「次のパートを、さん、読んでみなさい」 「…はい」 6時間目のリーダーの時間、は頭がふらふらとして堪らなかった。 ときおり冷や汗すら出てきてしまう始末である。 が先ほどから気分が悪そうにしていることを、当然のことながら珪は気付いていた。 それもそのはずで、いつも彼女を見つめているから。 先ほどの休み時間も、気分の悪そうな彼女に、保健室に行くように声を掛けたが、首を振られてしまった。 それもそのはず。 が気分の悪い理由は、月に一度のお約束のもののせいである。 流石に、このことは、珪に言うことは出来ない。 担任の氷室にだって当然のことながら言えないのであった。 だって年頃のおんなのこである。 羞恥心はしっかりとある。 さっき、葉月君の言うとおりに、保健室行けばよかったかな・・・ 眩暈のようなものでふらりとなるのを感じながら、は立ち上がろうとした。 「-------!!!」 次の瞬間、は躰がふわりと舞い上がるのを感じ、そのまま目の前が暗転する。 「!!」 隣の席だった珪は、音を立てて倒れこんだを慌てて支える。 「大丈夫!? さん!!」 英語担当の女教師が、慌てての席に駆け寄ってくる。 「先生、俺が保健室に連れて行く・・・」 気を軽く失ったを誰にも触らせないように、珪は抱き上げると、そのまま教室を出て行く。 だれもが、王子と姫のような光景に、暫し、目を奪われる。 「葉月もやるやん〜」 口笛を吹くのはまどかである。 「王子様もやるわね〜。でも、後でヒムロッチがきたら、どうなるんだろ…」 隣の奈津美が言った一言に、周りのものは恐ろしさの余り黙り込んでいた。 最近、生徒の間で密かに囁かれていること。 氷室VS葉月------- 誰もが知っている、「公然の秘密」だった------- --------------------------- 「まあ! 葉月君!!」 保健室を空けるなり、養護教諭は驚いた。 彼の腕の中にはがいる。 「こいつ授業中に倒れたから・・・」 「直ぐにベッドに運んで頂戴」 パイプベッドのそっと横にならせる。 そうすると、すぐには気がつき目を開けた。 「!」 「葉月君…」 ぼんやりとした視界で、は珪を捕らえている。 「葉月君がここまで連れてきてくれたんだ…。有難う…」 「ああ」 養護教員がの顔をそっと覗き込んだ。 「さん、どうしたの?」 理由を聞こうとした瞬間、の視線は葉月に向けられ、僅かに赤くなる。 これで、女である養護教員には全てが読めた。 「・・・暫くじっとしてなさい・・・。 倒れたことを氷室先生に伝えておくわね。 葉月君はもう教室に戻って構わないから」 ”氷室”の名前が出た途端に、珪は表情を強張らせる。 「-----俺・・・心配だから・・・」 冗談じゃない! あいつが来ようものなら俺は…!! 「とにかく、早く教室に戻りなさい」 しょうがないとばかりに養護教員は溜息をつくと、自分の机に戻り、氷室に内線を掛けた。 この時間、氷室の授業はなかった。 連絡を貰うなり、氷室は何も考えず、一目散に保健室に向かった。 が心配で堪らない------ それ以外何も考えることなど、出来やしなかった。 「!」 勢い良くスライド式のドアを氷室が開けたのは、連絡が行ってから僅か一分後のことだ。 「せ、先生…」 養護教員の存在など認めないかのように、氷室は一目散にベッドに向かう。 「!」 カーテンを思い切り開け、珪を見つけた瞬間、めがねのしたの表情が庭かに鋭くなる。 「------葉月・・・。君は授業中のはずだろう」 少しばかり棘のある、感情の感じられない声で、氷室は珪を牽制する。 「が倒れたから連れてきただけだ・・、先生…」 珪の声も宣戦布告に相応しい、珍しくも感情が剥き出しの声だった。 珪に睨みを利かせた後、氷室はに近づいて行く。 「大丈夫か? 。今日は私が家まで送ってやる」 珪と対峙した時とは打って変わっての、とても優しい響きが、氷室の声にはあった。 「------はい。先生、御迷惑をおかけします…」 頬を赤らめてはじっと氷室を見つめている。 悔しかった。 珪は堪らなく悔しかった。 「葉月・・・、早く授業に戻りなさい。 は私が看ておく」 氷室が教師でなかったら、けんかを仕掛けていたかもしれない。 この立場の差が悔しい。 珪は穏やかな気持ちでいられなくなり、唇を強く噛締めた。 「・・・葉月くん。ごめんね? 有難う…。もう大丈夫だから・・・。 教室に戻ってね? どこまで今日授業が進んだか、今度教えてね? 今日のアルバイ頑張ってね?」 にこう言われてしまうと、珪はそれに逆らうことなど出来ない。 「------ああ。有難う、」 今、授業であるこの身が口惜しいが、仕方がなかった。 珪はちらりと氷室を見た。 彼の表情が、どこか勝ち誇っているようで堪らない。 ゼロワン------ あんたと俺はまだ同じスタートラインに立ったばかりだ。 それを忘れるな…。 葉月は心の中で強く思うと、保健室を後にした------- |
コメント 氷室VS葉月。 仁義無き戦い第一弾です(笑) まだまだバトルは続く(笑) |