誕生


「ねえ、パパ、ままは本当に大丈夫なの?」
「ああ、ままは大丈夫だ」
「うん…」
 父親に力強い言葉を貰い、手を握り締めてもらったものの、レヴィアスには不安でならなかった。
 母-----アンジェリークは、一度、病気で死に掛けたことがあり、そのことが幼いレヴィアスには深くのしかかっている。
 だからこそ、母親が心配で堪らない。
「ままは二度目の出産だからな? 大丈夫だ。ちゃんと元気におまえの弟か妹と一緒に出てくるから」
「うん…」
 アリオスとて不安は無いわけではない。
 一度は、彼女を亡くしかけたのだから。
 虚弱な躰を押して、彼の子供をふたりも産んでくれる。
 それに感謝せずにはいられない。
 今は随分体質も改善され、”死”というものが、身近でなくなってきたが、それでもまだ、アリオスにとっては目が離せなかった。
 アリオスとアンジェリークにとってはふたり目の子供。
 ふたりにとって宝である、一人目の息子レヴィアスの誕生を、アリオスは当時は知らなかった。
 今でもそのことは悔やんでも悔やみきれない。
 だからこそ、このふたり目の子供の誕生を立ち会えることが、深い意味を持ってくる。

 アンジェ・・・。
 がんばってくれ・・・!!
 俺もレヴィアスも祈っているから…!!

 子供は生ける奇跡。
 アリオスはその瞬間を、愛する息子と待つことが出来、最高に幸福だった。
「まま、大丈夫かな・・・」
「ああ大丈夫だ」
 父子は何度も同じ会話を交わして、落ち着かない時間を過ごす。
 何度も時計を見て溜息を吐くタイミングも同じで、微笑ましかった。
 おなかの中で子供が大きくなっていく様子を、アリオスはこの数ヶ月間、楽しんで眺めていた。
 愛する者が自分の子供を産む。
 その当たり前な行為がこんなに幸せなのは何故だろうか。
 
 そろそろ生まれる。
 その連絡を受けて、アリオスとレヴィアスは消毒をし、白衣を着てアンジェリークガいる分娩室に入った。
 生まれてくる瞬間の感動を、家族皆で分かち合いたかったから。
「------アンジェリークさん、だんなさんと息子さんが来たわよ」
「・・・アリ・・・オス!!!」
 痛みに耐えながら、アンジェリークはアリオスを求めて手を伸ばす。
 その手をとってやって、アリオスは更に強く握り締めた。
「アンジェ、もう少しだ、がんばれ」
「うん・・・っ!!」
「ままっ!!」
 ぎゅっと握り締めた手に力が入る。
 どれほど痛いかが判り、アリオスは辛くなった。
「ああああっ!!」
 大きな声がアンジェリークから漏れる。
 次の瞬間、赤ん坊が大きな声で産声をあげた。
「んぎゃー!!!」
 レヴィアスは、母親から出てくる自分の弟か妹に目を丸くする。
「アンジェリークさん、女の子よ!」
「おんなのこ・・・」
「レヴィアスの妹だな…」
 アンジェリークは大きな息を吐いた後頷いた。
「・・・よくがんばったな?」
「アリオス…」
 アリオスは持っていたガーゼで、アンジェリークの汗を拭いてやり、その労を労う。
「レヴィアス、おまえの妹だ」
「妹!!!」
 自分だけの子分でも出来たつもりなのか、レヴィアスは嬉しそうに笑っている。
「産湯は、ご主人が入れてあげてくださいね?」
「ああ」
 助産婦に手伝ってもらいながら、娘を産湯に疲浸からせる。
 赤ん坊を抱いたのも、お風呂に入れるのも初めての経験なので、アリオスはぎこちない手で、自分の娘のお風呂を入れた。
 さっぱりと娘がしている間、アンジェリークは出産の後始末をしてもらった。
「ほら、レヴィアス、おまえの妹だ」
 見せてやると、レヴィアスは柔らかな赤ん坊の頬に触れる。
「可愛いね〜」
 初めての妹。
 レヴィアスは幸せそうに、何度も妹の頬に触れていた。
「アンジェ、娘だ。俺たちの」
「うん…」
 アリオスに産湯に入れてもらった娘は、どこかさっぱりしていて、アンジェリークは幸せそうに笑った。
「よかったわね? パパにお風呂に最初に入れてもらって・・・」
 アンジェリークは再び抱くことの出来た、アリオスの子供をぎゅっと抱き締める。
「これから親子四人でがんばっていこうな?」
「うん!」
 新たにスタートを切る家族。
 彼らは、愛に溢れた眼差しでお互いを見やり、幸せに浸っていた-----  

コメント

「luluby in blue」のEDの後のエピソードです。
皆幸せ(笑)

モドル