Date


「えっと、確かこのあたりだったと思うけど…」
 アンジェリークは記憶と地図を頼りに、アリオスの弁護士事務所を探していた。
 もちろん電話番号や、住所、最寄の駅だって知っている。
 彼がどんな訴訟に取り組んでいて、どんな仕事をしているかも放してくれるから知っている。
 だが------
 アリオスのオフィスに行ったことは一度もなくて、アンジェリークはきょろきょろとあたりを見渡す。
 法曹界の街だけあり、誰もが弁護士や検事に見える。
 ティールームを覗けば、書類を片手に一生懸命打ち合わせをしている弁護士たちの姿が見える。

 アリオスはこんな世界で働いてるんだ…。
 私がすむ世界とはまるで違う厳しい世界なんだろうな…

 そう思うと誇らしくもあり、少し寂しくもある。
 アンジェリークは、自分の知らない世界に、ほんの少しだけやきもちを妬いた。

 裁判所の前に差し掛かった時だった。
 長身の男性ふたりが書類を片手に、裁判所から出てくる。
 厳しい顔をしながら、議論し合っていた。
 その姿をみて、アンジェリークは直ぐに誰かがわかる。
 オリヴィエと、夫であるアリオスである。
「あれ、アンジェちゃんじゃない」
 オリヴィエが言い終る前に、アリオスは既に横にはいなかった。
「ったく、アンジェちゃんが絡むと見境ないんだから」
 苦笑しながらも、本当に心から愛し合ってやまない夫婦をオリヴィエは羨ましそうにみていた。
「アンジェ」
「アリオス!」
 駈けて行こうとした彼女をアリオスは制する。
「おい、大事な体なんだからな?」
「あっ」
 少しだけ頬を赤らめると、彼女は素直に頷き彼が来るまで待った。
「すまなかったな、急に電話なんかしたりして」
「ううん、大丈夫よ」
 アンジェリークは笑うと、アリオスに頼まれた書類を手渡す。
「はい、これ」
「サンキュ、助かった」
 アリオスは微笑むと、しっかりと書類を受け取った。
「今から昼休みだから、メシでも食おうぜ」
「うん、嬉しい!! なんだかデートみたいで嬉しいわ!!」」
 アンジェリークは本当に嬉しそうに笑いながら、アリオスの傍についていく。
「デートか・・、プチデートってやつだな」
 その言葉に安心したのか、アンジェリークはアリオスの手に小さな手をからませ、彼もそれに答えてやった。
「でも珍しいわね、アリオスが忘れ物をするなんて」
「ああ」
 クスリとアンジェリークが笑うと、彼は少しだけばつの悪そうな表情をする。
「何か重要なもの?」
「ああ」
 アリオスはただそれだけしか言わない。
 アンジェリークもあえてこのことは訊かないようにした。
「ねえ、どこ連れて行ってくれるの?」
 話題を変えて、彼女はアリオスを期待を満ちた眼差しで見つめる。
「そうだな…、アンジェっ」
「え!?」
 気がついたときにはもう近くにスピードの出た自転車が近づいていた。
 咄嗟に、アンジェリークを守ろうとアリオスは彼女の身体を守るように道路の脇によける。
 その衝撃か、アリオスは書類をばら撒いた。
「きゃあっ!」
 アンジェリークにぶつかろうとした自転車が横を通り抜け、彼女は恐ろしさの余り呼吸を早くした。 
「有難う…」
「危なかったな。
 ったく、ああいうやつがいるから犯罪がなくならねえんだよ」」
 アリオスは、最早遠くに行ってしまった自転車を睨みつけてから、書類を拾い始める。
「あ、私も手伝う」
「あ、おまえはいいって」
「いいから」
 アリオスが少し焦っているのにも関わらず、アンジェリークは、屈んで書類を拾い上げた。
「あ、これ…」
 それを見るなり、アンジェリークは目を丸くする。
「あ、それは」
 アンジェリークが拾い上げた書類は、”新米ぱぱ教室参加受付書類”で、彼女は嬉しそうにアリオスを見つめる。
「有難う」
 クスリと笑って、愛情深い眼差しをくれる彼女に、アリオスは少し照れくさい。
「------子育ては、父親も参加しねえといけねえからな」
 照れ隠しに書類を拾う彼がアンジェリークには可愛くて仕方ない。
「有難うぱぱ。
 私もパパに負けないように素敵なままになるわね?」
 頬に軽くキスをして、アンジェリークは彼に微笑んだ。
「よろしくな、まま」
 アリオスも優しい微笑をアンジェリークに向けると、軽いキスを唇に返してやった------
コメント


あまいですねえ〜
モドル