FAMILY TIES EXTRA
CHILD CHILD CHILD


「・・・はい・・、と」
 今日は子供の日。
 アンジェリークは、風習通りに、息子のレヴィアスの身長を計り、柱に傷をつけていた。
「大きくなったわね〜! 一年で10cm!」
 彼女は、誇らしげに傷を見る。そこには母親特有の悦びがうかがえる。
「アンジェの為に早く大きくならないとな…」
 しっかりとした口調で、レヴィアスは、母親とはいえ、彼がこの世で、いや、全宇宙で一番愛している女性であるアンジェリークに、大人びたように呟く。
 それを見てアンジェリークは益々嬉しくなる。
「ホント、大きくなったわね…。ついこの間までは、赤ちゃんだったのに」
 彼女が黒い髪をくしゃりと撫でると、彼はくすぐったくて身を捩った。

 子ども扱いなど、しないで欲しい…

 そう思いながらも、アンジェリークの手の感触が柔らかくて、その心地よさに溺れてしまっていた。
「アリオスが長身だから、時期に私を追い越しちゃうね?」
 ----アリオス。
 その名が出た途端、レヴィアスは顔をしかめる。
 彼も判っている。
 その金と緑の異色の眼差し。
 長身----
 その顔立ち。
 全てがアリオスのDNAをそっくり受け継いでいるかと思うほどそっくりであることは、自覚している。
 だが、彼は、最大の恋敵であるアリオスこそが一番の邪魔者であることもわかっている。
「あんな奴のことは、我の前では口出すな」
 ごつん----
 アリオス家名物、アリオスによるレヴィアスへのチョップが炸裂する。
「何しやがる!!!」
 レヴィアスが痛い頭を抱えて振り返ると、そこには、アンジェリークの異性としての愛情を一身に受けている、アリオスがいた。
「何がだ? おまえは、俺のDNAのなせる技で、ここまで背が高くなってるんだろうが」
「そんなものがなくても、我は自力で大きくなる!!」
「あれが足りねえ癖に俺には向かうなんて、一万年早いぜ!」
「何!!」
 お約束どおりに、二人はいつものごとく、取っ組み合いのけんかを始める。
「止めろ! アリオス、今日は子供を敬う日だぞ!?」
「何で親が、子供を敬わなきゃなんねえんだよ!? このくそガキが!」
 ばたばたといつものようにプロレスごっこを始める親子に、アンジェリークはわなわなと肩を震え始める。
 彼女が起こっているのも露知らず、二人は止めない。
「もう!! 二人とも!! 掃除をした後は暴れないでって言ってるでしょ!!」
 いつものように、いつものごとく、彼女の剣幕に、二人はぴたりと動きを止めた。
「もう二人ともしょうがないわね。私が夕食の準備をしている間、お風呂に二人で入って、海より深く反省しなさい!! 今日は菖蒲湯だしね?」
「我はアンジェがいい!!」
「俺もアンジェがいいに決まってるだろ!?」
 二人は再び同じ眼差しでにらみ合い、険悪なムードをかもし出してる。

 何だかんだ言ってるけれど、ホントは仲がいいのよね〜

「とにかく! 今日は”男子の節句”よ。男同士でスキンシップをはかってらっしゃい」
 最強のふんわりスマイルで、お風呂のセットを渡されると、二人とも二の句が告げないのであった----

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「おい、耳の裏までちゃんと洗えよ?」
 身体を洗っていると、湯船に使っているアリオスに言われ、少しレヴィアスは不機嫌になる。
「いちいち父親ずらすんな!」
「まあ、DNAじゃ、そうかも知れねえが…、俺はおまえを子だとは思ってねえゼ?」
 普通の親なら言わない台詞。
 だが、それを口にするということは、アリオスがレヴィアスを理解していることに繋がっていた。
「我もそう思ってはいない」
 体の泡を流しながら、レヴィアスは挑戦的に言う。
 その眼差しは、不適だ。
「上等、上等」
 アリオスはふっと笑って、息子と同じ眼差しで笑って見せる。
 その微笑が、とても魅力的なのが、レヴィアスにもわかった。
 だが、認めたくない。
 そんな思いが彼を少し意固地にさせるのだ。
「俺はおまえのことは、ちゃんとアンジェリークを巡ったライバルだと思ってるぜ?」
 その言葉に、レヴィアスは照れくさくなって、頬を染めながら、わざと身体をごしごしと洗った。

 アリオスのやつをアンジェリークの夫だと認めたくはないが…。

「背中、流してやるから…、出てこいよ…、アリオス」
「サンキュ」
 息子の心憎い演出が嬉しくて、アリオスは微笑んでそれにおおじた。
「おまえの背中広いな?」
「当然だろ。家族を背負ってるんだぜ?」
「ふん」
 無言で、レヴィアスはアリオスの背中を一生懸命洗い上げる。
「我はまだ頑張らないとな? アンジェリークにとってはまだ背もアレも足りねえだろうし」
「追いつかれねえように、俺も頑張らねーとな?」
「うん」
 レヴィアスはさらにアリオスの背中をこすりつづける。
 その様子を、アンジェリークはこっそり覗いていた。

 ホントは仲がいいものね〜

 彼女が嬉しそうにほっとしたのもつかの間----
「何しやがる!!」
 突然、アリオスの悲鳴にも似た声が響いた。
「我のと大きさを比べただけだ」
「だったら----]
 そう聞こえた途端、今度は、レヴィアスの悲鳴がバスルームにこだまする。
「はうっ!!」
まだまだだな」
 今度のアリオスの声は勝ち誇っている。
「くら〜、何をする、バカオヤジ!!!」
「あんだと〜」
 今度は激しい水音が響き渡り、バスルームでのバトルが始まる。
 先ほどまで穏やかだったアンジェリークの表情が、一気に険しいものとなる。
 折角菖蒲湯にしたというのに・・・。
 彼女はそのままバスルームの扉を強引に開けると、大声で怒鳴った。
「もういい加減にしなさい〜!!!!!!!」
 その一言で、二人はぴたりと喧嘩を止める。
 その後二人は暫くアンジェリークと口を聴いてもらえず、お風呂掃除までさせられるはめとなった。

 折角、菖蒲湯を楽しみにしていたのに、バカバカバカ!!!

 いつもとは違った子供の日にする予定が、全くいつも通りになってしまい、臍を噛む二人なのだった。 



コメント

最近本編が全く更新されていないので、
せめてと思いまして、子供の日です。
すみません。
またいつものようになってしまいました(笑)