CLOSE BY YOU


 唇がようやく離され、アンジェリークは、その感覚に眩暈を覚えた。
 全身に甘い旋律が駆け抜け、唇からは、甘い吐息が漏れる。
「アリオス…」
 その名前しか呟くことしか出来ない。
 こんな感覚は初めてで、彼が与えてくれる総てのものに溺れそうになる。
 彼女の頬がばら色に上気し、その紺碧の瞳はうっとりと潤んで揺れている。
 それら総てが、彼をどうしようもないほど昂める。
 翡翠と黄金が対をなす彼の宝石のような瞳にも、彼女への激しすぎる愛情が浮かび上がった。
 もちろん、このどうしようもなく鈍感な少女はその意味が判るはずもなく。
「きゃっ!! え!? 何!!」
 突然、アリオスに花畑に押し倒されて、アンジェリークは甘い悲鳴を上げた。
 間近に迫った彼の繊細で整った顔に、彼女は瞳を深く甘い感覚に煙らせ、はにかむように彼を見つめる。
 アリオスは軽く喉を鳴らして笑い、その瞳がイタズラっぽく輝き、彼女を捕らえる。
「そんな瞳で見やがって、俺を誘ってるのか?」
「もう、アリオスのバカ!! 誘ってなんかいないわよ!!」
 途端に彼女の勝気そうな瞳が輝き、手が抵抗するように彼に伸びる。
 彼女の手が彼の頬にかかろうとしたとき、その華奢な腕を簡単に掴まれてしまった。
「バーカ。俺に敵うわけねーだろ?」
「もう、いつもバカ、バカ、言って…ん!!」
 再び唇が深く塞がれ、彼女の全身から瞬く間に力が抜け、抵抗が弱まる。
 それを待っていたとばかりに、彼の舌がゆっくりと歯列を割って侵入し、彼女の舌をゆっくりと絡めて行く。
「…ん…!!」
 まだまだ慣れてはいない深い口づけに、最初は戸惑いがちに動いていた彼女の舌が、彼の教えられるようにして、動きが大胆になってゆく。
 知らず、知らずのうちに彼の首に腕を回していた。
 今日は何度、彼に口づけられただろうか。
 そのたびに、胸が締め付けられるほど嬉しくて、切なくなる。
 まるで、離れていた時間を埋めるかのように、二人は何度も唇を求め合う。
 再び彼の唇が離され、彼女は潤んだ瞳で、彼の官能的な唇を、無意識に追いかけてしまう。
「もっとか?」
 喉の奥を鳴らして甘く低く笑われてしまうと、甘い旋律が全身に駆け抜けるのを感じる。
 答える代わりに震える手で、彼女は彼の頬をゆっくりと触れる。
「腫れるまでしてやるよ」
「え・・・、あ…ん…!!」
 望み通りに彼の唇が降りてきて、彼女の唇を貪った。
 唇を吸い、口腔内を愛撫し、彼女の感じるところを、いとも簡単に探ってゆく。
 アンジェリークの唇からは甘く切ない吐息が漏れ、アリオスの精悍な背中にしがみ付く。
 こんな感覚を、彼女は今まで知らなかった。
 甘く、切なく、嬉しく、そして愛しく・・・。
 満足げなアリオスの微笑みが浮かぶと共に、唇が離される。
 彼女は愛しさに潤んだ瞳で彼を見つめ、その頬は、初々しくも僅かに赤く染まっている。
「これからは毎日してやるよ」
「うん…。約束」
 激しい口づけの名残で、少し腫れ上がった彼女の唇を、アリオスは愛しげになぞった。
 全身に痺れるような甘い疼きを感じ、アンジェリークは思わず甘いと息を漏らす。
 真摯で、激しさを秘めた不思議な瞳でアリオスに見つめられると、彼女は息が出来なくなる。
 そのままきつく抱きしめてほしかった。
 アリオスは、こんな彼女が、愛しくて、愛しくて堪らない。
 誰よりも、欲しくて、愛しくて。
 この激しいほどの感情は、彼女以外の彼に与えることが出来るものは、いない。
「あ…」
 求めていたものが判ったのか、彼にきつく抱きすくめられ、彼女は思わず嬉し涙を流した。
 この腕に長い間、こうして抱きしめて欲しかったのだ。
 誰よりも、温かく、彼女を満たしてくれる腕。
 柔らかな天使を抱きすくめながら、アリオスも、言葉では言いようのないほどの幸福感が彼を満たす。
「アリオス・・・?」
 彼は突然彼女から体を離すと、彼女の横に寝転がった。
「アリオス…、離れちゃ、イヤだ・・」
 泣きそうな声で言う彼女に、彼は思わず苦笑する。
 彼女から離れたのは、これ以上この状態でいれば、自分を抑える自信がなかったからなのに。
「ねえ…、手を繋いでくれるだけでもいいから…、離れないで…」
 しょうがないなとばかりに彼はふっと笑うと、静かに彼女の小さな手を握り締めた。
「よかった。今は、あなたがもうどこにも行かないってことを、感じていたいの」
 光のような微笑をふんわりと浮かべて、アンジェリークは彼に語りかけた。
 その無垢な光が、彼の胸を締め付ける。
「----おまえのその光に導かれて、俺は魂の浄化のたびを終えることが出来た。
 おまえがいたから、俺は今ようやく幸せになれる…」
 アリオスは再びアンジェリークを組み敷く状態になる。
「----やっと、やっとおまえに辿り着いた…」
 アリオスはもう自分を抑えきることが出来なかった。
 彼の胸の置くから彼女への愛しさが溢れ出し、欲望が渦巻く。
 羽根のような軽い口づけをし、アンジェリークは艶やかな瞳で彼を捉えながら、ゆっくりと彼の頬に手を伸ばす。
「----愛している・・・。おまえの総てを…」
 アリオスの唇はアンジェリークの首筋につけられ、手は彼女の服にかけられる。
「あ…、アリオス・・・、いや…」
 突然の甘い行為に、アンジェリークは全身を震えさせ、僅かの首を横に振る。
「俺はおまえが欲しい。おまえはイヤか?」
 低くぐもった声で囁かれ、アンジェリークははにかみながらも首を横に振る。
「----イヤじゃない…。アリオスしか考えられないから…。だけど、ここではいや。私の部屋で…」
 最後の声は消え入りそうだった。
 アリオスは甘く微笑むと、彼女を抱き上げ、そのまま宮殿へと連れて行った。


 翌日から、女王陛下の傍らには、金の髪の補佐官のほかに、銀の髪をした彼女だけの騎士がいつもいたという----   


コメント
「トロア」LLEDのスチルをモチーフにした創作でございます。
あのスチルにtinkは(*^^*)
何だかとても甘くて苦労しちゃいましたが、書いてて楽しかったです。(.><)
裏になだれ込む雰囲気だったので、このあたりで止めておきました。
(裏部屋に続く(笑))