素っ気ない態度を取る 「明日は精々奥さんを着付け中に襲わないようにね」 「うるさい」 セイランに意味深な微笑みを浮かべられて、アリオスは益々不機嫌になっていった。 あいつも成人式かよ・・・。 俺もジジィになるはずだぜ。 彼はどこか親父臭くそう思うと、煙草を口に銜ええ紫煙を宙に吐き出した。 今日も、遅く迄ゲストの髪を切った後、アリオスは大荷物で帰宅する。 明日のアンジェリークの支度の為だ。 綺麗な彼女を見るためなら、どんなことでも頑張ってやれる。 俺もとことんあいつに惚れてるんだな・・・。 激しすぎる彼女への愛を確認する度に、想いがどんどん膨らんでいるのを、確認せずにはいられない。 いつものように、午後9時過ぎに帰宅する。 「おかえりなさい!」 「ただいま」 自宅のドアを開けると、すぐにアンジェリークが迎えに出てくれた。 「荷物、半分持つから」 「サンキュ」 アリオスは軽いものを彼女に持たせて、リビングに向かう。 明日はここで着付けや髪を結うのだ。 アリオスの腕さえあれば、いつでもどこでもサロンになる。 荷物をリビングに置いた後、ふたりは改めて甘いキスを交わす。 「アリオス、お仕事ご苦労様」 「サンキュ」 「ごはん出来てるから」 アンジェリークがキッチンの中に入っていくと、ひょっこり小さな宝物が自分の部屋から出てきた 「パパ、おかえりっ」 「ただいま」 誰が見ても一目でアリオスの子供だと判る息子が、ちょこまかとやってきて、彼の膝に乗った。 父親に、彼は一生懸命、今日の出来事を伝える。 時折、言葉でない言葉が出てきて、それもまた微笑ましい。 話しているうちに、いつしか、眠さの余り船をこぎ始めた息子を、アリオスは抱き上げた。 「アンジェ、こいつ寝かしてくる」 「うん、お願いね? 最近のこの子の毎日の目標は、パパに”おかえりなさい”って言うことなのよ」 くすりと幸せな笑みを、アンジェリークは浮かべる。 アリオスは、うとうととまどろんでいる息子を部屋に運び入れると、ベッドに寝かし、優しく髪をなでてやった。 きちんと眠っていることを確認した後、キッチンに戻る。 ダイニングテーブルには、すでに、温かな夕食が準備されていた。 「有り難う、アリオス。ごはんが出来ているわ」 「サンキュ」 彼が椅子に座ると、アンジェリークも斜め横に座る。 彼の表情が見れて、しかもそばにいれる絶好の場所だ。 「アリオス」 「何だ?」 「…ありがと」 少し頬を赤らめて、ほんのりとはにかむように、アンジェリークは囁いた。 「明日は…晴れるといいな」 「うん。そうね」 にこりとアンジェリークは微笑むと、アリオスを幸せそうに見つめる。 「明日、綺麗にしてやるから」 「うん」 「いつものお礼にな?」 満足げにアリオスは言い、まっすぐな栗色の艶髪を撫で付けた。 その眼差しは、愛がたっぷりとこめられている。 「明日は凄く楽しみだな。アリオスがつきっきりで綺麗にしてくれるんだもん。こんなこと、久し振りだものね」 「髪も洗ってやるから」 「うん」 髪を洗ってもらう----- その甘美な行為に思いを馳せるだけで、躰が官能に震えだした。 アリオスとなら、いつだってときめきながら過ごすことが出来る。 夫婦になって、彼の子供を生んだ今となってもそれは変わらない。 どきどきとする胸を抑え切れずに、アンジェリークはふたりだけの甘い時間を楽しんでいた。 翌日は忙しかった。 家族で早く起き、朝食を取った後、分刻みで、アンジェリークの成人式の支度が始まる。 まずは洗髪から。 栗色のさらさらな髪をブラシで梳いてから、アリオス自ら洗髪をしてくれた。 彼の力の強さは丁度良くて、快適だ。 洗ってもらうという行為は、間接的になんて淫らな行為なのだろうと思う。 髪を洗った後、ドレッサーの前に座り、ドライヤーで乾燥してもらった。 いよいよ髪を結い始める。 本当に心から大切なものを扱うかのように、彼は懇切丁寧に髪を結う。 その繊細な指先は、まるで魔法のようで、触れるだけで髪を美しいものに変えていった。 アンジェリークが似合うかんざしや花飾りで髪を飾り、清楚な結い髪を完成させる。 次は、着付けだ。 子供の頃から、アンジェリークは着付けを教えて貰っていたせいか、自分で一通り着られる。 アリオスも着付けが出来るので、彼に補助をしてもらった。 背後から抱きしめられるかのように補助されて、甘い緊張が走る。 「何か、おまえの着付け手伝ってると、むらむらするな」 甘くセクシーな声で囁かれて、アンジェリークは真っ赤になる。 「もう・・・」 白い首筋までもがほんのり桜色に染まるのが、愛らしかった。 「アンジェ、ほんとうにこのまま押し倒したくなるぜ」 少し華奢な躰を捩る彼女が、可愛くてしょうがない。 無事、振り袖も着終わり、最後はメイクだ。 顔に蒸しタオルを置いたあと、基礎化粧を始める。 美しい土台を持つアンジェリークが、更に美しくなる。その後のベースメイクも、魔法のように行う 肌はまるで絹のように輝き光っていた。 まゆもカットをし、綺麗に整えてくれた。 そこにカラーを入れていく。 アイライナーを目の際に入れ、その後はシャドウとハイライトを入れていく。 そしてマスカラも忘れてはいない。 チークを入れた後は、ルージュ。 華やかな晴れの日を演出するような、紅だ。 「少し口を開けろ」 「ん…」 うっすらと開けると、アリオスは、紅筆を使って丁寧にアンジェリークの唇に、紅を落としていった 美しく塗り終えた後は、お約束のものがまっている。 「ほら、オフするぜ?」 「…うん」 彼の唇が近づいてきて、甘いキスをくれた。 「…ほらこれで終わりだぜ?」 「有り難う・・・」 甘いキスの余韻に酔いしれて、アンジェリークは僅かに顔を俯かせる。 「ママ! ちれい!!」 二人の息子が、本当に満足そうに感嘆の声を上げ、アリオスは彼をゆっくりと抱き上げた。 「ほら、ママは綺麗だろ?」 「うん! ちれい!!」 「…二人とも…」 恥ずかしそうにアンジェリークは笑うと、二人ごとそっと抱きしめた。 アリオスは柄にも無くスーツを、息子も一丁前にスーツを着て、今日は「よそ行き」だ。 アンジェリークのたっての希望で、写真館で、三人そろった成人の日の記念写真を撮ることになったのだ。 朝早くから写真館に向かい、少し異色の成人式の記念写真を撮ってもらう。 三人の中の良い家族の様子を見ているだけで、古びた写真館の主人も幸せそうな笑みを浮かべていた。 「はい、それでは、三人で笑ってくださいね。奥さんを中心に」 アリオスはぎゅっとアンジェリークを傍に引き寄せ、彼女も幸せそうに微笑む。 「アリオス」 「何だ?」 「私たち家族の記念になるわ…。どうもありがとう」 彼女は心からの感謝の言葉を言い、彼は返事の変わりに、肩に回す腕に力を込めた。 愛する人たちに囲まれて、新たな旅立ちをするのは、なんて嬉しいことなんだろう…。 「はい、いきます!」 シャッターが押され、同時にストロボが光る。 幸せな家族の肖像は、アンジェリークの門出を祝う。 こうして、いっぱい、家族のアルバムが増えていくのね… この日、アンジェリークにとっては、最高の、”大人”への門出の日となった------- |
コメント 少し遅刻の季節ねたです。 昨日不意に書きたいな〜なんて思いまして。 あまあまなふたりです。 まあ、以前の成人の日なら、遅刻じゃないか(笑) |