「おい、アンジェ、俺の飯を先につけてくれよ・・・」
「ふふっ、いいわよ。しょうがないわね、レヴィアスは」
アンジェリークは、暖かい笑顔を浮かべながら、レヴィアスの茶碗にご飯をよそう。
食卓には、アンジェリーク特製のポトフと魚介類のマリネが並べられており、彼女の愛をたっぷり感じる。
レヴィアスの夕食のために、甲斐甲斐しく準備をするアンジェリ−クに、彼は愛しそうに目を細め、見とれてしまう。
なんてかわいいのだろうか・・・、と・・・。
レヴィアスは至福を感じる。・・・、隣にこの男さえいなければ・・・!
「おい、アンジェ、俺の飯は大盛り・・・、な?」
レヴィアスの隣に座る、彼と同じ顔をもつ銀色の髪の男が、口を開く。
「ええ、ちょっと待ってね、アリオス」
アンジェリークのいっそう華やいだ声に、レヴィアスは深い憤りを覚えた。
「アンジェ! 俺だって大盛り!」
レヴィアスは身を乗り出し、絶叫すると、隣で新聞を読んでいる憎らしいに男を押しのけた。
「何しやがるんだテメエ!」
「邪魔だ・・・」
「あんだとー!」
「もう! 二人とも! 喧嘩しないで!」
怒り、諭しながらも、まるで天使が歌を奏でるような、やさしい声。二人は、どちらからともなく、ぴたりと喧嘩を止めた。鶴の一声ならぬ、アンジェリークの一言である。
「さぁ、ご飯をいただきましょう」
アンジェリークは、手早くエプロンをはずし、席につく。銀の髪のアリオスと漆黒の髪のレヴィアスの間に。
「いただきまーす」
三人は行儀よく手をあわせて、夕食をはじめる。幸せな家族の光景・・・、ここまではだが。
「今日は一段と美味い! 腕を上げたな、アンジェリーク・・・」
レヴィアスは、父親譲りのオッドアイにアンジェリークへの愛をにじませながら、穏やかに微笑む。アンジェリークは、一瞬どきりとする。
「あっ、有難う・・・、レヴィアス」
そう答えたものの、内心複雑な思いがする。・・・どこで育て方を間違えたのかしら、と。
「おい、アンジェ」
レヴィアスに負けじと、今度はアリオスが、ここぞとばかりアンジェリークに話し掛ける。レヴィアスに対して不敵な笑顔を浮かべながら。
「何? アリオス」
アンジェリークは、アリオスの企みなど露知らずに、彼へと顔を向ける。
「アンジェリーク、あ〜ん、しろよ?」
「えっ、あ〜ん?」
アンジェリークはどぎまきしながら、アリオスの云われるままに蕾のような唇をそっと開ける。頬を桜色の高潮させる姿は、なんとも愛らしい。
その姿があまりにもかわいらしくて、アリオスは、クッと喉を鳴らして笑う。彼は、静かにポトフの中のイカを口にくわえると、そのままアンジェリークの口に持っていった。
「何をする、おまえ・・・・・・!」
レヴィアスは必死に邪魔をしようとしたが、あっさりとアリオスに交わされてしまった。
「ん・・・、あっ・・・、もう、アリオスったら、恥ずかしいじゃない・・・」
突然のアリオスの大胆な行動に、アンジェリークは耳まで赤くさせ、うつむいてしまう。口調は怒ってはいるが、まんざらでもないようだ。
「全部そうやって、口に入れてやろうか?」
「ばか・・・」
アンジェリークは照れくさそうに、上目使いでアリオスを見る。その姿がなんともいえなくて、彼はついついからかってしまう。
この光景に溶け込めないものが約1名。レヴィアスである。彼は、めらめらと暗黒の嫉妬の炎を燃え滾らせ、危ないオーラを醸し出す。
「アンジェリーク、ほら、あ〜んだ・・・」
レヴィアスは、俺も・・・、とばかりに、口に海老を銜えると、アンジェリークにその唇を近づける。
・・・ぱく。唇を感じて、レヴィアスは満足げに目を開け、その前にあったものは・・・!
「美味いぜ、レヴィアス」
「・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!!!!!!!!」
そこには、自分と同じ顔を持つ、憎らしい男アリオスの唇があった。彼は、海老を平らげながら、意地悪い笑みを唇に浮かべる。
レヴィアスは、蒼白になって唇を両手で抑えると、そのまま椅子から立ち上がり、脱兎のごとく洗面所へと向かった。えづく声が廊下に響き渡る。
「ちょっと、アリオスっ!」
アンジェリークは、すっかりうろたえてしまい、隣にいるアリオスと、廊下にいるレヴィアスを交互におろおろと見つめるありさまだ。
アリオスは、いつものように、喉をクッ、クッと鳴らし、銀色の長い前髪をかきあげながら、笑っている。
「アリオス、子供相手に何してるの。もぉ、大人気ない」
アンジェリークは困ったように大きな溜め息を吐くと、かわいらしく眉をひそめた。
「小1の癖に、俺の女にちょっかい出すからだ・・・!」
アンジェリークは、照れくさいような、困ったような、なんとも複雑な表情をした。
「レヴィアスは、私たちの大事な子供よ・・・」
「ああ」
アリオスは言葉の語尾を濁す。
「ちょっと、レヴィアスの様子を見てくるね」
アンジェリークは、母親らしい心配げな表情を残して、そのまま洗面所へと向かった。
彼女の後姿を見送りながら、アリオスはタバコを銜え、火をつける。
アンジェリーク・・・、俺は、わが息子であるレヴィアスを、おまえへの恋敵と認めているんだぜ?
アリオスは、艶やかな笑みでわずかに口角を上げる。それは、彼の奥に潜んでいる真のやさしさが現れていた。
クソっ、アンジェリークは何であんなヤツがいいんだ!?
意地悪で、冷酷でどうしようもないヤツが!
俺のほうが、アンジェリークを幸せにできるのに!
何で俺とアンジェリークは親子なんだ!?
世界で一番愛してるのがたまたま母親だなんて、神様は意地悪すぎる!
何であの男が俺の父親なんだ!?
あいつ譲りの金色の右目も、翠の左眼も、そしてこの顔もいやでしょうがない!
どうせなら、アンジェリークに似てほしかった!
レヴィアスは洗面所の水道を激しく出しながら、口を何度も洗い清めた。悔しくて涙が出てしまう。それらをぐっと堪えながら、唇をこすりつづけた。
「レヴィアス・・・」
やさしい声が聞こえ振り返ると、そこにはアンジェリークが立っていた。心配そうに瞳をうるませて。
「アンジェリーク・・・」
「レヴィアス・・、アリオス・・・、お父さんも悪気があったんじゃないのよ、ただ少しいたずらが過ぎただけだと思うの・・・」
レヴィアスは内心うそをつけと思ったが、アンジェリークのために云わなかった。
「判ったよ・・・、アンジェリーク」
レヴィアスは、物分りがいいフリをして、アンジェリークに抱きついた。もちろん、邪な思いを抱いて。
「良い子ねレヴィアスは・・・」
アンジェリークも、レヴィアスの背中にやさしく手を伸ばし、あやすように背中をぽんぽんと叩いた。
レヴィアスの口元に不敵な笑みが浮かぶ。
アンジェリークは、背中にぞくりとした感覚を覚えた。
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コメント
m(__)m申し訳ごじゃりません! 見事に壊してしまいました。(TT)アリオス父、レヴィアス子、アンジェリーク母という大胆なことをしてしまいました。だけど、パラレルだからということで、お許しくださいませ。(お願いだから、ゼロ・ブレイクだけは止めてください〜)実は、これを書いている途中で、愛猫の小鉄が腸閉塞で死んでしまって、ぼろぼろの中での創作でした。これは、次回の「お風呂編」に続くはずなんですが・・・、読みたい方がいれば、書くことにします。小心者tink