GOLDEN
SLUMBERS

 アンジェリークは夢の中にいた。
 手を伸ばしての、伸ばしても届かない。
 駆け寄って抱きしめたいのに、足がすくんで動かない。
 愛しい人は、一瞬甘く優しい微笑を、その魅惑的な双眸に滲ませると、そのまま灰燼となって、風に還った。
「アリオスーッ!!!!!」
 アンジェリークは、泣きじゃくりながら、愛しい人の名前を呼ばずにはいられなかった。
「アリオス、アリオス・・・」
 愛しい人の名前を何度も呼びながら、アンジェリークは、自分の心が死に絶えていくのを感じた。
 いっそ狂ってしまえばいいのに・・・!
 立ち尽くす彼女に、遠くから優しく呼ぶ声が聞こえる。
「・・・・・・リーク」
「・・・ジェリーク・・・!」
「アンジェリーク!!!!」

 アンジェリークは、力強く自分を呼ぶ声にはっとして、目を開けた。
「大丈夫か?」
 闇の中に浮かんだのは、銀の髪と、不思議な金と翠の眸をもつ男性だった。心配そうな視線を彼女に向け、額に浮かぶ冷や汗を優しく拭ってくれる。
 誰よりも愛しい人。
 アンジェリークは、こちらの彼が夢なのかもしれないと、実態を確かめたくて、愛しい人の胸に、顔を寄せる。剥き出しの胸から聞こえる鼓動を確かめたかった。体温を今は感じたかった。
「どうした、どうせおまえのことだから、お化けの夢でも見たんだろ?」
 アリオスは、喉をクッと鳴らして、意地悪そうに笑う。
 しかし、アンジェリークは知っている。彼は本当のことに気がついていると。
 何度となく繰り返される悪夢・・・。その度に、彼は抱きしめてくれる。
「アミンに食べられる夢を見た」
泣き笑いのアンジェリークの顔を上に向けさせると、アリオスは静かに唇で彼女の涙を拭ってくれた。
「バーカ、心配させるなよ」
 アリオスはアンジェリークを優しく、そして強くその胸に抱きしめると、そのまま静かにベットから体を起こした。
「朝までは、まだ間があるぜ。寝不足だと、明日の晩に響くぜ?」
 からかうようなアリオスの言葉の意味が、アンジェリークには一瞬判らなかった。・・・が、たっぷり5秒ほどして、彼の言葉の真意がわかると、そのまま顔を高潮させた。
「・・もうっ! アリオスのバカ!」
 アンジェリークは、そのままアリオスの胸に恥ずかしさのあまり顔を埋めた。
 アリオスは、その姿が何よりも愛しくて、可愛くて、クックと笑いながら、抱きしめる腕に力をこめる。
「もう寝ろ。おまえが寝坊したら、補佐官殿に俺が怒られるからな」
 彼は、アンジェリークの栗色の髪を優しく片手で撫で、まるで幼子をあやすかのように、背中をもう一方の手で叩く。
 アンジェリークは、彼の香りをかぎ、鼓動に耳を傾ける。
 アリオスの香りは、何よりも彼女を切なくさせ、胸を騒がせる。同時に、最も心を落ち着かせてくれる、懐かしい香りだった。
 アリオスの鼓動は、何よりも彼女をかきたて、同時に落ち着かせてくれる。
 それは、どうしようもなく彼に恋をしているから。
「アリオスはいい匂いがする・・・」
「おまえもな・・・」
 彼の低い魅力的な声が胸に共鳴して聞こえる。その声すらも、愛しくてたまらない。
「アリオスの鼓動は、子守唄みたいに聴こえるよ・・・」
「じゃあ、寝ちまえよ」
「・・・うん・・・」
 優しく、極上なまどろみが、アンジェリークの瞼を覆う。
 アリオスは、その胸の鼓動を子守唄代わりにして、優しく彼女をあやす。
 その眸には、アンジェリークのためだけにある深い優しさが影になって映る。

 おまえが眠るまで、俺はずっとこうしていよう・・・。
 今度見る夢は、幸せなものになるように、この想いをおまえの夢へと届けよう・・・。
 眠れ・・・、おまえが泣かずに眠れるように、おまえが夢の中でも笑っていられるように・・・
 この鼓動を子守唄代わりにしよう・・・。
 愛しいおまえが眠るまで・・・。

 アンジェリークは、アリオスに見守られながら、ゆっくりと眠りの淵へと落ちていった。
 口元に幸せな笑みを浮かべて。
 アリオスは、そんな彼女に、誰のも見せないような、甘く暖かな微笑をフッと浮かべる。
 彼は、アンジェリークを起こさないようにそっとベットの横たえると、そのまま彼女を抱きしめたまま眠りへと落ちていった・・・。  

コメント

あま、あま過ぎて、おいらは砂を吐きそうになったよ。(^^:)しかし、この二人はこういうシーンも書きやすいです。ちなみにこれは、THE BEATLESの「GOLDEN SLUMBERS」からインスパイアされて創りました。midiも同じ曲です。