AN ANGEL IN THE SOUL


 アンジェリークが目覚めたという朗報に、旅の仲間の誰もが、自らの疲れを押して見舞っていた。
 アリオスももちろん最初に少女を見舞いたかった。
 だが、次から次へと来る見舞客と一緒になるのは嫌だったし、何よりも静かに話したかった。
 本当は、罪悪感があったからかもしれない。
 今回、アンジェリークを残して他の惑星に行くことのひきがねを引いたのは、”レウ゛ィアス”としての自分だったのだから。
 いや、少女を気を失うまで追い詰めたのは、自分なのに。
 そんなことを考えながら、アリオスは窓辺に佇み、雪景色を見ていた。
「アリオス〜、ねえ、アリオス〜!!」
 周りでぱたぱたと跳ねるメルに、彼はようやく焦点を合わせた。
「何だ? メル」
「もう! さっきから呼んでるのに!」
 メルは少し頬を膨らませて、わざと怒った。
「ああ。悪ィ」
「もう〜、どうせアンジェリークのこと考えてたんでしょう!!」
「な・・・!」
 余りにも図星で、アリオスはそれ以上言えずに、うろたえてすらいる。
「やっぱり〜! だってね〜、最近、ふたりの間は”らぶらぶ”だもんね〜」
「・・・で、用件は何なんだ?」
 アリオスな何でもないようにわざと振る舞うが、メルにはみえみえで、またこんな彼に親しみを覚えてしまう。
「アンジェリークが、アリオスに逢いたいって! もう全員のお見舞いが終わったから、心置きなく行ってきなよ!」
 屈託のないメルに、アリオスは優しい笑みを零した。
「サンキュ」
 ぽんと頭を軽く撫でると、アリオスはアンジェリークの待つ部屋へと向かう。
「アンジェリーク、アリオスだ」
「入って!」
 ノックをすれば返ってくる、少女の柔らかな声に、導かれて、部屋の中に入った。
 部屋には、ベッドの上で身体を起こした、清らかな少女がいる。
 その姿を見るだけで、胸の奥が甘い痛みが突き抜ける。
 じっと見つめる彼に、彼女は潤んだまなざしを向けた。
「アリオス・・・」
 白い手を差し延べた彼女に、彼は答えるように近付き、その手を握り締める。
「気分はどうだ?」
「うん・・・、平気」
 小さな手が彼の大きな手を握り締める。
「アリオスも大変だったみたいね、皆さんから聞いたわ」
「そんなことねえよ、心配するな」
 乱暴でぶっきらぼうだが、その奥に優しさが潜んでいることを、アンジェリークはよく知っている。
「有り難う・・・」
「バカ」
「ね、アリオス、私、”女王”失格かな? 皆さんがあんなに頑張っておられるのに、現実から逃げるように倒れちゃって・・・」
 静かに肩を落とす彼女の手をゆっくりと握り返す。
 自分にしか弱さを見せない彼女が愛しくて。
 彼女に弱さを見せることの出来ない自分が苦しくて。
「しっかりしろ、女王だろ!? おまえがそんなこと言ってたら、皇帝なんて倒せねえだろ? おまえは、元気でばかで前向きなんだろ!? そんなおまえに導かれる宇宙が可哀想だぜ!?」
 アンジェリークは、さりげない優しさを感じ、受け入れる。
「そうよね。うん。頑張る」
 強く頷いた後、アンジェリークは上目遣いでアリオスを見る。
「でも、バカは余計よ」
「バカだからしょうがねえだろう?」
「もう!」
 怒りながらも、アンジェリークの瞳は笑っている。
 そのまなざしを見ながら、アリオスは目を細めた。

 おまえはいつもまっすぐなんだな・・・。
 俺とは違って・・・。

「ね、アリオス・・・。明日からまた頑張るから、いつもの私になるから、今日は、甘えていい? ずっと逢えなかったような気がして・・・、寂しかったから」
 アクアマリンの瞳で、ねだるように見つられて、アリオスは苦しくなる。
 自分も逢えなくて苦しかったと、喉まで出かかるが、なんとか押しとどめて。
「しょうがねえな」
 わざと意地悪げに笑って、アリオスはアンジェリークを抱き締めた。
「これでいいか? お姫様」
「うん。アリオス」
 精悍な彼の胸に顔を埋めて、アンジェリークは安心仕切ったように、ふうっと息を吐いた。
「やっぱりアリオスの胸は安心する・・・」
「バカ」
 その言葉も、今は落ち着く要素にしかならなくて。
「アリオス?」
「何だ?」
 強く抱き締め、彼は栗色の髪を撫でてやる。
「私、意識を失っている間、夢を見たの・・・。暗闇で誰もいなくて、先に光り見えなくて、だけれど、進まなくてはならなくて・・・。どうしていいか判らなかった時に、あなたの声が聞こえたの。”こっちに進め! 俺が一緒にいてやるから”って・・・。あなたの声がするほうに辿っていったら、光りが見えて、道が拓けたの。温かな光が降り注いで、その暖かさに包まれて目を覚ましたの・・・。あなたに助けてもらったのよ・・・」
 アンジェリークは、アリオスの背中に、強く腕を回し、離れないようにする。
「有り難う・・・」
「バカ」
 さらに抱きすくめて、アリオスはアンジェリークを、離さない。
「俺も夢を見た…。
 館に一晩泊まったとき…、おまえの夢を見た…。
 おまえが泣いているみたいで、手を伸ばした…。
 ”こっちに進め”と-----
 不思議な・…夢だった…」
「じゃあ、同じ夢を!?」
 彼女は驚きと嬉しさが入り混じったような表情をする。
 ちょうど"泣き笑い”のような表情だ。
「-----そうかも知れねえな…。
 たとえ…、おまえが眠ったままだって、おまえの傍にいてえし、おまえの顔を見ていてえから…」

 そう…。
 生きていて欲しいと、おまえだけは…。
 俺はそう望んでいる・…。

「…アリオス!!」
 アンジェリークは、嬉しくて、視界が涙でくもって良く見えない。
 嬉しいのに。
 とても嬉しいのに、涙が出るのはなぜだろうか…。
「こら、泣くんじゃねえよ…」
「だって・…」
 涙で濡れる顔をアンジェリークはアリオスに押し付ける。
 涙とおまけにちょいとしたものも付けられたが、彼女の愛らしさに怒る気もなれなくて…。
「愛してる・…」
 たとえ今だけの言葉かもしれない…。
 だがこのひと時を大切にしたいから。
 今が総てだから…。
 そっとアリオスは愛しいものに口付けを送る。
 ”良く戻ってきてくれた…”
 そのような想いをこめて。

 もうすぐ、俺はこいつから離れなければならない…。
 だが・…。
 俺の心は・…。
 本当の心は・…。
 信念を捨ててまで、愛に殉じる事が…、俺には出来るのか・…。

 彼の選び出す答えは…。
 彼だけが知っている。

コメント

28000番のサミー様からのリクエストで、
「禁断の鏡」の後、部屋で休みアンジェリークをアリオスが見まい、そこに、
逢いたかったという思いと、萌え、切なさをミックス…。
です。
すみません…。
リクエストどおりに行かなかった私をしばいてください。
修行の旅に出ます…。