New Year's Bowl


 大晦日からお正月にかけての舞踏会は、子供の頃は大嫌いな行事のひとつに数えられていた。
 踊りたくもない相手と踊らされて、正直言って退屈以上の何ものでもなかった。
 でも今年は違う------
 大好きで堪らない男性(ひと)と、共に踊り明かすことが出来るから。
 絹の純白のドレスを身に纏い、何度もくるくると回転してみる。
 鏡の前でこれみよがしに、何度もチェックをした。

 大丈夫かなあ・・・。アリオスはへんに思わないかな?

 何度もそんなことを思ってはチェックをする。
 恋する乙女特有の、大好きな男性に良く思われたいがゆえの仕草だ。
「クッ・・・、何、見てんだよ、そんなに」
 魅力的な声にはっとして振り返ると、おかしくてたまらないとばかりに、アリオスは吹き出している。
 それがまた素敵すぎるのが癪に障って、真っ赤になってアンジェリークは口を尖らせた。
「もう! いつからいたの? いるんだったら、声をかけてくれたらいいのに!」
 口調は怒っているものの、アンジェリークの大きな瞳は微笑みさえ浮かんでいる。
 彼女が怒らないのを知っていて、アリオスはわざと言うのだ。
「さっきからだ。声を掛けようにも、おまえは夢中だったからな? 鏡に」
 いたずらっぽく微笑まれて、アンジェリークは恥ずかしさの余り、俯いていた。
「・・・だって、アリオスに、一番綺麗なのを見てもらいたかったんだもん・・・」
「アンジェ・・・」
 あまりにも愛らしい彼女に、アリオスは微笑みながら背後から抱き締める。
「・・・俺にとっては、おまえはいつでも一番綺麗なんだよ・・・。どんな格好をしてもな?」
 耳元を甘く擽る低い声。
「あっ・・・」
 全身に甘い痺れが駆け抜けて、アンジェリークは深く瞳を閉じた。
 体温より少し冷たい唇を首筋に感じて震える。
「アリオス・・・」
「このまま、寝室に直行してえけど、そんなわけにはいかねえからな。新年はおまえとふたりっきりで迎えたいんだがな。ベッドの中で・・・」
 艶やかな低い声で囁かれて、アンジェリークは甘い吐息を吐いた。
「舞踏会が終わったらね?」
「ああ。楽しみにしてる」
 甘く軽いキスをした後、アリオスは甘く微笑む。
「これ以上しちまうと、このままベッドに直行だからな?」
「アリオスったらもう・・・」
 はにかむ彼女に甘い微笑みを浮かべると、アリオスはその腕を取った。
「それじゃあ、行きますか? 王女様?」
「ええ、大公様」
 ふたりは見つめ合って微笑み合うと、そのまま舞踏会が開催される広間に向かった-----



「皆様、まもなく、新年を迎えるダンスが始まります」
 アナウンスが流れ、アリオスは横にいるアンジェリークの手を取る。
「王女様、行くぜ?」
「はい」
 ふたりはダンスの輪に加わるとステップを踏み始めた。
 大きな手に包まれて、アリオスの深い意味を持つ眼差しに包まれて、アンジェリークはとても心地よく感じる。
 彼の眼差しとぬくもりに見守られているようで、とても安らいでいられた。
「間もなく、新年です」
 アナウンスが聴こえ、アリオスは急にアンジェリークの腰を抱き、堂々と引き寄せる。
 カウントダウンが始まった。
 その瞬間------
 甘いキスを受けて、アンジェリークもアリオスに抱きつく。
「A HAPPY NEW YEAR!!」
 大きな声で新年のお祝いがされる中、アンジェリークは甘くも深いアリオスのキスに酔いしれる
「あ・・・」
 ようやく離されて、彼女は艶っぽい鮮やかな愛のある眼差しを、彼に向けた。
「あけましておめでとう、アンジェ。今年もよろしくな?」
「うん、アリオス…。
 こちらこそあけましておめでとう、今年もよろしくね!」
 今度はアンジェリークから甘いキスがアリオスから降り注ぐ。
 キスの後、アリオスはアンジェリークの手を引いて、アリオスはそっと、ダンスの和から抜け出す。
「------おまえと過ごしたい…」
「うん、いいよ…」
 二人は、国王に一瞬だけ眼で挨拶をしたあと、そのまま、自室に向かって駆け出す。
 その後、甘い瞬間が二人に訪れたのは言うまでもない。

コメント

「DESPERADO」のお二人の久しぶりのご登場となりました。
 少し早い大晦日話です。
アリオスさんもアンジェチャンも、やっぱり瞬間はベッドの中が良いようですね(笑)



モドル