「レヴィアスくん・・チョコレート好き?」
「は!?」
 今日何度目の同じ質問だろうか。
 何度も同じ質問を繰り返し聞かされると、いい加減、レヴィアスは呆れてしまう。
 何故、アンジェリーク以外の女は、こうも退屈な質問ばかりするんだろうか。
「----別に、嫌いじゃないが」
 眉間に深い皺を刻みながら、険しい表情で応える。
 それが"影がある"と言って、女子生徒たちを夢中にさせていることを、彼は気付かない。
「そ、ありがと、よかった!」
 またまた同じように、少し嬉しそうな顔をして、クラスメイトの少女は去って行った。
「ったく、どいつも、こいつも同じこと訊きやがって」
「親分!」
 苛立たしげに溜め息を吐くレヴィアスに、手下格であるゲルハルトが嬉しそうによってくる。
「何だ、ゲルハルト」
「親分、もてますね〜」
「はぁ? 我はアンジェリーク以外の女のチョコレートなんて意味がない」
 校庭の芝生でごろりと横になりながら、レヴィアスは不機嫌そうに呟いた。
「もったいね〜!!」
 羨望の眼差しでゲルハルトはレヴィアスを見つめる。大工の棟梁の息子である彼は、"粗忽物"として女子生徒から距離を置かれてしまっている。
 そのためか、もてるレヴィアスが羨ましくて堪らなかった。
「そんなに欲しけりゃやる。我にはアンジェリーク以外のチョコレートには興味ない」
「ホントですかい!!」
 ゲルハルトは飛び上がって喜び、レヴィアスの周りを怪しげな踊りをしてまわり始めた。
「おいっ! 嬉しいのは解るが、後でやれ!」
「すんません!!」
 レヴィアスの低いよく響く声に窘められ、ゲルハルトはすっかり、大きな身体を小さくする。

 ったく、どいつもこいつも。俺にとってのヴァレンタインはアンジェリークに貰うからこそ、意味があるんだ!!

「ゲルハルト、チョコレートもいいですが、もう少し女の子に優しくしてはいかがですか? そうすれば、彼女たちもチョコレートをくれます。ね、レヴィアス様?」
 穏やかな微笑を湛えながら、レヴィアスの手下位置の常識人カインがやってきた。
「あ? つ○だ☆ひろがどうしたって?」
「レ、レヴィアス様…」
 考え事をしていて、カインが言ったことなど、全く聞いていないレヴィアスであった。
「レヴィアス!!」
 突然アンジェリークの声が響いたかと思うと、もう芝生にはレヴィアスはいなかった。
「アンジェ!!」
 彼は一目散に彼女に駆け寄り、抱きつく。
「何だ? 我がいなくて寂しかったか? 我が帰るのが待ちきれなかったなんて、可愛い奴だな…」
「近くまで来たから、一緒に帰ろうと思って」
 天下無敵の”ふんわりスマイル!”を向けられると、父親と同じ翡翠と黄金の瞳がきらりと輝いた。
「あら、レヴィアスくんのお母さん!!」
 レヴィアスの担任ロザリアが、微笑みながら近付いてくる。
「あ、ロザリア先生、いつもレヴィアスがお世話になっております!!」
「いえいえ。明日ヴァレンタインデーで女子生徒たちが色めき立ってますわ! レヴィアスくんにチョコレートを渡すとか言って」
「へ〜、レヴィアス凄いじゃない」
 誇らしげに言うアンジェリークに、彼は甘さの滲んだ眼差しを彼女に向ける。

 ホント。こんな眼差しも、この子はアリオスにそっくり…

「ロザリア先生。あまり我の女にあることないこと吹き込まないでくれ。我はアンジェリーク一筋だからな!!」
「もう、レヴィアス!!」
 アンジェリークは焦るような恥ずかしいような思いで一杯になり、彼をそのまま引っ張ってゆく。
「おい! もっと言わせてくれ!」
「もう家に帰るわよ!」
 アンジェリークに無常にも引っ張られるアリオスを見つめながら、ロザリアは同情の溜め息を漏らした。
「----お母さんも大変ねぇ」

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「さてと、ごちそう様。今夜はこれから忙しいから、アリオスもレヴィアスも仲良くしてね?」
 夕食が終わり、銀の髪と漆黒の髪の親子に警告をすると、アンジェリークはテーブルから速やかに立ち上がった。
「チョコレートか? 楽しみにしてるぜ?」
 艶やかな夫の微笑みに、アンジェリークははにかんだように頷く。
 その表情があまりに可愛くて、レヴィアスは悔しくなった。
「----我はチョコレートより、おまえが食べたい…。全身チョコレートで、コーティングしたアンジェリークが欲しい!」
 途端に、父アリオスのゼロ・ブレイクがレヴィアスの頭に飛ぶ。
「何をする!!」
「アンジェをヴァレンタインに食うのは俺って、昔から決まってるんだ! 誰がおまえになんかやるかよ!?」
 アリオスはしっかり無作法にもレヴィアスに中指をつきたて、威嚇した。
「このやろ! ブレイクエッジだ!!」
 レヴィアスはアリオスに蹴りかかり、本日も家庭内"ゴジラ対ガメラ"戦が勃発する。
「おまえなんかにアンジェリークはもったいないんだよ!」
「おまえなんか、俺がアンジェリークを可愛がらなかったら生まれなかったくせに!!」
 お約束の親子喧嘩が、そろそろヒートアップをする頃。
「2人とも止めなさいっ!!」
 アンジェリークのキツイ雷に、二人はぐうの音も出なかった。

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「さてと。冷蔵庫に冷やしたし、余ったので小さいチョコでも作ろうかな?」
「味見させろよ?」
「味見させてくれ?」
「アリオス、レヴィアス」
 キッチンに入ってきたアリオスとレヴィアスに、アンジェリークは思わず優しい笑みを零す。
 味見の先陣を切ったのは、アリオスだった。
「どれ」
 突然、ボールの中のチョコレートに指を突っ込むと、アリオスはそれを救い上げて舐めあげ、味わう。
「美味いぜ? アンジェ!!」
 夫の心からの賛辞に、彼女の表情も明るく輝いてくる。
「おまえも舐めてみろよ? 舐めさせてやるから」
 官能的に笑って、アリオスは繊細な指をボールに付けると、チョコレートをからめて、彼女の指に持っていった。
 アンジェリークは、それを美味しそうに舐め取る。
「うん、美味しい…」
 少しはにかむ彼女が可愛くて、アリオスはクッと咽喉を鳴らした。
「だろ?」
 その光景があまりに艶やかで、レヴィアスはごくりと咽喉を鳴らす。
「アンジェ、我も味見をさせてやる」
 言って、背伸びをしてボールに指を突っ込むと、チョコレートを指に絡めて、レヴィアスはアンジェリークに差し出した。
「…!!」
 息を飲んだときには遅かった。
「----美味いぜ? レヴィアス!!」
 アンジェリークに向けられたチョコレートまみれの指を、アリオスは阻止するかのように口の中に含んで、不敵に笑いかけていた。
「うぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!」
 今夜も、レヴィアスの悲鳴と、アリオスの勝ち誇った笑いが、アリオス家にこだました-----

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 くっそっ!! 何回消毒したことか!!

 昨夜、アリオスに指を含まれたレヴィアスは、薬用石鹸やら、アルコールやらで散々消毒した。
 むすっとしたまま朝食を取り、レヴィアスは学校へと向かう。
「レヴィアス!!」
 アンジェリークに玄関先で呼び止められ、レヴィアスは思わず振り返った。
 彼女はそっと、可愛くラッピングされた箱を差し出す。
「はい、これ、ヴァレンタインのチョコレート。いっぱい貰うかもしれないけど、食べてね?」
 小首を傾げる彼女の表情に魅入り、彼は感激のあまり悦に入る。
「アンジェ…」
「じゃあ、いってらっしゃい!!」
「行ってくる」
 さわやかに見送られて、レヴィアスは玄関を出た。
 その瞬間、彼はラッピングを汚くしないように、手早く外して、箱の中身を見る。
「アンジェ!!」
 チョコレートに、嬉しさの甘い、彼は頬を赤らめる。
 チョコレートは肩までのボブカットの天使がハートを持っているもので、そこにはホワイトチョコのペンでメッセージが書いてあった。
 ----レヴィアス、大好き!----
 そのメッセージは、再び彼にアリオスへの戦闘意欲を高まらせる。
「今回は我の勝ちだ! おまえなんか今のうちだけだ! アリオス!!」

 しかしレヴィアスは知らなかった。
 アリオスにも同じチョコレートが送られ、メッセージには"アリオス、愛してる!”と書かれていたことを。
 知らぬが仏----   

FAMILY TIES
EXTRA5

OUR FUNNY VALENTINE!















































































































































コメント
「ゼロブレイク」を覚悟しての、ヴァレンタイン創作です。
今回は、またまたアリオス家の人々にご登場いただきました。
久しぶりにかく、彼ら(約二名)の暴走はとても楽しかったです。
なんだか、こういうトーンの話し、また書きたくなったな…