いつものデートは”社会見学”の名の元、から誘うことは出来ない。 今日もプラネタリウムで、星々に関する勉強をする。 「、足元はかなり暗いから捕まっていなさい」 「はい」 ”足元が暗い” それを隠れ蓑に、氷室はの手をしっかりとつなぐ。 それがまたにとっては嬉しかった。 先生・・・。 もっと強く手を繋いでもいいよ… プラネタリウムが始まってもふたりは暫く手を繋いだまま。 汗ばんだ氷室の手が、は妙に心地よく感じていた。 結局45分ぐらいの番組だったが、は氷室のことばかり考えて、過ぎてしまった。 朝早くから見に来たせいか、番組が終わっても、まだ10時。 お昼のは少しばかり早い。 今日のランチはもう決まっている。 いつものところだ。 いつものジャズバーのランチメニュー。 先生はコーヒーで、はレモネード。 レモネードはすっかり、にとっては定番の飲み物になってしまった。 「零一さん、まだ時間がありますよね、お昼まで」 「そうだな」 時計を生真面目に見ると、氷室はそうかとばかりに頷く。 「少しだけ、公園通りのブティックソフィアについてきて欲しいんです?」 「ブティック。俺が?」 少し戸惑ったような表情を、氷室はすると、困ったようにを見た。 「もう直ぐコートが要る季節になりますから、奮発して買っちゃおうと思うんです。今のは大分と擦り切れてきましたから、母と相談して、私もバイト代入ったので、それを合算して、いい物を買おうと思います。先生に見立ててもらいたくて…」 すがるようなの眼差しには、流石の零一も弱い。 惚れた弱みというものである。 しょうがないとばかりに溜息を吐くと、氷室は深く頷く。 「しょうがない。社会見学の一貫だ。着いていこう…」 余り乗り気でないのは、その言葉じりで判る。 だが、は充分に幸せで、嬉しくてついつい氷室に抱きついてしまう。 「零一さんっ!! 嬉しい〜」 「や、やめなさいっ」 ここはプラネタリウムの真ん前。 誰が見ているか判らないせいか、氷室はうろたえるばかりだ。 「ねえ、行きましょう!」 「ああ」 氷室は苦笑しながら、公園通りまで、恋人のために車を走らせた----- が良く使う、ブティックソフィアは、愛らしい少女らしい服が多い。 氷室の好みにも合致し、もちろん、彼女はここで服を買いそろえている。 「もう買うコートはきめているのか?」 「大体はめぼしをつけてるんですけど、色がイマイチ決めかねているんです」 は目星をつけているコートに向かっていき、じっと見つめて二つの色を出す。 キャメルとブラウン。 「零一さん、どっちが良いですか?」 二つのコートをとっかえひっかえ自分の前には重ねて、氷室に見せている。 氷室は考えるかのように目を細めると、直ぐに指を指した。 「これだ」 即答。 それが実に氷室らしい。 彼が選んだのは、キャメル色の優しい色合い。 「じゃあ、これにしますね!」 にこりと笑うとはレジに向かって行く。 ふと、アクセサリー売り場に目が行った。 氷室は、コートと同じ素材で出来ている、手袋とマフラーを見つけ、柔らかく微笑む。 それを手に取ると、が行ったのとは逆方向にあるレジに向かった------ 「零一さん??」 レジを終えてが戻ってくると、まだ氷室は戻ってはいなかった。 きょろきょろと辺りを見ていると、氷室がゆっくりと戻ってくる。 「待たせたな。行こう」 「はい」 車が止めてある駐車場まで、二人はゆっくりと歩いていく。 「…」 「はい?」 急に名前を呼ばれたかと思うと、突然目の前に袋を出される。 「-----少し早いクリスマスのプレゼントだ」 少し照れくさいらしく、硬い声が僅かに上ずっている。 「有難うございます!!! ・・・・開けて良いですか?」 「ああ」 渡された紙袋を、は丁寧にあける。 中味を覗き込み、彼女は声にならない声を上げた。 「先生…」 中味はコートと同じ素材のカシミアのマフラーと手袋。 コーディネートはこれで完璧だ。 「・・・またコートと一緒に身に付けてくれ…」 「先生!!」 嬉しくて堪らなくて、泣き出しそうになったを、氷室は苦笑してそっと肩を抱く。 「ほら、また綺麗なところを見せてくれ」 「はい…」 涙を拭いて、は笑うと、顔を上げた。 「さあ、レモネードを飲みに行こう」 「はいっ!」 幸せの微笑を浮かべながら、は大きく頷いた------ |
コメント 夕暮れとさりげなく続いています(笑) |