私は、まだ信じることが出来ません。
あなたが、私の側の人ではなかったなんて・・・。
満月の蒼い光に照らされて、あなたが本当の姿を見せたのは、ほんの少し前。
厭世的な冷酷さの中に、切れるように哀しかったあの瞳の色を、私は忘れることなんて出来ない。
せめて、一言だけでいいから、哀しみの理由が知りたい。
せめて、少しの時間でいいから、あなたと話したい・・・。
そう想うのは、罪なのですか? アリオス----
衝撃の真実が露見した夜、誰もがアンジェリークを気遣い、彼女をそっと見守りながら、一人にさせていた。
夜も深くなり、アンジェリークは寝床をそっと抜け出した。
まだ探せば、愛しい人が近くにいるような気がして・・・。
彼女は、夜風が冷たさに身を竦ませ、深い森へと入ってゆく。
昨日まで、彼と一緒に過ごし、笑い合っていた、森の果てにある思い出の湖へと向かう。
「アリオス・・・、アリオス・・・」
アンジェリークは、月の光だけに見守られ、何かに誘われるように歩き続ける。愛してやまない男性(ひと)の名を、しんみりと切なげに呟きながら。
白銀の輪の惑星に来てから、何度となく二人で分け入った森も、今は一人で歩く。
何度も手を優しく引いてくれ、優しい微笑をくれたあの人・・・。
もうそんなひと時は二度と訪れないのだろうか・・・。
そう思うだけで、心は乱れ、苦しくて、やるせなくて、いつしか涙が流れ落ちる。
ここでは、誰の目も気にしなくていい。そう思うと、涙は、止まらなくなってゆく。
「どうして、あなたは私の前から去ってしまったの!!!!!」
今まで我慢していた想いが溢れ出し、アンジェリークはただ泣き叫んでいた。
どれ位歩きつづけたのだろうか、もうアンジェリークには検討がつかなくなっていた。
つい昨日までは、とても楽しい道のりであったのに、今は、虚しくて堪らない。
夜着のまま、裸足で抜け出したアンジェリークは、もう歩けないほどの状態になっていた。
足の裏からは血が滲む。
そんな痛みは、彼女には、もはや感じなかった。
感じるのは、心の痛みだけだ・・・。
泣きつかれ、とぼとぼと歩きながら、ようやく、湖へとついたときには、アンジェリークには、最早余力は残されていなかった。
湖の前でへなへなと座り込み、アンジェリークは、水面を見つめる。今は、一人で・・・。
昨日までは、彼の腕の中で同じ光景を見つめていたのに・・・。
ずっといっしょにいれると思っていた。ずっと一緒にいたかった。
ふいに、背中に気配を感じ、アンジェリークは振り返った。
「----アリオス・・・・・・!!!」
アンジェリークの声とともに、銀色の柔らかな髪が、暗闇に舞い上がり、彼が踵を返して立ち去ろうとするのがわかる。
「待って!」
アリオスは、アンジェリークの声を振り切りその場を立ち去ろうとする。
彼もまた、最後の思い出を胸に閉じ込めるために、この場所に赴き、総てを封印しようとしていた。
「お願い・・・、少しでいいの、ほんの少しでいいから・・・!」
アンジェリークは、立ち上がろうとして、足の痛みの余り力が入らず、そのまま音をたてて崩れ落ちる。
その瞬間----
アンジェリークは、たくましい腕に抱きかかえられ、その広い胸に抱きとめられた。
自分降り注ぐ、心配と後悔の色が見える翠の瞳。
ずっと、ずっと逢いたくて堪らなかった瞳。
「アリオス・・・、アリオス・・・!!!」
アンジェリークは、アリオスの首に腕をまわし、彼が本物であることを確かめる。
広く逞しい胸も、力強い腕も、官能的な首筋も、何よりも胸を焦がす香りも・・・。
総て、彼のものだった。
「・・・よかった・・・、還ってきてくれて・・・」
アンジェリークの心の底から漏れる安堵と歓喜の呟きに、アリオスは苦しくなる。
最も愛しい者の願いを、最早叶えてあげることが出来ない自分が、もどかしい。
「もう・・・、どこにも行かないで・・・! 私には・・・、私には・・・、あなたが必要なの・・・」
アンジェリークは、もう離さないと云わんばかりに彼に回す腕に力をこめ、顔を胸に押し付ける。
アリオスも同じ思いを抱いていた・・・。しかしもう、二人の行く道は、違っていることを、彼は充分にわかっていた。
それに・・、奈落へとこの天使を連れて行くことは、出来ない。誰よりも、幸せになって欲しい相手だから・・・。
「----それは・・・、出来ん。アンジェリーク・・・」
アリオスは、アンジェリークの腕を優しく自分の体から解き、彼女を慈しみのある目で見つめる。
アンジェリークは、大きな瞳に涙をいっぱい溜め、苦しげに、切なげに、アリオスを見つめた。
彼女の唇は、強く噛み締められ、血の味が滲む。
アンジェリークは理性ではわかっている、彼とは対峙しなければならないと・・・。
しかし心がそれを強く否定する。
アリオスは、アンジェリークの足に視線を落とす。
「裸足か。もう・・、歩けねえだろう」
アンジェリークは、無言で俯きながら、首を縦に振る。
「----おまえを送り届けるのが、”アリオス”の最後の仕事だ・・・」
「だったら、帰りたくない!」
アンジェリークは、真摯な覚悟を決めた瞳でアリオスを見、再び彼に抱きつく。
「----しょうがねーな、夜明けまでは一緒にいてやる・・・。それ以上は・・・」
アリオスも、今まで隠していた激情を露見させ、アンジェリークを抱きすくめた。
二人でいるのは、この上なく罪であることを二人はわかっていた。
しかし、一緒にいたい・・・。
1分でも、1秒でもお互いを感じていたい・・・。
「----アリオス・・・、私を愛しているなら・・・、1度でいいから、抱いて欲しい・・・」
アンジェリークの言葉が云い終わるや否や、アリオスは激しく唇を重ね、それが無言の了解となった。
互いの手を絡ませ、二人は、愛を確かめ合う・・・。
時に優しく、時には深く、まるで壊れ物を扱うかのように、アリオスは、アンジェリークに触れる。
彼は、嵐のような激しい情熱で、唇や、手で愛撫を続ける。
感極まった喘ぎ声が、アンジェリークの口から切なげに漏れる。
あなたともっと近くなりたい・・・。
おまえとひとつに溶け合いたい・・・。
アンジェリークの体に、愛の刻印をアリオスは刻み付ける。
彼女が自分を忘れないように・・・。
「・・・愛してる・・・」
アリオスの囁きとともに、アンジェリークの体に衝撃が走る。
罪の痛みが彼女を覆う。
同時に、彼女の体は、長いこと彼を知っているかのようにしなやかに彼を迎え入れている。
ついに、誰よりも愛しい人と結ばれた喜びで、アンジェリークの体の奥から、歓喜の渦が出される。
やがて、アリオスが彼女の中へ、思いの丈を注ぎ込んだとき、彼女の頭の中は光が舞い散り白くなった。
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目覚めたとき、アンジェリークは、見慣れた集落の寝床で寝かされていた。
夢だったのだろうか・・・?
彼女は、自分の胸元に視線を落とす。
そこには、赤い痕がいくつも花を咲かせている。そして何よりも、体の奥のけだるさが総てを照明していた。
まだ霧が立ち込める早朝、アンジェリークは、借りていた空家から飛び出し、あたりを見回した。
しかしどこにも彼の姿を見つけることはもう出来なかった。
「・・・アリオス・・・」
アンジェリークは、切なげに自分の体に両腕をまきつけ、肩を震わせむせび泣いた。
その姿を、アリオスは物陰からそっと見つめていた。
アンジェリーク・・・、おまえは日向で生きるんだ。
罪を罰せられるのは、俺だけで構わない・・・。
沈み始めた月だけが、真実を知っている----
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コメント
ヘボヘボSIDEシリーズ。今回は、「衝撃の真実」のすぐ後の設定です。
なんとHシーンまではいった、R指定物です。
なるべく綺麗に書きたかったんですが、いかがでしょうか?
毎回へぼくてすみません・・・。
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