教えたという事実を否定することは出来ない。 アリオスは、金曜日に、プリンセスホテルロビーで行われる独奏に、がやってくると踏んでいた。 また、あの幸せそうな顔で、にぱーと笑うんだろうな・・・。 いつまでたっても子供だ・・・。 深い微笑みを浮かべると、アリオスは再びアレンジに集中する。 まさか、あの鬼才と言われているアリオスが、こんなに穏やかな表情をするとは、誰も想像出来ないだろう。 のことを思い浮かべるだけで、アリオスはとても穏やかな気分になる。 それだけで、アレンジという小難しい作業が捗る。 いつもあの笑顔がそばにある。 それが活力になって素晴らしい仕事が出来るのだと、アリオスが気がつくのはもう少し後のことである。 ------------------------ 「この週末、デートなの!?」 「まあ・・・、レイチェル、そんなもんかな・・・」 余りにもの親友の勢いに、は度肝を抜かれつつ、言葉尻をなんとかごまかす。 正確に言えば、「アリオスを見に行く」だけで、デートではない。 にとってはどちらも同じようなものなのだが。 「平服はダメなんだって! どうしたらいい?」 「そうねえ・・・」 じっとを見つめると、レイチェルは思い付いたとばかりに、ニコリと笑った。 「あのゴスロリ調のワンピースはどう? あれだったら、可愛いし、お人形さんみたいでいいわよ。靴とか少しアレンジをすれば、いかにもって感じじゃないしね〜。やってみる価値はあると思うけど・・・」 「うん!」 しっかりと頷くと、は真剣な眼差しで、レイチェルを見ている。 「薄く化粧をするのもいいかもね。大丈夫! 当日は、このレイチェルが何とかするからね!」 力強い親友の言葉に、は励まされ、かなり気分がよくなった。 「うん! 後ね、もうひとつお願いが・・・」 親友が上目遣いでじって見つめる。 愛らしい表情に、レイチェルはついつい笑って、甘やかせてしまいそうになてしまう。 「ついてきて欲しいの」 「ついて? デートでしょ? どうして?」 不思議そうに目を丸くし、レイチェルは小首を傾げた。 「エルンストさんと一緒に、出来たら付いてきて」 「どうして・・・?」 はにかんだ表情のが意図している理由が判らない。 レイチェルの頭の上には、クエスチョンマークが飛び交う。 「デートっていうより、アリオスがピアノを弾くのを、プリンセスホテルのロビーに見に行くだけなの・・・」 最後は尻つぼみに声が小さくなり、小さな体をより小さくするを、レイチェルは呆れたとばかりに溜め息を吐く。 「しょうかないわね・・・。いいわ! エルに言っておいてあげる。一緒に行こう」 オトコマエなレイチェルに、は抱き付いた。 嬉しくて堪らないという感じで、笑顔が溢れ返っている。 「ありがと、レイチェル!」 「ワタシはさ、アナタの恋を応援したいしね! だって7年もずっと同じ男性が好きなアナタの一途な気持ちが、ワタシは凄いと思うんだ!」 「うん!」 親友のしっかりとした言葉に、は勇気をもらう気分になった。 頑張らないとね!! アリオスへの恋の成就のために、は真っ向から挑もうとしていた。 ---------------------------- 当日は朝から少し緊張していた。 授業の後、の家でレイチェルが準備をしてくれ、エルンストが6時30分に迎えにきてくれるのだ。 翌日休みなこともあり、レイチェルたちはそのままプリンセスホテルでお泊まりらしい。 羨ましいな・・・。 そんなことをぼんやりと思いながら、は放課後が来るのを誰よりも待ち遠しく思っていた。 放課後、の家に行き、朝、預けておいた荷物をレイチェルは紐解く。 レイチェルに言われた通りに、顔を洗って、基礎化粧を整えると、親友はじっと見つめてきた。 「アナタは少し手を加えたら、すごーく綺麗になるんだからね?」 「有り難う」 親友に面と向かって言われるのは、凄く嬉しいが、妙に照れくさい。 レイチェルは早速、の化粧を始めた。 「やっぱりアナタは綺麗だよ、うん」 すべすべとした陶器のような肌は、レイチェルも化粧しがいがあると思う。 薄目の化粧とはいえ、眉はマスカラ、目はシャドーとライナー、口紅などで彩りを添えていった。 「顔はこれでよし。ワンピース着て」 「うん」 用意していたゴスロリ風のワンピースを身に付け、ストッキングを履いた。 「髪は、ウィッグがいいわよねー! 少し長い感じに・・・」 に長め背中ぐらいのウィッグを付けてみる。 それが余りにもはまり、レイチェルは声にならない感嘆の声を上げる。 「人形みたい・・・! 凄い可愛い! きっとアリオスも喜ぶよ!」 レイチェルの余りにもの感嘆ぶりに、も鏡を見せてもらう。 そこには自分とは思えない姿が、映っていた。 「これでアリオスはいちころ!」 「もう、レイチェルったら・・・」 苦笑しながらも、そうなったら幸せだと、そんなことを考えていた。 約束の時間にエルンストが現れたので、とレイチェルはプリンセスホテルに予定通りに向かった。 「アリオスさんがピアノをホテルのロビーで弾くなんて珍しいよね」 「お友達が盲腸になったらしいの」 「なるほど」 納得とばかりにレイチェルは頷いた。 ほぼ定刻通りに車はホテルに着き、とレイチェルは一足先にロビーに向かう。 期待が心の中でいっぱいだった。 まさかあのアリオスがロビーの演奏をするとは、ホテルの誰もが驚いたようだった。 あくまでアリオスはクールで、時間になると譜面を持ってロビーに向かう。 「ねぇ、今、ロビーにいた女の子見た? 人形みたいですごく綺麗だったよね〜」 横を通る女達の噂話を耳にしながら、それがまさかだとは、アリオスは思わなかった。 ロビーに着くと、済みのピアノに向かった。 ピアノはもちろんスタンウェイ。 最高級品。 は、アリオスがピアノに座る様子も、見逃さずにじっと見ていた。 黒いタキシードのアリオスに魅了されながら、彼の演奏を熱っぽく聴き入る体制を作る。 アリオスはふと顔を上げた。 そこには、ウィッグを付け、艶やかさを増した、本当に人形のように美しいが手を振っているのが、見える。 あいつ・・・。 心の奥が甘い痛みにかき乱されるのを、彼は始めて感じた。 指先が静かに鍵盤に落ちる------- 繊細な音。 曲は、9月に相応しい月光------- アリオス流のアレンジがされてあり、誰もが彼の奏でる調べに耳を傾ける。 通常、誰も気にとめないロビーのピアノが、一気に格を増し、ロビーがコンサートホールになった。 やっぱりアリオスは凄いな・・・ ねえ知ってる? 私はこの人にピアノを習っているのよ? 誰もが聞き入るアリオスの音を、少しだけは自慢げに感じ、幸せそうに笑っている。 その笑顔がこちらに向けられてるのを感じ、アリオスは更に胸が苦しくなって、妙な気分になった。 ッたく・・・、妙な気分だ・・・。 つい昨日まで、あいつは小学生だったはずなのに、いつしか中学生から高校生になり・・・、ガキから一気に飛び越えて、”女”になりやがった…。 時折、ヘの男の視線が気になり、アリオスは更に胸の奥がもやもやとするのを感じる。 くそ!! 彼女を何度もしつこく言い寄る男を、アリオスは殴りたくなってしまう。 睨みつけるような視線を送ると、いいタイミングで、レイチェルの恋人エルンストが上手く交わしてくれた。 心の中がこんなに色々と変化するのは、アリオスがピアノを弾き始めて、初めてのことであった。 ようやく9時になった。 アリオスのお役御免の時間。 そのときを待っていたかのように、彼はむごんですたすたとの元に早足で歩いてくる。 はアリオスが迎えに来てくれたと思い込んで、にこりと微笑みかけた。 その瞬間。 躰が宙にふわりと舞う。 アリオスはを肩に担いで、再び同じスピードで歩いていく。 これに呆気に取られたのは、レイチェルとエルンスト。 一方のもまだ何が起こったのか、十分に把握できてはいない。 「悪ぃな、こいつは俺のものなんでな。もらって帰る」 それだけ言うと、アリオスはを連れてすたすたといってしまった。 「あっ、アリオスっ!」 余りにものストレートな言葉には真っ赤になる。 !! グッドラック!!! 後は頑張りなよ!! 駐車場まで連れて行かれて、ようやく下ろされた。 「アリオス…、あの、今のは…」 希望的観測で、はアリオスを上目遣いで眺める。 次の瞬間。 甘いキスが唇を深く奪ってきた---------- 「んんっ!!!」 余りにも深く、愛撫の激しいものだったから、はアリオスに躰を支えてもらえないと立っていられなかった。 ようやく唇を離されて、潤んだ瞳で見つめあう。 「------おまえの想い、受けて立つぜ?」 憎らしい微笑とともに、アリオスは抱き締めてくる。 もう、にはそれ以上のものは何も必要なんてなかった------ |
コメント アリ×アンドリーム小説です。 わ〜ん!!! アリコレ最高!! ドリーム万歳(笑) |