Holiday


 幾分か日差しが柔らかくなり、アリオスはアンジェリークとふたり手を握りあって、海岸をゆっくりと歩いていた。
 風がそよいでとても心地好い。
「気持ちいいわね?」
「ああ」
 ただ歩いているだけなのに、ふたりにとってはとても楽しかった。
「夏ってね、やっぱり夕方が好きだわ。だって風が吹いて気持ちいいもの」
「俺は夜が好きだぜ? 夏にしか出来ないことができるからな?」
「花火とか?」
 アンジェリークは小首を傾げ、アリオスを見つめる。
「まあ、それもあるが・・・、もうひとつあるだろ?」
「もうひとつ?」
 益々アンジェリークは判らなくなって、アリオスを見つめた。
「星空を見ながらだ」
 アリオスは意味深の微笑を壁他ので、アンジェリークははっとする。
 その意味が判るなり、彼女は真っ赤になってしまう。
「もう・・・、バカ」
「うるさい補佐官殿と離れての”視察”だぜ? たのしまねえとな。せっかく取れた視察の時間なんだから」
「うん…、だけど”えっち”ばっかりはだめよ?」
 上目遣いに彼女は言い、アリオスは複雑な笑みを浮かべる。
「まあ、今の散歩の時間も有意義に過ごそうぜ?」
「うん!!! だったら早速!!」
 アンジェリークは笑うと、アリオスの手をするりと抜け、走り出す。
「どこ行くんだ!」
「せっかく取れた時間よ? 楽しまなくっちゃね!」
 波と戯れ出す彼女に困ったような表情を浮かべながら、彼もその後に追っかけていく。
「おまえ島の裏に流されたときもこうだったよな?」
「ふたりっきりで初めて過ごした時間は、嬉しかったから…。
 そして今も嬉しいから」
 少し恥ずかしそうに言う彼女に、アリオスはふっと微笑んだ。
「アリオスとふたりでいるとね、何だかはしゃぎたくなっちゃうの!」
「ったく、お子様なところは変わらねえな」
 喚声を上げながら喜ぶ彼女に、アリオスは見守るように見つめた。

 あいつの羽根は無垢で美しい・・・。
 俺なんかが触れてはいけないんじゃないかって、時々思ってしまう…。

 一瞬、彼女の背中に見えた羽根が羽ばたき、飛んでいくような気がして、アリオスははっとして一歩踏み出す。

 行かないでくれ!

「きゃっ!!」
 不意に砂浜に足を取られて、アンジェリークは体勢を崩し、その声で彼は我に帰った。
「ったくお約束なやつだぜ」
 彼はすぐにアンジェリークに手を延ばすと、その華奢な身体を包み込んで、支える。
「あっ、有り難う・・・」
 姿勢を正しても、アリオスの腕の力はかえって強くなった。
「アリオス・・・」
「------アンジェ…。
 ずっと、ずっと一緒だぜ? お互いの職務を下りてからもずっと・・・」
「もちろんだわ、アリオス。
 ------ねえ、急にどうしたの?」
 彼女の優しい声と温もりがゆっくりと染み入ってくる。
「なんでもねえよ・・・」
「ふたりが本当のふたりになった時に、またここに来ようね?」
「ああ」
 更にアリオスは力を込めてアンジェリークを抱き締める。
 ふたりは見つめ合うと誓いの意味を込めてキスを交わした-------

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今日のお話は、今かいてるきり番のさり気なく後のお話です。

モドル