やっぱりフィーリングはいい方が…。解決?ヨタハチ都市伝説シリーズ 第1弾 エンジンの圧縮比を変える

ホームページの更新がままならないのは、ひとえに44ヨタハチが帰ってこないからに他ならない。だがしかし、このまま何もやらないでいる、いやミニエースについてはいやというほどやっているのだが、ヨタハチのことについて書かないのもどうかと思うので、このトピックスの中で新シリーズを開始することとした。題して、解決?ヨタハチ都市伝説シリーズである。

生産されてからもう齢50年にもなろうというトヨタスポーツ800。50年と言えば織田信長だったら死んでいる時間の長さである。時間の経過とともに人も移り変わり、それに伴って事実が捻じ曲げられたり、昔の人が洒落でいっていたことが定説になっていたりと、ヨタハチにまつわる無責任な流言飛語の類は枚挙に暇がない。しかし、ヨタハチは機械である。人は嘘でごまかせても機械はごまかせない。それらいわゆるヨタハチ都市伝説を傍証と筆者の経験を交えて解決できたらいいなぁというスタンスで考えて行こうという企画である。第1弾はエンジンの圧縮比にまつわるヨタハチ都市伝説である。

50台もヨタハチが集まればそのうち40台はパプリカ、ミニエースのエンジンが載っているというのは今やレイザーラモンRGでも一番早く言いたいヨタハチあるあるである。二番目に言いたいヨタハチあるあるは油温計が動かないだから、全てはこのエンジンが原因だ。最初はそれでもいいかもしれない。しかしイベント参加を重ねれば重ねるほどあれだけ見せたがっていたエンジンルームがだんだん見せたくなくなってくる。その最たる原因はエンジンがオリジナルの2Uではないということだ。一言「エンジンはミニエースなんですね」と言えばいい。ヨタハチオーナーを殺すには刃物はいらぬ。そうなれば、普段潜在的に感じていた不満が表面化する。パワー不足。非力さを語るヨタハチオーナーはオリジナルのエンジンを載せている車を持っていない、というのは至極当然だ。だってパワー不足なんだから。

とはいえなかなかオリジナルのエンジンを入手するのは難しい。そうなるとルックスは仕方ないが、乗っているときのフィーリングはせめてオリジナルに、ということで生半可な知識を味方にエンジンいじりに着手してしまう。カムシャフト、フライホイールなど、2U専用部品をなんとか集めたとしていよいよエンジンを分解してエンジン部品を加工に出す。そこでひとつ大きな落とし穴、ヨタハチ都市伝説がある。パプリカ、ミニエースのエンジンからヨタハチ用の2Uに圧縮比を上げるには、シリンダーのクランクケースと合わさる部分を削ってやればいい。パプリカ、ミニエースのシリンダーを2ミリ削って、シリンダーの長さは107.5ミリにする、という都市伝説である。

この107.5ミリ、正確にどこからどこまでの寸法かおさらいしておこう。シンリダーの下面はクランクケースとの合わせ面、差し込むスリーブ状になっている先ではない。上面はシリンダーヘッドとの合わせ目。こちらは本当に一番上にくるところで冷却フィンが始まっているところではない。ちなみに、パブリカ、ミニエース用のエンジン、2U-B、2U-Cに使われているシリンダーの長さは109.5ミリ。この寸法で8.2という圧縮比を出している。このエンジンは第一義にはこのシリンダーの長さを変えて圧縮比を変えているのであるが、さて、ヨタハチのオリジナルエンジンである2Uはこのシリンダーの長さがいくつかといえば、108.5ミリ。これで圧縮比が9である。実物を計ったこともあるし、そんなことをしなくてもトヨタスポーツ800の新車解説書をみればちゃんと108.5ミリと書いてある。つまり、結論としてはパブリカ、ミニエースのシリンダーを削ってヨタハチの仕様にするには、1ミリ削って108.5ミリにすればいいことになる。

この1ミリの誤差は非常に大きい、実際に107.5ミリに削ったシリンダーを組んでエンジンを回したらどうなるか。回した瞬間ピストンの頭がシリンダーヘッドを叩きいやな金属音を発する。そのまま使えばすぐに壊れることになる。バルブがすぐに当たりそうだがピストン側に逃げがあるので、かろうじてバルブクラッシュはしないのが救いだ。じゃあ、ギリギリピストンが当たらないで最高に圧縮比を稼げる寸法はどれくらいかというと、いろいろな文献を参考に実験をした結果は108ミリ。つまり2Uのノーマルから0.5ミリの研磨まではいけそうである。ただし、寸法も圧縮比もギリギリなのでおそらく長持ちはしないエンジンになると思う。いつバルブなりピストンなりが何かの拍子に当たってもおかしくはない。

じゃあこの107.5ミリという寸法、どこから出てきたのかいろいろと調べてみた。目にできる資料からであると、創刊当時に近い古いノスタルジックヒーロー誌のQ&Aのコーナーにこれと同じことが書いてある。この記事にははっきりと107.5ミリと書いてある。全く罪作りだ。おそらくこの当時、生半可な知識しか持たないヨタハチオーナーに、これまた不明な雑誌記者がオーナーが言うんだから俺は知らないよという無責任なスタンスで記事にしてしまった結果がおそらくこれである。そして今度はこのいい加減な記事を根拠にエンジンを加工に出してみたものの、できたエンジンはパッカンパッカン音ばかりうるさいのエンジンが出来上がり。いっそその場ですぐに壊れてしまえば間違えに気が付くだろうに微妙にクリアランスがあるものだからなかなか壊れず。実際に壊れるのは結構時間がたってから、ということでこの寸法の間違えにはついぞ気づかずに車はおしゃかになったというパターンだろう。

そうなるとますます107.5ミリという寸法はどこから来たのかと思うのである。ここからは筆者の推測、というか仮説に近いので研究が必要なところではあるが、もしかすると他車種のエンジンに使われている純正ピストンを利用してヨタハチ用純正のオーバーサイズピストンを使ってできるよりもはるかに大きいボアアップをする際に必要なノウハウが一人歩きした結果ではないかと思っている。そのピストンと2U用のピストンを比べると、ピストンピンからピストンクラウンまでの長さが2U用よりも他社種のピストンが1ミリ短ければ、こういう加工が必要になるのは合点がいく。そうしているうちに仕上げ寸法だけが先行して、それが果たして大きくボアアップした時の寸法なのか、パプリカ、ミニエースのエンジンで2U仕様のエンジンを作る時の寸法なのか混同するようになり、結果現在では107.5ミにすればオリジナルのエンジンと同じ圧縮比になるという都市伝説に発達したのではないかと思う。

ちなみにパプリカ、ミニエースのエンジンのシリンダーをベースに2U仕様のシリンダーを作ったとしても実はまだ問題がある。ご存知の通り、このシリンダーにはクランクケースに差し込むようになっているスリーブ状の部分があるが、2Uオリジナルのこのスリーブ部分はシリンダーの長さに合わせて1ミリ短くなっている。大して影響はないとは思うが、その分が長く入ることになる加工済シリンダーを使った場合、シリンダー内壁の潤滑に影響はないのか少し不安なところでもある。

信じるか信じないかはあなた次第。
2013/2/11