「遅くなっちまったな、、アンジェ、先に寝てたらいいが…」
彼女と過ごす休みのために、アリオスはその分深夜になるまで残業を続けていた。
これは同僚のオリヴィエも同様で、帰宅が連日深夜になっていた。
今日もご多分に漏れず残業で、彼が家に着いたのは深夜を回っていた。
鍵を開けて中に入ると、まだキッチンの明りがついていた。
明りに誘われて入って見ると、そこにはダイニングテーブルでうつぶせになって眠るアンジェリークの姿があった。
儚げに眠る彼女が誰よりも愛しくて、アリオスは思わず甘い笑みを浮かべる。
本当は、大事な体の彼女に、こんなことはさせたくない。
だがその気持ちが、彼は痛いほど嬉しくて、愛しい。
アリオスは眠る彼女を、後ろから覆うようにして抱きしめると、耳元で甘く囁く。
「アンジェ、アンジェ、起きろよ…」
「…ん…」
僅かに瞼が動き、ゆっくりと彼を魅了して止まない紺碧の瞳が開けられる。
「あ、お帰りなさい…、すぐご飯の仕度…」
起き上がろうとしたものの、彼に抱きすくめられて、動けない。
「アリオス…」
「先に寝とけって、言っただろ? 大事な体なんだから、無理すんな」
「ん…、だけどアリオス、折角、私の為に遅くまで残業してくれてるのに、寝るわけにはいかないじゃない?」
息がかかる距離で穏やかに微笑を浮かべられると、彼は一溜りもない。
可愛くて、誰よりも愛しくて、抱きしめる腕に力を込める。
「誰よりもおまえが大事なんだからな」
「ん…、判ってる…」
ゆっくりと唇が重ねられ、お互いの想いを伝え合う。
「愛してる…」
唇が離され、彼らは互いを見つめあった。
「私も、愛してる、アリオス」
彼女がはにかみながら呟く姿も、彼にとってはこの上なく愛らしい。
アリオスは、優しい深い微笑を浮かべて、アンジェリークの頬に軽い口づけをすると、そっと彼女から離れた。
「アリオスはお風呂に入って、着替えてきてね。その間お料理を温めるから」
「サンキュ」
テーブルから立ち上がり、キッチンに立つ彼女の姿は、清らかに見える。
華奢だった彼女の体が丸みを帯び、母親になる準備を始めていることが、彼には誇らしく思う。
今も腹部が大きくなり始めているとはいえ、彼女が妊娠していることは、傍からは判り難い。
ずっと、彼女を見つめていたかったが、心配させないようにと、彼はバスルームへと消えた。
彼がバスルームへと消えることを、アンジェリークは背中で感じながら、寂しさの中にも、幸せを感じる。
彼のために何かをすると言う行為が、彼女にとってはこの上なく幸せなことだった。
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アリオスがダイニングに戻ってくると、すでに部屋中が美味しそうな匂いで立ち込めていた。
「あ、アリオス、ご飯出来てるから」
「サンキュ」
テーブルの上には、体が温まるようにとビーフシチューと彼女が焼いたパン、そして温野菜に特製ドレッシングがかかったサラダが準備されていた。
彼が席に着くと彼女も当然のように席に着き、じっと彼の様子を眺めている。
「おい、無理すんなよ。冬休み中だが、おまえは朝もいつもどおりに起きてくれてるんだから、余り夜更かしすると…」
「いいの」
アリオスの言葉を取るようにアンジェリークは言い、嬉しそうにふんわりと微笑んだ。
「何故?」
「だって、ご飯はやっぱり誰かいなくちゃ美味しくないでしょ? 家族揃って食べた方が美味しいもの。アリオスだって、私が小さい時はそうしてくれたじゃない、ね?」
少し恥らう様子の彼女の言葉が、彼の心に温かく降りてくる。
「サンキュ」
愛しく思う余り、彼は嬉しくて仕方なく、甘く触れるだけの口づけを彼女にした。
「ビーフシチュー味のキス」
「もう。大好きよ…」
何度体を重ね、口づけを交わしただろうか。
その度に新しい魅力で、彼女は彼を魅了して止まない。
少し恥じらいの入った表情がいつも見たくて、彼女を抱きしめずにはいられなくなる。
「アリオス? ご飯食べちゃわなきゃ…、ね?」
「メシよりおまえだ」
アリオスの唇が首に押し付けられ、アンジェリークの体を甘い電流が駆け抜けた。
「あ…、ね、ご飯…」
喘ぎが入り混じった甘い声で彼を諭す彼女に、欲情を覚えながらも、彼はなんとか体を離すことに成功する。
「判った、後でたっぷりな」
「うん…」
アンジェリークに見つめられながら、アリオスは幸せな夕食を済ませた。
夕食も済み、後片付けはアリオスが申し出て、することになった。
「待ってろよ、寝るのは一緒だからな」
「…うん…」
恥じらいながら彼女はゆっくりと頷く。
先ほどまでは先に寝ろといっていた彼が、一緒に寝ると言うのに、彼女は苦笑する。そこで何が待っているかももう判っているが。
彼を待つ間、彼女は、生まれてくる子供のために、毛糸で靴下を編んでいた。
夕食の片づけを手早く済ませた彼は、彼女に声をかけようと振り返ると、靴下を編む彼女の姿が余りにも美しくて、暫し、息を飲んだ。
「あ、アリオス? 終わったの?」
彼の視線を感じて彼女も編物を止め、優しく微笑んだ。
その姿は、まるで女神のように神聖で美しく、彼に映った。
「綺麗だぜ? アンジェ」
アリオスは吸い寄せられるようにアンジェリークに近付き、そのまろやかな頬を撫でる。
嬉しくて、恥ずかしくて、アンジェリークは頬を赤らめると、潤んだ紺碧の瞳で、彼を捉えた。
「----あっ!!」
突然、彼女が甘い嬉しそうな声を上げて、彼は何事かと眉根を寄せる。
「アリオス!! 動いたの!! 赤ちゃん!! お腹を蹴っ飛ばした!!」
興奮気味の彼女に、アリオスも嬉しくなり、彼は彼女の腹部に耳を当てる。
「俺にも蹴ってくれよ?」
アンジェリークは幸せそうにふふと微笑むと、彼の銀色の柔らかな髪に優しく指を差し入れた。
「アリオス?」
「何だ?」
「赤ちゃんが生まれたら、お母さんとエリス叔母さんのお墓参りに、報告も兼ねて、行こうね?」
「ああ。そうだな」
アリオスは彼女の言葉が嬉しく、甘やかに答える。
彼は、彼女の腹部からそっと体を離すと立ち上がり、彼女を抱き上げる。
「ゆっくり上で、胎動は聴かせて貰うからな?」
「うん…」
彼の首にゆっくりと首を回しながら、アンジェリークは幸せを噛み締めていた----
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コメント
久々に、「WHERE DO WE GO FROM HERE」の二人に登場してもらったSWEETです。
ただたんに、奥さんとお腹の子供にメロメロのアリオスを書きたかっただけです。
このシリーズの好きな皆様への"お年賀"です。
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