貴方がいない季節(なつ)
――そう、あれは、3年前の春。
桜の舞い散る頃のことだった――
「アンジェ。俺はL.Aへ行って、クラブ経営について学ぼうと思う」
アリオスはそう話を切り出した。
「えっ? 留学しちゃうの・・・・・?」
アンジェは目を丸くして、アリオスに尋ねた。
「ああ、3年はこっちには戻ってこれない」
「そう・・なんだ。頑張って! アリオスならきっと向こうでも通用するクラブ・オーナーになれるよ!」
アンジェはアリオスに作り笑顔を見せた。
しかし、瞳には涙がうっすらと浮かんでいた。
「アンジェ・・・・3年なんて、あっという間だ」
アリオスはアンジェを強く抱き締めた。
アンジェリーク・コレットという存在を確かめ、ココに刻むかのように。
「3年経ったら、俺が帰国したら、お前を迎えに行く。これは、その約束だ」
アリオスハ、アンジェの左手薬指にスッと指輪をはめた。
指輪はシルバーリングにガーネット・ロードライトガーネット・シトリン・ペリドット・アイオライト・
アメジスト・ブルートパーズの7色のハート型にカットされた宝石がはめ込まれている。
「アリオス、もしかして、これ・・・・・?!」
アンジェはそれを見て、驚いた。
「アンジェ。俺が帰国したら、結婚してくれるか? 俺を3年間、待っていてくれるか・・・・?」
アリオスはアンジェにプロポーズした。
「うん、待ってる。アリオスが帰ってくるまで、ずっと・・・・・」
アンジェはアリオスに微笑んだ。
『Pi Pi Pi・・・』と目覚し時計のアラーム音が寝室に響いた。
「・・・・・・う〜ん・・・・・・」
アンジェはベットから手を伸ばし、『カチッ』とアラームボタンを押した。
「夢、か・・・・・」
アンジェはハァと溜め息をつき、むくりと起きた。
アンジェは今、アリオスが住んでいた高級マンションに住んでいる。
3年前、アリオスは留学する際、この部屋は売却せずに、アンジェにその部屋の鍵を渡した。
その当時、アンジェは高校2年生だったので、アリオスの部屋には住まず、週に1回の割合で部屋の掃除をした。
掃除といっても普段から綺麗に片付けられた部屋なので、ほんの30分程度で終わってしまう。
あとは、ただボーっと、アリオスの部屋で過ごすのだった。
アンジェにとって、それはとてつもなく時を長く感じるのだった。
アンジェは高校を卒業し、インテリア・コーディネーターを目指し、現在は大学で勉強中だ。
「えーっと、今日は・・いつものにしよっと!」
アンジェは、いつものように冷蔵庫を覗きつつ、朝食のメニューを考えていた。
冷蔵庫から卵一個と牛乳パック、バターを取り出した。
『カチッ』とアンジェはキッチンのカウンターに置いてあるラジオのスイッチを入れた。
ラジオからは、朝のニュースと天気予報が流れていた。
『今日のリリィ・マグノリアの予報は、晴れで、夕方から、次第に天気は崩れるでしょう』
「今日は、夕方から雨、か・・・・。傘を持っていかなきゃ」
アンジェはそう言いながら、油を引いたフライパンの上に卵を落とした。
トースターは『チンッ!』と鳴り、トーストが飛び出た。
半熟の目玉焼きを皿に移し、アンジェはテーブルに着いた。
『では、ここでリクエストです。
フラグラント・オリーブにお住まいのR.M(ラジオ・ネーム)紫苑さんからのリクエストで、
DEEN「君がいない夏」です』
ラジオから、リクエスト曲が流れ出した。
アンジェはトーストにバターを塗りながら、その曲を聴いていた。
『つらい朝はうんざりするね
つまづいても楽しく生きてゆくよ
繰り出そう 追いかけてはるかな夢を
どんなに離れていてもわかる』
歌っているのは男性ヴォーカリストだ。
メロディはどこか寂しそうな気がした。
(あれっ? この曲、何処かで聞いた覚えがある・・・?)
『忘れかけてた 甘い夏の日を
あれからどれくらい時間(とき)が経つの?
大好きだったあの笑顔だけは しばらく近くで重ねあう日々を
ahh もう戻れない時を小さく祈っている』
アンジェはトーストを皿の上に置き、ラジオから流れている曲に耳を傾けた。
『今は遠い優しい君を
打ち寄せてる穏やかな波がさらう
何もかも 思い出を失くしたせいさ
あの日のように輝く夢も』
(あれっ? あたし、何で泣いているんだろう?)
アンジェは知らず知らずのうちに瞳から涙が零れていた。
(何でかな・・・・? アリオスの事を思い出しちゃう)
アンジェの心の中は、アリオスのいない寂しさで一杯となっていた。
『忘れかけてた甘い夏の日も
いつかは二人の胸によみがえる
少し大人になれる気がしてた それぞれ違う人生(みち)を選ぶことで
ahh もう戻らない時を小さく祈っている』
歌詞はまるで、アンジェの心を歌っているかのようだった。
「アリオス、会い、たいよう・・・・・・・ひっく、ひっく・・・・あの頃に、戻りたいよう・・・・」
アンジェは、堪えられなくなり泣き出してしまった。
「何、泣いてんだよ? 寂しかったのか、アンジェ?」
不意に背後から名を呼ばれ、アンジェは声がした方へと振り返った。
「アリ、オスなの・・・・・?」
そこには3年前とはあまり変らない姿のアリオスが立っていた。
「アリオス・・・・・アリオス、アリオス、アリオス、アリオス・・・・・・」
アンジェは椅子から立ち上がり、アリオスの胸へと飛び込んでいった。
「俺がいなくて泣いていたのかよ?」
アリオスは意地悪な笑みを浮かべた。
「ち、違うわよ! アリオスに逢えた嬉し涙よ!!」
アンジェはアリオスにそう反論した。
「待たせたな、アンジェ。結婚しよう」
アリオスはアンジェの耳元でそう囁いた。
「・・・・・・うん」
アンジェは恥ずかしそうに頬を赤らめて、そう答えた。
「有り難う、アンジェリーク」
アリオスはアンジェの唇に深いキスをした。
それは3年間の空白を埋めるかのように。
ラジオからは、まだ曲が流れていた。
『鮮やかすぎる 君がいない夏
あの声 あの仕草が 広がってく
言葉になんかできなくてもいい こぼれた日差しに心がにじんだ
ahh もう戻れない時を小さく祈っている
ahh もう戻れない時を小さく祈っている』
<おしまい>
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<後書き>と云う名の豆知識
サリアです。こちらは「桜舞祭だけのジンクス」に比べれば短編となりました。
このお話は、DEEN「君がいない夏」を聴いている時に思いつきました。
この曲は「THE BEST OF DETECTIVE CONAN」に収録されています。
1998年に「名探偵コナン」のED曲で使用されました。
歌詞がとってもイイので、イメージが湧き、サラサラと難なく書けました。
このお話の中でも、花の名前を使用したので、豆知識として解説しておきます。
アンジェが住んでいる都市、リリィ・マグノリアはモクレン(木蓮)の英名です。
英語で「Lily magnolia」と書きます。
春に咲きます。濃い赤紫色のとても大きな花を咲かします。木の枝に花をつけます。
次に、局をリクエスとした人が住む街、フラグラント・オリーブはキンモクセイ(金木犀)の英名です。
英語で「Fragrant olive」と書きます。
秋の中頃に咲きます。薄いオレンジ色の小さな花を咲かします。木の枝に花をつけます。
とても良い香りがします。
サリアの大好きな花の一つです。
それから、アリオスの職業ですが、3年前はダンスクラブ「The Angel Night」サブ・オーナーで、
帰国後は正式にオーナーに就任しました。
アンジェの年齢ですが、3年前は17歳で、アリオスが帰国した時には20歳となりました。
お間違えのないように。(また、長くなってしまった;)
ではまた。
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FROM TINK WITH LOVE
サリア様とても素敵なストーリーを有難うございました!
二人の馴初めや、その後がむちゃくちゃ気になります!!
こんなに素敵なものを頂いて、とっても感激です。
有難うございました!
本当に嬉しいです〜!!