「くしゅうん!!」 突然のくしゃみに、補佐官であるレイチェルは慌てて、アンジェリークを見た。 「アンジェ、大丈夫? 風邪?」 「そうだと思う…くしゅん!!」 言ってる端から、アンジェリークはくしゃみをする。 鼻声で、その上、熱っぽい感じがする。 レイチェルは、慌てて駆け寄って、アンジェリークの額を診た。 「アンジェ! 熱あるよ! 今日のノルマは終ってるし、早く部屋に帰りな! アリオスには直ぐに迎えに来てもらうし」 「・・うん、ごめんね…レイチェル」 「とにかく、ソファで横になってるのよ!!」 レイチェルは、アンジェリークをソファに寝かすと、アンジェリークの旦那であり「ぐうたら守護聖」と玲チェ得るが呼んでいる、アリオスを執務室に呼びに言った。 「ぐうたら」といっても、彼はアンジェリークのためだけに人の倍以上の仕事はこなしている。 端から見れば、「スーパー守護聖」なのだが、趣味の「昼寝」を、こともあろうか女王の膝枕で行うあたりが、「ぐうたら」と呼んでいる所以であった。 「アンジェ!」 「…アリオス」 ソファで横になっている彼女は、最早女王ではなく、アリオスの妻の顔に戻っていた。 熱で潤んだ瞳をアリオスに向けている。 「ほら帰るぞ?」 「うん…」 アリオスの首に手を回して抱き上げられる姿に、レイチェルは少し妬ける。 アンジェリークが本当にアリオスを信頼していることを見せ付けられてしまうから。 「じゃあな」 「待って、アリオス!」 執務室から出ようとする彼を、レイチェルは強く引き止める。 「何だ」 「-----アンジェリークを、毎晩裸にするから、風邪を引くのよ!」 「レイチェル…」 アンジェリークは熱のある顔をさらに真っ赤にさせる。 「おい、んなこと言うから、アンジェの熱が上がっちまっただろうが」 「だって本当のことでしょう!」 「アンジェだって暖かくなってんだからな?」 アンジェリークは恥ずかしくなってしまって、アリオスの胸に顔を埋めてしまった。 「俺たちは夫婦なんだから、当然だ」 アリオスは、しれっとしている。 「とにかく、今夜は”えっち”禁止!」 「知るかよ」 彼はそれだけを言うと、さっさと執務室から出て行ってしまった。 ッたく、アリオスってば、自分のせいで、アンジェが疲れてんの知ってるのかしら? 二人の私室に帰ると、アリオスは先ずアンジェリークをベッドに寝かせ、楽なパジャマに着替えさせてやった。 所謂いつもは“無用の長物”というやつである。 「こういうときには、役に立つよな」 「…バカ…」 少し息を乱しながら、アンジェリークはアリオスを見つめた。 「何か温かいもんでも作ってやるぜ?」 「いい、側にいて…」 アンジェリークはまるで幼子のように、アリオスのシャツを掴む。 「しょうがねえな」 ふっとアリオスは笑うと、アンジェリークの小さな手を握って、ベッドに腰をかける。 「いや、抱きしめて欲しい…」 「判った、女王様」 「この部屋にいるときは女王じゃないもの。 アリオスのお嫁さんだもん」 可愛いことを酔う彼女に、アリオスは愛しげに目を細めると、そのままベッドの中に入り、抱きしめてやった。 「奥さん、満足か?」 「うん!」 熱っぽい身体を彼女は擦り付けてくる。 「----有難う、もううつるから、離れて?」 「ダメだ」 「あっ」 気を遣って直ぐに離れようとする彼女を、アリオスはしっかりと抱きしめる。 「俺が風邪をひいたら、ちゃんと看病してくれよ?」 「…うん…」 アンジェリークはその言葉に安心したのか、彼をしっかりと抱きすくめた。 アリオスの胸に耳を押し当て、アンジェリークは鼓動をしっかりと聞いている。 「アリオスの胸の音子守唄みたい…」 「聴いてろよ…」 幼子にするように、アリオスの背中をアンジェリークはしっかりと撫でつける。 暫く奏してやっていると、アンジェリークからすやすやと安らかな寝息が聞こえてきた。 彼はそれを聞きながら、優しく微笑む。 「愛してるぜ? アンジェ…」 栗色の髪にキスをすると、アリオスもまた眠りに落ちた---- その夜は、アリオスはいつもよりも体力が有り余っていたせいか、根雨が下がったことをいいことに、アンジェリークを散々可愛がった。 |