A Prayer For Dying

〜死にゆく者への祈り〜

Pre Story

 闇に生きるものは愛など必要ないと、ずっと思っていた-------

 刹那な快楽を結ぶ関係だけで、今は十分に思える。
 アリオスは暗い場末のバーで、ウォッカを煽りながら、暗い目をしていた。
「おい、便利屋、上手い話があるんだが、ノルか?」
 話しかけてきたやくざ風の男に、アリオスは僅かに眉を上げる。
「ヤバい話か?」
「まあな」
 男は狡猾な瞳を向けると、何やら不敵に笑っていた。
「”合言葉”は?」
”合言葉”!?」
 男はそんなものは知らないとばかりに、少し声を荒げた。
「ねぇ、アリオス? このまま遊びに行かない?」
 不意に顔馴染みの女が、紅いルージュが光る唇で誘ってくる。
「黙ってろ!」
 男は女をにらみつけるが、アリオスは冷静だ。
「ああ。少し待ってろ」
 女に感情のない瞳で話すと、アリオスは、少しキレそうになっている男を捕らえる。
「”合言葉”がねえと、受けるわけにはいかねえな」
「何だと!?」
 アリオスはあくまで冷たく言い放つと、席を立ち、女の腰を抱いて外に出ようとする。
 男の表情はいきり立っているが、アリオスはあくまでクールだ。
「悪ィがな、本当にヤバいヤマしか受けねえんだよ。俺はな」
 アリオスはひらひらと手を振りながら、出ていく。
「くそっ・・・!!!」
 男はナイフを片手にアリオスに勢いよく迫っていくが、彼は微動だにしなかった。
「邪魔すんじゃねえぜ、コラァ!」
 長い脚をアリオスは男に向けて蹴り上げると、顔の直前で寸止めする。
「ここで騒ぎを起こしちゃ、出入り禁止になっちまうからな」
 アリオスは一瞬唇を上げると、脚を下げるふりをして、男の急所を軽く蹴った。
「うぐっ!!」
 鋭い痛みが下腹部を通過し、男は何とも言い表しようのない表情を向けた。
「SWEET DREAMS」
 彼は蹲る男を尻目に、女と一緒にバーから出ていってしまった。

 女と寝るのも、また、一興だ・・・。
 おもしろおかしく時間が過ごせる。
 今の俺にはそれで十分。
 永遠の契りなんて欲しくもない…。
 刹那のものが、俺にはあってる。

 アリオスは唇を僅かに歪めると、夜の街へと消えた。
 刹那の快楽。
 それを楽しむのは悪くない。
 彼はそんな自分自身に吐き気を催しつつ、止めることなんて出来やしない。
 生気のない目で、彼は先を見つめたが、その奥は鋭く光っていた。

 淫らだと汚れているとは判っている。
 だが、それも自分には相応しいと思う。
 アリオスは女と”運動”という名の情事を楽しんだ後、手早く服を着て、帰り仕度をした。
「相変わらず、冷たいのね」
「おまえも、それは判ってるんじゃねえのか?」
 皮肉げに笑うと、彼はウ゛ィンテージもののジーンズで出来たライダースジャケットを羽織る。
「まあね。アリオス、あなたは最高だからね? まあ、遊びとは言え、あなたみたいな人とセックス出来るのは悪くないわ」
 女も完全に割り切っているという感じで、真紅の唇に薄笑いを浮かべた。
 彼女は、長いブロンドの髪を艶やかにかき上げると、煙草の煙をくゆらせる。
「じゃあな」
「また、気がむいたらね」
 女はもう少しここにいるとばかりに、アリオスにベッドから軽く手を上げた。
 ふたりはあと腐れなく、いつものようにさばさばと別れた。

 アリオスは再びバーに戻ると、その裏側の駐車場にあるバイクに乗り込む。
 たとえ、女と何をしようとも、そのうしろのシートには誰も乗せたことがなかった。
 ここは、彼にとって、まさに”聖域”だった--------
 バイクの背後に、アリオスは血なまぐさい匂いを感じた。

 誰だ・・・。

 バイクを店の裏に置いた後、表側に回ると、そこには先程の男とその仲間がいた。
 男はかなり激怒しているらしく、その瞳は血走っている。
「よくも、バカにしてくれたな? 色男さんよ」
 男は挑発をしてくるが、彼は全くそんなものには乗らなかった。
 男の仲間たちも、かなりの殺意を伺わせている。
 その上、あからさまに銃やらナイフやらを持っている。
 これにはアリオスはやれやれとばかりに溜め息を吐いた。
「ママの胸でねんねしなって、言ったはずだろ?」
「何!!」
 男達が余りにもお約束な反応をするものだから、アリオスはうんざりとした。
「ママのところに帰って、おっぱいでも飲んでな」
 彼はそれだけを言うと、駐車場に戻ろうとした。
 その瞬間。
 男達が大挙して、アリオスを襲ってくる。
「チッ、しょうがねえ・・・」
 彼は軽く舌打ちをすると、すぐさま応戦する。
「ちゃんと決着をつけねえと、ここの親父が五月蝿いからな!」
 アリオスは言いながら、男たちの銃を、素早い脚の動きだけで落としていく。
「うああっ!!」
 もちろん、彼の脚はかなりリーチも長く、その上力強いせいか、銃を落とすぐらいでは造作なかった。
 仲間をあっさりと足蹴にされた男は、さらに怒りをアリオスに向けて、ナイフを片手に突進してくる。
「うわあああっ!」
 だが、アリオスはあくまでも冷静だ。
 男の動きを巧みに避けて、しかも、彼の仲間が反撃してくるのを交わす。
「ったく、手間のかかるやつだ。こいつでもくらいな」
 アリオスは低く呟くと、素早く銃を抜いて構えると、男に向ってトリガーを引いた------
「おしまい」
 本当に目では追えないほどだ。
 男が気がついたときには、既にナイフは弾丸によって折られていた。
 それを見た瞬間、誰もが恐れをなす。
 特に、アリオスに中心となって襲ってきた男は、失禁していた。
「うわああああ・・・」
 彼は腰を抜かして、這いながら何とか逃げ出す。
「…人間じゃねえ…」
「ああ。確かに俺は人間じゃねえさ」
 アリオスはそう言い放つと、裏に置いてあるバイクに向って歩いていく。
「すまなかったなオヤジ。後は適当に始末してくれ」
 アリオスは、騒ぎに出てきたバーの店主カティスに手を上げて挨拶をすると、バイクに跨る。
「ったく、またか…」
 もう慣れっこだというばかりに、カティスは溜息を吐くだけだった。
 そんなカティスの心情を尻目に、アリオスはバイクに跨り走り去ってしまう。
「揉め事解決もいいが、おまえが一番のトラブルメーカーだ-----なぁ、アリオス」
 カティスも呆れて物が言えないとばかりに、また、溜息を吐くのだった。


 オンボロだが、住みよい我が家に帰ってきたアリオスは、裏にバイクを置き、家の中に入った。
 一階は名ばかりの便利屋の店舗、みしみしと軋む階段を上った二階は、彼の城だ。
 大きなベッドやテーブルといった生活出需品しかない、全く殺風景な部屋だ。
 彼は、セピア色の照明をつけると、テーブルの上にあるオルゴールを開けた。
 それは遠い昔の、琥珀に染まった夢のように思い出を思い出させてくれる。
 彼の胸のアミュレットが音に反応するかのように、ゆれていた。
 彼はその音を聞きながら、窓辺に立ち、煙草を銜えてマッチで火をつける。
 窓の外に広がる闇を見つめながら、虚しい心を包み込む音色に耳を傾けた------

 今夜も、また、アリオスの一日が終わる。
 運命を変える音色が、直ぐ近くに待っている。
 

コメント

アリダンテにシリーズを書く前の、パイロット版です。
なぜかよく喋るような(笑)
本編シリーズは、また始めたいと思っています。
これは、コレットと会う前の、アリオスの日常。
なんと。
コレッチョが出ない創作だ(笑)




モドル