What's At The End Of The Rainbow


 虹の終りにはいったい何があるの?
 幸せ?
 それとも-------


 太陽は何ごともないかのように輝いている-----
 日差しが、窓から力強く部屋の中に差込み、外へと誘ってくれているようだ。

 気分転換になるかもしれないわ-----
 外はこんなに明るいもの、部屋の中にいるのも勿体無いわ

 頷くと、木のドアを開けて、一歩外に出てみることにした。

 亜熱帯の惑星のせいか、空気自体が明るい。
 屈託のない風に吹かれて、アンジェリークは海岸を散歩する。

 外に出てよかったな…

 心地よかったのもこの瞬間だけだった。
 次の瞬間には、アンジェリークの大嫌いな雷が遠くから低い音を出してきた。
「きゃあっ!」
 怖くて堪らなくて、小屋に引き返そうとする。
 だが-------
「うわ〜!!!!」
  帰る暇も与えてくれずに、非常にも雨は激しく降り出してしまった。
「もういやっ! ついてないわ!」
 折角昨日は髪も洗ったのに-----
 そんなことを考えながら、アンジェリークはばたばたと走る。
 戦いの衣装はずぶ濡れになり、ぴたりと不快にも足に絡まってきてしまう。
「もうっ!」
 何度か悪態を吐きながら暫く走ると、無人の小屋が見えてきた。

 助かったわ…

 ほっとしてアンジェリークはその小屋の中に駆け込んだ。

                                 ■■■

「あ、ほっとした〜!!」
 入るなり安堵の溜息を吐くと、アンジェリークは顔についた水滴を拭う。
「戦いの衣装までびしょぬれだわ…。なんか身体に張り付いてるし」
 不意にドアが強く開く音がし、アンジェリークは一瞬身体を硬くし、振り返った。
「クソっ、降られちまったぜ」
 その声に、アンジェリークは一気に力を抜く。
 少し低くて艶やかな声。
「アリオス!」
「何だ、おまえも降られちまったのか」
「うん…。スコールって凄いのね!」
 目を大きく丸くしながら、アンジェリークは感心したように言う。
 濡れ鼠の彼を見るのがどこかしら楽しい。
「何バカなこと言ってんだ?」
「あ、だって、アリオスも私も濡れ鼠ってなんか凄いなって!」
「クッ、おまえなあ。それより自分のカッコウを見てみろ? びしょぬれで目も当てられねえゼ。
 --------最も、いつもみたいにガキっぽくなくって”悩殺”出来る格好だけどな?」
 ニヤリと良くない微笑をアリオスに向けられた瞬間、アンジェリークは全身を真っ赤にさせた。
 確かに------自分の今の格好は、戦いの衣装が身体に張り付いてしまい、体の線が見事に露出してる。
「アリオスのスケベ〜!!!!!」
 泣きそうな顔で大きな声で噛み付いてくる彼女に、アリオスは仰け反らせて笑った。
「ホントおまえおもしれえ」
「何よ! 笑ってばかっり! もう知らないっ!」
 大きく頬を膨らまして、ぷいと背中を向ける。
 それがまたアリオスにとっては可愛いくて堪らない。
 ------同時に少し眩しく思える。
「くしゅんっ!!」
 身体を震わせたかと思うと、アンジェリークは大きなくしゃみをし、その後は断続的に何度も小さなくしゃみをする。
「おい、大丈夫か!?」
「急に寒くなって・・・くしゅん!!!」
 次の瞬間には、心臓が止まるかと思った------
「アリオス…」
 温かな彼の体が優しく包み込んでくれている。
 その温かさが心地よくて、同時に胸の奥の透明なところに語りかけてきて-----苦しくなる。
「あっ…」
「じっとしてろ。おまえに風邪を引かれたら、あの守護聖どもがうるせえからな」
「・・・うん、有難う…」
 甘く息が詰まる------
 苦しくて、だけど心地いい不思議な感覚。
 二人しかいない空間は、無垢で優しい。
 胸の奥に渦巻くアリオスへの思慕が渦巻きどうしようもなくなる。
 息が詰まる。
 だが永遠にこうしていたい-----

 神様------
 私はアリオスがどうしようもなく好きです…!
 彼が私を通して”誰か”を見ていることは判っています。
 だけどどうしようもなく好きなのです------

 アンジェリークの華奢な体が僅かに震える。
 自分の切なく小さな恋の想いに。
「寒いのか…?」
「・・・少し・・・」
 消え入るように呟いたときに、アリオスの腕に力が入った。
「アリオス、有難う…。
 安心するの、あなたの腕の中は」
「アンジェ…」
 安心した笑顔を向けてくるアンジェリークに、さらに強くその身体を抱きしめる。

 俺が愛しているのはエリスだけのはずだ…。
 ここにいる女は、エリスの器になる女だ。
 ただそれだけのはずなのに-------
 この温もりを放したくない・・・。
 -------この華奢な身体から血が流れたとき…、俺の心は本当の意味で…。
 こんな禁忌な想い。
 捨て去ってしまえ。
 そうすれば楽になる…。
 -------なのに、この温もりが俺を放してはくれない。

「雨…、やまないね・・・」
「ああ」
 ぎゅっとお互いの温もりを貪りながら、二人は目を閉じる。
 心を偽って。
 想いを偽って-----
 ただお互いの温もりだけをこの胸に閉じ込めた。


 暫くして、ふとアリオスは顔を上げた。
 窓からは、先ほどと同じ、生命力の溢れた日差しが燦々と注いでいる。
「おい、アンジェ、雨がやんだみたいだぜ?」
「…ん…」
 いつのまにかうとうととしていた天使は、ゆっくりと、目をあけた。
「ホント! 流石はスコール!」
 次の瞬間には、アリオスの体は彼女から離れていた。
「あ…」
 名残惜しげな吐息が、ただ一度だけアンジェリークから漏れ、アリオスの温もりを閉じ込めるかのように
一度だけ、自分の身体を腕で抱きしめる。
「行くぜ? 外で歩いてたら、そのうち乾くだろ」
「あ、まって」
 いつものように、アリオスはさっさと背を向けると、小屋から出て行く。
 アンジェリークは”らしい”と思いながら、少しだけ笑い、後を追った。

                                 ■■■

「洗濯物みてえに木にぶら下げてやろうか? だったら直ぐに乾くぜ?」
「もう! からかって! オトメに日焼けは大敵なんだらね!」
 外に出れば、日差しの成果いつものように屈託なく二人はじゃれあう。
 アンジェリークは笑い、アリオスは心からリラックスする。

 これが心地いいなんて・・・。
 俺もな…

「あ、アリオス!! 見て!!」
 急にぎゅっと腕を握られて、アリオスは少しだけ態勢を崩した。
「何だよ」
「虹!! 虹がかかっているの!!!!」
 興奮気味のアンジェリークの声に釣られて、アリオスは雲ひとつ内情転機となった空を眩しそうに見上げた。
「ねえ! 綺麗でしょ!」
「ああ」
 アリオスにはその虹は眩しすぎる。

 俺にとってはおまえのようだ-----
 眩しく輝く、手を伸ばしても届かない-----

「ねえ、虹の終りには何があるのかしら…」
 虹を見上げながら、アンジェリークはぽつりと切なげに呟く。
「------何もねえよ」
 一呼吸おいてから、アリオスは呟く。
「------またそんなこと言う!
 私はね、虹の終りにはきっと楽しいことが待ってるって思う。
 だってね。私の星では、虹にお願いをすると叶うって言うの。
 虹は妖精さんの橋で、渡り終えるまでに聞いた願い事を、あの終わりで叶えてくれるの。
 妖精さんが渡ったところから虹は消えてしまうのよ」
 幸せそうに語り、アンジェリークは虹を見上げる。
「あっ! アリオス!! 虹が消えちゃう!!」
「ほら! お願いをしろ? ったく、くっちゃべってねえで早く」
「うん!!」
 薄くなり始めた虹に、アンジェリークは目を閉じと強く想いを投げかける。
 願い事は唯一つ-----
 W新宇宙の女王”ではなく、17歳のアンジェリーク・コレットとして願いは一つ------

 この戦いが終わってもアリオスと一緒にいれますように…!

 心には正直でいたい。
 ただそれだけ。
 ゆっくりとアンジェリークが目をあけると、虹はうっすらと消えかかっていた。
「願い事はすんだか?」
「ええ!!」
「どうせ、おまえのことだ、願い事は判る」
 アリオスは、一瞬だけ優しい微笑みを浮かべると、すっと浜辺に歩いていく。
「ほら早く来い? 服を乾かしに行くぜ?」
「待ってよ〜!!!」
 パタパタと少女は青年を追いかけ、明るい日差しに溶け込んでいった。

 禁忌な想いかも知れない。
 だが、虹に願いを寄せて、二人の旅はまだ続いていく------

コメント

久しぶりに原点ということで『天空』SIDEです。
書いて手やっぱりこの二人のカップリングに改めて萌えてしまいました




モドル