何だか今夜は眠れないな・・・ アンジェリークは、じっと夜空を眺めながら、また一つ溜息をついた。 膝の上に広げられているのは、大人の女性向の雑誌。 そこには、愛する人が担当している、ヘアメイクの記事があり、それを見るたびに複雑な思いに駆られてしまう。 やっぱり、写真に写ってる女性は、みんな綺麗・・・。 この中には、私と年があまり変わらないモデルもいるのに・・・。 私はまだまだ子供っぽい・・・。 アリオスは、私はこのままで一番だといってくれるけど、やっぱり不安になるのよ? 自分の心をもてあましてしまい、アンジェリークはまた溜息を吐いた。 どうしたら、いつになったら安心できるのかな・・・? アンジェリークは、左手の薬指にしている指輪を見つめる。 今は、学校にいるとき以外はずっと填めている大事な指輪。 別に”婚約指輪”も貰っているが、この指輪は、恋人になってアリオスが最初にくれたとても大切なものだ。 だからずっと、こうして外さずにいるのだ。 それを身ながら、アンジェリークはまた溜息を吐く。 アリオスの声が聞きたいな・・・。 机の上には、充電済の携帯電話がある。 アリオスの言われて持ち出したものだ。 だが、携帯は何となく嫌で、終えの電話の子機を取ってきて、それで掛ける事にする。 そのほうが、彼の声をよりよく聴くことが出来るから。 アリオス・・・、まだ起きてるかな? 迷惑かな・・・? 時計を見れば、ちょうど0時を過ぎた所。 一般家庭なら電話などかければ迷惑になる時間だが、彼は一人暮らし。 仕事も遅いので当然起きている。 アンジェリークは、大きく深呼吸をした後、指がもう覚えてしまっている、アリオスの家の電話番号を掛けた。 「アリオス・・・」 早く出て欲しいと祈りを込めて、アンジェリークは何度も呼び出し音を聴く。 ちょうど七回目のコールのとき、受話器が上がる音がした。 「アンジェか?」 その声と言葉に、アンジェリークは胸を大きく跳ね上げさせる。 「アリオス! あ、こんばんは!」 「コンバンハ、アンジェ」 驚いてしどろもどろになるアンジェリークに、アリオスは深い微笑を浮かべる。 「どうした?」 「あ、どうして私だって判ったのかなって・・・」 「クッ」 そのあまりにもの素朴すぎる問いに、アリオスは思わず笑ってしまう。 電話口で笑う彼に、アンジェリークは少し受話器の前で口を尖がらせた。 「----おまえ、また電話の前で口を尖らせているだろう?」 「え、あ、何でわかったの!?」 慌てて焦る彼女が、アリオスは益々可笑しくて笑う。 「お前のやることなんてな、お見通しだぜ?」 余裕たっぷりに言われて、彼女は益々怒りっぽくなる。 アンジェリークは、それが悔しくて堪らない。 11歳も上の、余裕というヤツが、妙に癪に障ってしまう。 電話を片手にベッドの上にどんとのる。 その音が電話を通じて、アリオスに聞こえる。 「大人しく寝ろよ? お姫様」 「いいもん!」 アンジェリークは、少し怒ったふりをした後、アリオスに甘く囁く。 「・・・でもね、どうして私だって判ったの?」 「-----そうだな・・・」 アリオスは一瞬間を置くと、ゆっくりと口を開く。 「-----いつもおまえのことを考えてるからだな・・・」 優しく甘い一言---- アンジェリークは立った一言に癒され、胸の奥が温かくなり、熱いもので満たされるような気がする。 「・・・ほんと?」 「本当だ。何なら、今度泊まった時に試してみるか?」 「・・・バカ・・・」 真っ赤になりながら、アンジェリークはそれを慌てて否定をした。 「で、おまえはどうしたんだ?」 アンジェリークは、アリオスの言葉にすっと微笑みながら、ゆっくりと目を閉じる。 「・・・もういいの・・・」 「へんなやつだな?」 だって・・・、もういいんだもん・・・。 アリオスに温かい言葉を貰ったら不安なんかどっかに行っちゃったから・・・ 「アリオス・・・」 「何だ?」 甘い彼の囁きに、アンジェリークは笑みを漏らす。 「私が眠るまでね、ずっと、何でもいいから話していて?」 「ねたってどうやって判るんだよ?」 「だって、私って”いびき”かくんでしょ? それで・・・」 その言葉に、アリオスは益々彼女が可愛く思ってしまう。 「バーカ。あれは冗談だ? おまえは寝息しか立てねえよ」 「もうからかったの!?」 怒るながらも、アンジェリークはどこかくすくすと笑っていた。 「しょうがねえから話して置いてやるよ? -----昔々あるところにおじいさんとおばあさんが・・・」 「ちょっと! 私子供じゃない!」 起こり笑いをしながらも、アンジェリークは本当に楽しそうにしている。 それがアリオスには嬉しい。 「「ったくしょうがねえな・・・」 そういいながらも、アリオスは笑っている。 「何してたの?」 「風呂はいってビール飲もうとしてた」 「だったら飲んでいいよ?」 「ああ」 二人はたわいのないことをずっと話していく。 「あっ! 空見てアリオス! 窓の外」 「何だ!?」 「流れ星一杯!」 暗い夜空に、流れ星が無数に落ちてきて、華麗なる天体ショーを行っている。 それはまるで宝石のように、二人を包み込んでいるかのようだ。 「ああ。今夜だったのか・・・。”しし座流星群”」 「何?」 「テレビでいってただろう。 この星たちは、300年前と180年前の流れ星らしいぜ? 宇宙って広大だな?」 「そうなんだ!」 アンジェリークは目を輝かせて窓を見上げる。 本当に、 宝石をひっくり返したように美しい夜空に、アンジェリークはうっとりと見惚れる。 「今夜、アリオスに電話してよかった。 だってこんな素敵なものを一緒に見れるんだもの・・・・」 声だけで彼女が感激しているのが見て取れる。 アリオスは彼女が側にいたならば、抱きしめてやりたかった。 「ねえ、流れ星に願いを掛けましょう? 一緒に」 強請るように言うアンジェリークがアリオスは愛しい。 「そうだな? 俺たちの”願いは同じだからな?」 「うん。 ------だったら目を閉じて、ゆっくりと念じましょう!」 私たちがいつまでも二人で一緒に入れますように----- 暫く二人はしっかりと深く祈った---- 「アンジェ?」 暫くして声を掛けてみると、電話の向こうから、見事に寝息が聞こえている。 「しょうがねえな・・・」 アリオスはフッと笑うと、耳元に電話を置き、彼女の寝息を子守唄にして眠りに落ちた----- |