BECAUSE WE ARE IN LOVE



ねえ、アリオス、どこへ行くの?」
「黙ってついてこいよ」
 グレーの少し着崩された燕尾服に身を包んだアリオスに、アンジェリークは手を引かれ、夜道を歩いていた。
 彼女が身を包む純白のウェディングドレスが月光を弾き、まるで光の束のようにその身を輝かせている。

 栗色の髪は、結い上げられ、彼女に似つかわしい、白い小さなバラとカスミソウで飾られていて、歩くたびにゆらゆらとゆれている。
 まるで天使のようだと、アリオスは想った。
 自分に"記憶"を呼び覚まし、明るい場所へと導いてくれた少女。
 激しすぎる愛しさを隠し、一度は手放した”羽根”を、自分に正直になることで、今、ようやく手にすることが出来たのだ。
「----アリオス、私、今日・・・、凄く嬉しかったんだよ・・・」
 恥ずかしさの余り俯き加減のアンジェリークが、誰よりも綺麗だと想う。
 楽器のように彼の名前を奏でる唇。彼はそれが愛しくて、返事の代わりに触れるだけの優しいキスをした。
「・・・バカ・・・」
 益々頬を赤らめ、上目遣いにはにかむようにアリオスを見る。その仕草ひとつを取ってみても、可愛くて堪らないと、彼は想う。
「----誰が、"バカ"だって?」
 アリオスは、わざとアンジェリークの鼻を、一瞬、摘んだ。彼女に"お仕置き"をするために・・・。
「もう! だって、アリオスの口の悪さがうつっちゃったもん」
「バーカ、んなもん真似するなよ?」
「またバカって言う!!!」
「バカだから、バカって言っただけだぜ?」
「もう・・・、知らない!!」
 すっかり拗ねてしまい、アリオスにそっぽを向いてしまったアンジェリークに、思わず喉を鳴らしてクッと笑った。彼女が本気になって怒ってないことぐらい、強く握られた手の温かさで判ってしまう。
 天使のように彼に向けられる笑顔も大好きだが、このように少しからかうだけで拗ねてしまう彼女が、アリオスは可愛くて仕方がなかった。その表情には、決して"女王"としての神々しさはまるでなく、彼だけの"天使"になる瞬間だからだ。
 だから、ついついからかってしまうし、苛めたくもなる。もちろん、後のとんでもなく甘いフォローも忘れてはいない。
 その後に待っている嬉しさがわかっているせいか、彼女もついつい彼に応えて拗ねるのだ。
「----機嫌直してもらうためにも、急がなきゃな?」
「きゃっ!」
 突然抱き上げられて、アンジェリークは思わず甘い悲鳴を上げた。
「おまえの歩くペースに合わせてたら夜が明けちまうからな」
「もう・・・」
 彼の首に腕を回すと、彼女は頬を染めながら、ついと彼の頬に口づけた。
「・・・大好きだからね・・・」
 甘く可愛らしく囁かれて、アリオスの整った顔立ちに甘い微笑が浮かび上がった。
 命の総てをかけて抱きしめている天使は、いつも彼が一番頬しい言葉をくれ、幸せにしてくれる。
「あ・・・」
 急に、彼に瞳を覆われて、彼女の唇から不思議しそうな声が漏れた。
「俺が、いいというまで、目を開けるなよ?」
「どうして?」
「どうしても」
 羽根のようなキスが降りてきて、アンジェリークは余りもの甘さに頷くことしか出来なかった。


「目、あけていいぜ?」
 アリオスの声に導かれて、ようやく、アンジェリークの大きな瞳は開かれる。
「あ〜! ”星見の塔”!!!」
 目の前に現れた大きな塔に、、アリオスの腕の中で、、アンジェリークは感嘆の声をきゃっきゃッと上げ、足をぶらぶらと揺らした。
「バーカ! 暴れんなよ」
 アリオスの笑い声の混じった声が夜空に響いたと同時に、彼は彼女をそっと腕から下ろした。
「行くぜ?」
「・・・うん」
 再び手を引かれて、アンジェリークは、アリオスと共に塔の中へと入っていった。
 塔の上に行くエレヴェーターの気圧の変化に、アンジェリークは閉口したが、それでもその後に待っている"素敵なこと”への期待感が、不快感を飛ばしてくれた。


 エレヴェーターから降り、アリオスは優しくアンジェリークを展望台へと導いてくれる。
「ね、今日は誰もいないのね? ここはロマンティックなデートスポットでしょ?」
 きょろきょろと辺りを見渡しながら、不思そうでいて、少し嬉しさを含んだ声が、彼の心に降って降りた。
「バーカ、今日は、貸切だ」
「貸切・・・! あっ!!!」
「なんだよ?」
 大きな声を上げた彼女に、彼は、一瞬、たじろいでしまう。
「アリオス! "王立派遣軍総司令官”の地位を利用したでしょ!」
「いいじゃねーか。たまなんだからよ? 女王陛下」
 魅惑的な微笑で囁かれてしまうと、アンジェリークなんぞはひとたまりもない。
「----まあ・・・、今日は・・・、私たちの大事な日だし・・・」
「だろ?」
 しっとりとした軽い口づけが、彼女に降り注がれる。
 今日何度目かもうわからない口づけは、回を増すごとに、彼女に新たな感覚を呼び覚ませる。
 握られた小さな手の力強さが、彼女の思いの総てを伝えていた。

 二人は、懐かしそうに、展望台の中を見て回ることにした。
 不思議な占いをする光を回りながら、やはり、彼女の心を捉えたのは、無料でお守りを授けてくれるコーナーだった。
「あ! お守りコーナーよ! ここのお守りはよく効くのよ」
 アンジェリークの瞳は、懐かしそうに細められ、優しい光を投げかける。
「ああ」
「アリオスは私が何のお守りを授けてもらったか知っているものね」
「願いは、かなったんだろ?」
アリオスはそっと屈むと彼女の耳朶を噛み、溶けるような囁きを送った。
「・・・ん・・、。知ってるくせに・・・」
「クッ、だから俺たちはここにいるんだったな」
 恋人時代、 二人でこの場所に来て、お守りを授けてもらったことがあった。
 アンジェリークは、『恋愛成就』を授けてもらい、アリオスは隠していて、何も教えてくれなかった。
 いったい何かを、アンジェリークは知りたくて、強請るような、探るような視線を彼に向けた。
「ね・・・、アリオスは、あの時何を授けてもらったの?」
「鈍感! それぐらい分かれよ?」
 照れを隠すかのように、少しキツ口調で言うが、言葉の端々には、アンジェリークへの愛情が溢れている。
「・・・これだ・・」
「あっ!」
 彼のタキシードの胸ポケットから恥ずかしそうに出された物は、紛れもなく、彼女と同じ物だった。
「・・・んなもん、いちいち見せるのは、嫌なんだよ。今日は特別だ」
「・・・アリオス・・・、大好き・・・」
 目の前に出されたお守りの影が、涙で曇ってゆれてしまい、上手く見ることが出来ない。
 嬉しいのに、泣けてくるのはなぜだろう・・・。泣き笑いの表情で彼女は必死に涙を拭う。
「・・・あっ」
 涙をぬぐう手を、アリオスに掴まれ、狼狽したのもつかの間、今度は、温かな唇が瞳に触れた。
「こんなことでいちいち感激してたら、涙が枯れてしまうぜ? もっといいことがまってんだからな?」
彼女の涙を唇で拭いながら、愛しそうに栗色の髪をそっと撫でてくれる。
「・・・ん・・・」
 アンジェリークは、余りにも幸せすぎて、頷くことが精一杯だった。
「まだ見せたい場所がある」
 アリオスに手を引かれて、アンジェリークは次の目的へと向かう。
 彼女は、次が何かを気づいていた。
 高鳴る期待に、胸の鼓動が早くなるのが判る。
 二人は、展望台の中央に立ち、夜空を見上げた。
 二人の思いが作り出した、あの思い出の自然現象を見るために。
「やっぱり・・・、綺麗ねオーロラ」
「----そうだな」
 転生前に果たされなかった約束を、彼はここでかなえてくれた。
 あのときの約束通り、優しく彼女を見ててくれた。
 傍らにいる、永遠の人になった彼を見つめる。
 今日も、また、慈しみの溢れる深い眼差しを注いでくれている。
 泣いてはダメだと判っているのに、嬉しくて、愛しくて、涙が出てしまう。
「おい、せっかくオリヴィエに綺麗にしてもらったのに、化粧が落ちるぞ?」
「・・・ん・・・」
「だけど、今のおまえのほうが、オーロラより綺麗だぜ?」
「えっ」
 突然背後から抱きすくめられて、アンジェリークの全身に甘い疼きが駆け抜けた。
「俺・・・、おまえと一緒になったら、最初にここのオーロラを見せてやろうと思ってた。二人にとっては、思い出の場所だから・・・」
 耳朶を軽く噛みながら、アリオスは低くよく通る声で真摯に囁く。
「・・・ん・・・、私も・・・、見たかった・・・」
 アンジェリークは、前に回されているアリオスの手を握り返し、彼に体を甘えるようにもたれさせた。
 誓いの口づけが、彼女に降りてくる。
「・・・ん」
 先ほどのような軽いものではなく、今度は、お互いの命を与え合うような深いものだった。
 何度目かの口づけの後で、ようやく互いの唇が離れた。
「行くか?」
「え? もう?」
「----今夜は一番大切な夜だぜ? 寝かせないからな?」
「・・・ばか・・・」
 はにかんだ笑みを、アンジェリークはそっと彼に送る。
 アリオスに抱き上げられて宮殿まで運ばれても、彼女は、はにかんだ微笑を浮かべたままだった。       


コメント
「トロア」「天空アリオス」とのLLEDの後のお話です。結局、あれがコレットちゃんにとっての真のEDのような気がします。
「SWEET」の要素が高い話で、どちらの部屋に入れようかと迷いましたが、結局「SIDE」に淹れることにしました。
本編で、アリオスの職業を「新宇宙の王立派遣軍の総司令官」としたのは、tinkの妄想です。
だって、女王の旦那が「プ〜」はまずいから(笑)
あの、LLEDアリオスらしくてよかったですね・・。
ようやく幸せになれました!