とりとめてどこに行くとか決めてはいないが、アリオスと街をぶらぶらと目的なく歩くのが、大好きだ。 彼とふたりなら、一緒にいるだけで楽しい。 「やっぱり寒いね」 「ああ」 アンジェリークは手を擦って温め、息を吹き掛けた。 「ほら」 少しぶっきらぼうに手を出されて、彼女は嬉しそうに微笑むと、アリオスに自らの手を預ける。 彼は小さなアンジェリークの手をその大きな手で包み込むと、黒のレザーコートのポケットに入れ込んだ。 「あったかい・・・」 優しくも甘い温もりに癒されて、アンジェリークは甘い吐息をひとつ吐く。 「おまえ、寒がりだったら手袋ぐらいはめて来いよ」 呆れかえるように呟くと、アリオスは溜め息を大きく吐いた。 「・・・だって、これだったらアリオスと直で手を繋げられるじゃない・・・。アリオスの肌を感じることが出来るじゃない・・・」 小さく可愛らしく呟く彼女をに、アリオスは愛しくて堪らなくて、抱き締めたくなる。 「今夜、もっともっと直で感じさせてやるぜ?」 「もう・・・バカなんだから・・・」 白い頬を薔薇色に蒸気させる彼女が、すごく可愛くてしょうがない。 アリオスは握り締める手に更に力を入れた。 何の目的もなく、ただぶらぶらと甘い散歩を楽しんでいても、おなかは空いてくる。 「腹、減らねえか?」 「うん、空いた」 「だったら、この近くにうまいうどんすきを食べさせてくれる店があるから、そこに行くぞ」 いかにも美味しそうな響きに、アンジェリークは大きく頷いた。 「うん!」 だいたい、アリオスが連れて行ってくれた店に、今まで外れた試しがない。 アンジェリークは、スキップをしながら、アリオスにくっついていった。 連れていってくれたところは、とても素朴なうどん屋さん。 座敷でうどんすきを食べさせてくれるのだ。 たったふたりだけで鍋を囲むのは、どうしてこんなに楽しいのだろうか。 そしてどこか親密な香りがするのも、堪らないところだ。 「ほら、食え」 「うん、有り難う」 小皿の中には、たっぷりのだしとうどん、野菜や鳥肉、魚介が入っている。 鍋の時はこうやって彼がイニシアティブを取ってくれるから、嬉しい。 本当はただの鍋奉行が正しいのだが、アンジェリークはそんなことは気にしない。 むしろ、嬉しい。 いつもは彼の嬉しそうな顔が見たくて、給仕しているが、こうやって給仕されるのも悪くなかった。 「凄くおいしい〜! うどんもしこしこつるつる!」 「だろ? どんどんいこうぜ? 体力つけないとな」 意味深に微笑まれて、アンジェリークは恥ずかしさの余り俯いてしまった。 本当にうどんすきは美味しくて、だし汁までもを堪能した。 打ちたてのうどんはのどこしが余りにも良くてどんどん入っていくし、野菜も味が染みていて、その上に肉や魚介も新鮮で美味しい。 余りにも素敵すぎて、胃のキャパシティなど関係なく、どんどん入った。 「おなかいっぱい〜!」 デザートまで食べ尽くすと、息ができないほどの満腹感だ。 「そいつは良かったな」 「うん。有り難う、アリオス」 アンジェリークは満足げに微笑むと、アリオスの肩に頭を凭れさせた。 「温まったね」 「体はな。心はおまえが温めてくれるからな」 ふたりは微笑み合うと、座敷席を良いことに、甘くキスをした。 程よく、おなかがこなれた頃、会計をして、ゆっくりと店を出る。 外はかなり冷たくて、食べて暖まった体が少しずつ熱を奪われる。 「ほら、手、貸せ」 「うん、有り難う」 彼に手を優しく包んでもらって、ポケットに直しこんでくれる。 それが心地好かった。 ぶらぶらと歩いていて、不意にアンジェリークは足を止める。 「アリオス、あれ見て」 アンジェリークは少し興奮気味に、ショーウィンドウを指さした。 見ると高級そうな着物が飾ってある。 「振り袖か・・・。もうすぐ成人式だもんな」 「うん。私もあんな黒いの着てみたい〜!」 アンジェリークがうっとりと呟き、飾られている毬とねこの柄がとてもシックな振り袖を、じっと見つめている。 「おまえは”振り袖”は着られねえぜ?」 「どうして!?」 彼からの意外な言葉に、彼女はショックとばかりに顔色を変える。 その表情は哀しそうに揺れ、大きな瞳は涙がいっぱいたまっている。 「バーカ、勘違いすんな? おまえが成人式を迎える頃は、俺の嫁さんになってるからな。振り袖は無理だ」 「あ・・・」 彼女は今度はほんのり嬉しそうにして、俯いた。 振り袖。それは未婚女性の証----- 彼からのプロポーズにも取れる言葉に、アンジェリークははにかみながら頷くと、甘い声で呟いた。 「そうね」 |
コメント あまあまSTORYです。 このうどんすきのモデルは、大阪の激安で、上手いうどん屋さんのうどんすき。 コレかいていたら、異様に食べたくなりました(笑) |