A spring doze


 鈍色の温かな春の光が、レースのカーテン越しに入ってくる。
 窓を開ければ、花の香りが鼻孔をくすぐってくれた。
「今日はお洗濯日和よね!」
 太陽を燦々と浴びながら、アンジェリークは息を大きく吸い込む。
「アリオス、お洗濯干してくるから、この子をお願いね?」
「------ああ」
 アリオスの側にいるのは、二人の宝物。
 ようやく”はいはい”を初めて、好奇心旺盛な時期だ。
 父親であるアリオスの近くを、ちょろちょろと動き回っている。
 アリオスは気のない返事をしたが、その実、ちゃんと息子を見ていた。
 そのことを判っているからこそ、アンジェリークは安心して、彼に息子を託すことが出来るのだ。
 聖地から下界に戻って、およそ1年半。
 二人の間に生まれた子供も、6ヶ月になる。
「だー、だー」
 満足にまだ言葉を操れない息子は、父親を”山”だと思っているらしく、せっせと登ってくる。
「こら? お父さんは山じゃねえぞ?」
 子供のくすぐったがる姿を見たくて、わざとこそばしてみた。
「きゃっ! きゃぅ!」
 楽しそうな子供の声に、アリオスの心の和んでいく。

 アンジェ…。
 おまえは、前世では、俺が手を伸ばしても、手に入れられなかった物を何でもくれる。
 お返しにもならねえかもしれねえが、俺は、何があっても、おまえを一生護っていくから------

 アリオスは幸せな気持ちに全身が満たされるのを感じながら、息子と戯れていた-----


 アンジェリークはと言うと、裏庭で洗濯物を干すのに格闘中だった。
「お日様に当たったシーツとかおむつとか気持ちいいものね〜!!」
 しわを伸ばして、次々に洗濯を干していく。
 子供のおむつをこまめに代えてあげているせいか、沢山の洗濯物になる。
 今日は日差しも強いので、布団なども干していた。
 干している途中には、鼻歌なんぞも出てきた。
 特に、アンジェリークは、アリオスの大きなシャツを干すのが大好きで、いつもこれを最後にしている。

 この背中で、私たち親子を護ってくれているもんね…。
 いつも有り難う…。
 私はいつもあなたに護られてばかりね…。

 アンジェリークは湿っているのにもかかわらず、思わず、アリオスの大きなシャツに顔を埋めてしまう。

 大好き…!

 ここの中で言っておいて、恥ずかしくて、彼女は真っ赤になってしまった。

「さてと、もどらなくっちゃ」
 洗濯物を干し終えて家の中にはいると、リビングでは、アリオスと息子が気持ちよさそうに、仲良く丸くなって昼寝をしてる。
「…可愛い…」
 アリオスに対しては失礼かもしれないが、思わずくすりと微笑みながら呟いてしまう。
 しかもアリオスの銀色の髪には、風に乗っては行ってきたであろう、さくらの花弁がついていた。
 それに目を細めながら、アンジェリークは幸せそうにさくらの花弁を取る。
「アリオス、おやみなさい」
 アンジェリークもまた、アリオスの隣にそっとその身を横たえて、彼の背中にしがみつく。
 目を閉じると、幸せな夢を見られるような気がした------

 穏やかな春の日差しの下で微睡む親子を、桜の花は祝福するかのように、花弁をまわりに散りばめてくれる。
 結局------
 親子三人揃って夕方近くまで眠ってしまい、この日の夕食は外食となってしまった。
 幸せな幸せな春の休日-------
 

コメント

甘甘な二人の春の休日です。
二人は一緒になったら、いつもこんな甘い日常なんでしょうね〜。
書いていて幸せな気分になりました。
早く本当の春が来るといいな〜



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