The Biggest Part Of Me


「おっと…!」
 アンジェリークが躓きそうになったために、アリオスは彼女の華奢な身体を受け止めてやった。
「あ、有難う…」
「どうして、そういつも何もないところでよく転ぶ?」
 少し冷たい言葉でも、彼が支えてくれている腕の温かさで、アンジェリークにはその愛情の深さを感じることができる。
「ごめんなさい…」
「いいから、俺にしっかり掴まっとけ? そしたら、転ぶことはねえだろ?」
 黄金と翡翠の瞳が魅惑的に悪戯っぽく光って、アンジェリークを優しく導いてくれる。
「うん!! 有難う!」
 嬉しそうに腕を掴む彼女を見て、アリオスの表情にも笑顔が広がった。
 その笑顔はアンジェリークが最も好きな彼の表情のひとつ。
 それに見惚れずにいられない。
「クッ、何見惚れてんだよ?」
「…だって…」
 少し、むくれる彼女に、アリオスは優しい笑みを浮かべてくる。
 それがまたアンジェリークにとってはツボで…。
「ほら拗ねて無いで行くぞ?」
 くしゃりと栗色の髪を撫でられて、アンジェリークはくすぐったいような、少し悔しいような気分になる。

 アリオスが11歳も上だから、いつも大人で余裕があって…。
 その余裕が頼もしくもあって、また年の差を感じてしまう…。

「どうした?」
「・…何でもない…」
 掴む腕をさらにぎゅっと力を入れた彼女に、アリオスはしょうがないとばかりにフッと笑う。
「行くか? メシ食いに」
「うん!」
 そのまま二人は仲睦まじく、予約していたレストランへと向った----

                         -------------------------------

 夕食後、アリオスのマンションに寄って、二人はゆったりとくつろいでいた。
 アンジェリークは、ハーブティーを片手にファッション雑誌などをぺらぺらとめくり、アリオスは横で経済誌を読んでいる。
 彼の雑誌を見つめる横顔を見て、アンジェリークはうっとりとするとともに、少し切なくなった。

 やっぱり、アリオスってば大人だな…。
 こうしていると、私の子供さかげんが思い知らされる。
 どうにかして、彼を慌てさせてみたいな…

 不意に悪戯心が起こり、アンジェリークは自分でもくすりと笑った。

 私が押し倒したりなんかしたら…、アリオスどう思うかな〜、なんて…。

 悪戯心がアンジェリークの心の仲でむくむくと育ってきて、彼女は楽しくて溜まらない。

 そっと…。
 そっとよ…

「アリオス?」
「何だ?」
 彼が振り向いた瞬間、アンジェリークはそのままアリオスをリビングの床に押し倒してしまった。
「おいっ!」
 アリオスは、アンジェリークの意外すぎる行動に、少し狼狽する。
 彼の表情は、それこそ度肝を抜かれたようで…。
 翡翠と黄金の瞳が大きく見開かれている。

 やった!

 アンジェリークは満面の笑顔を浮かべながら、彼の上に着地する。
「びっくりした?」
「バカ」
 はにかみながら、子供のような無邪気な笑顔を浮かべて、アンジェリークが上位になって彼の顔を覗き込んでいる。
 その姿が可愛くて、アリオスは思わず片手でぎゅっと抱きしめる。
「可愛いことしてんじゃねえよ!」
 そのままアリオスはアンジェリークを抱きしめたまま、床に転がって、自分が上位になる。
「あ、アリオス…」
「可愛いな・・おまえ…」
 彼はギリギリまで顔を近付けて笑う。
 アンジェリークは、大好きな人の唇が近づいてくると思い、思わず瞳を閉じた。
 が-----
 いつまでも降りてこないので、アンジェリークは渋々目を開ける。
「お仕置きだ、キスはなし!」
 ごろんと横に転がるアリオスに、アンジェリークは思わず口を尖らせてしまう。
「意地悪」
「クッ、言ってろよ?」
 彼は甘く笑うと、アンジェリークの小さな手を握り締める。
 少し拗ねていた彼女が、頬を赤らめて潤んだ瞳で見つめるのが、アリオスには可愛くて堪らない。

 アンジェ…!!
 やっぱりおまえは可愛くて堪らないな…。

 じっとお互いの温もりを手で感じて、優しい眼差しで見つめ合う。
 愛の溢れた空気が二人を包み込む。
「きゃあっ!」
 その腕を引っ張られて、アンジェリークはアリオスにしっかりと抱き寄せられた。
 その腕の中に包まれ、彼女は安心したかのように彼の胸に顔を埋める。
「温かい〜」
「燃える男だぜ?」
 しっかりと華奢な彼女の身体を抱きすくめ、アリオスは息をつかせなくする。
「あっ・…、アリオス息が出来ない…」
「おまえが可愛いから悪いんだよ」
「やん・・・!」
 さらに強く抱きすくめられて、アンジェリークは甘い声を上げてしまう。
 一度火がついた彼の熱は、もう嫌が追うまでに高まってしまっている。
「今夜は帰さねえよ」
 彼女の髪をくしゃくしゃとして、その愛しさを彼は伝えてくる。
「もう、やめてよ〜」
 文句をいいながらも、アンジェリークはくすくすと笑っている。
「攻撃!」
「やだ、アリオス!!」
 身体を弄られるようにくすぐられて、アンジェリークは身を捩りながらくすぐったそうにして笑う。
「もう、アリオスに仕返し〜」
「こら! ヤメロ」
 今度はアンジェリークに攻撃を受けて、アリオスもくすぐったそうに彼女の身体をくすぐる。
 二人だけの甘いじゃれあい。
 暫くそれをツズけた後、二人廃棄が上がり抱き合いながら、少し休憩をした。
「あ〜、楽しい〜」
 笑いあった後、二人はお互いの体を預けあう。
「…もう少し休憩したら、今度は相応しい場所でな? おまえが欲しくてたまらねえからな・・・。
 もう、限界だ」
「うん」
 彼女の甘い同意にアリオスは笑う。
 そのままアンジェリークはアリオスの方に首を回し、彼に寝室まで連れて行ってもらった----

 今夜はおあいこかな…?

コメント

51000番を踏まれたクロの母様のリクエストで、
「カッコいいアリオスが、アンジェちゃんに押し倒されて、キスもなしで盛り上がる」
です。
いかがでしょうか…。
クロの母様! リクエスト通りに行かなくてごめんなさい…。
頑張ったんですが、スミマセン…。
ちょっと甘いお話になりました。
書いてて、二人のばカップルぶりに当てられちゃいました。